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そして・・・



「おいしぃ・・・ムカつくけど、おいしぃ・・・。」



砂川さんの頭の中をどうにかしようと必死になった結果、物凄く疲れた。
私が必死になっている間に砂川さんは型に流し入れた茶色い液体をオーブンに入れ、ダイニングテーブルに行くでもなくオーブンの前でずっとブラウニーを見守っていた。



嬉しそうな顔でブラウニーを見守る砂川さんに私が必死に口を開き続ける間中、キッチンの中には甘い香りが充満していった。



その甘い香りを嗅ぎ、“やっぱり食べられそうにない”とも思っていたのに・・・



ダイニングテーブルに着き、焼き立てのブラウニーをもう一口食べてみた。



「甘いけど変な甘さじゃないし、なんか身体に良さそうな味がする・・・。」



「豆腐と卵と米粉とハチミツ、それと純ココアで作ったからね。
・・・うん、良かった、美味しく出来てる。
冷えてるのも美味しいよ。」



砂川さんの頭の中をどうにかしようと必死になり、ヘトヘトに疲れた。
だからか砂川さんに促されるままダイニングテーブルに着き、ネコのマグカップに注がれたホットミルクティーの隣に置かれたブラウニーも食べてしまった。



“疲れた時は甘い物が1番だよ。”



なんて言葉に釣られ、昔は絶対に口にしなかったけれど、砂川さんがボウルに入れていた材料はどれも気になる物がなくて。
甘い香りはするけれど“試しに食べてみよう”と思える食材ばかりだったから。



「俺、昨日は一睡もしていないから身体に沁みる。」



「砂川さんって睡眠時間は大切にする人だったのに、どうしたの?」



「俺が寝ている間に純愛ちゃんがいなくなるかもと思うと心配で、夜が明けるまで1人で花見をしてたよ。」



「そんな変な心配をさせてたなら申し訳ないくらい、私は久しぶりに爆睡しちゃった。
昔の敷き布団も高いやつだからか凄く良く眠れたし、今のベッドも凄いね。
始発で帰ろうと思ってたのに全然無理だった。」



「生理が始まったばかりなのに顔色も悪くないから良かった。
昔はよく真っ青な顔で社内にいたから。」



「生理痛はあるけど貧血っぽい感じはないかな。」



ブラウニーをペロリと完食し、私のマグカップでホットミルクティーを全て飲んだ。



食べる物も飲む物も全てなくなり、私のマグカップをゆっくりとテーブルに置いた。
そしたら、そのタイミングで砂川さんもマグカップをテーブルに置いたのが分かり、視線を砂川さんの方に移すと砂川さんのブラウニーもなくなっていた。



「私って食べるのも飲むのも早いんだよね。」



「俺もよく言われる。」



「「時間が勿体無いから。」」



2人でそんな言葉が重なり、それには自然と笑ってしまった。



「佐伯さんがめちゃくちゃ遅くてビックリした!!」



「俺も驚いたよ。
でもあれ、演技だよね。」



「え!!!?演技なの!!?」



「経理部の飲み会では普通に食べてるからね。」



「そうなんだ・・・。
何で食べるのを遅くしてたんだろう。」



疑問に思いながら私の彼氏である佐伯さんの姿を思い浮かべる。



「佐伯さんは純愛ちゃんの彼氏としてずっといるつもりはないんだろうね。」



「それは・・・うん・・・。」



“女の子の純愛ちゃんのことを本気で愛してくれる男が現れた時、私が純愛ちゃんの命も身体も純愛ちゃんに必ず返すから。
それまで純愛ちゃんの命と身体は私が大切に仕舞っておく。”



佐伯さんが私に渡してくれた言葉を思い出し、両手でこの胸を押さえる。



「純愛ちゃんが自分と一緒にいる時間に違和感を残したいのかもね。
純愛ちゃんが女の子である佐伯さんとずっと一緒にいない為に。」



「私の命も身体も佐伯さんからいつか返されちゃうんだよ・・・。
寂しいな・・・。」



「凄い“愛”だよね、あれは。」



砂川さんの言葉に砂川さんの顔を見ると、優しい顔で砂川さんは笑っている。



「まさに“純愛”だよね。」



昔私が砂川さんに渡していた“純愛”よりも遥かに深い佐伯さんからの“純愛”を感じ、自然と笑いながら頷いた。



「私の命も身体も佐伯さんが大切に仕舞ってくれているから大丈夫。
砂川さんからめちゃくちゃ傷付けられても昔より全然大丈夫。」



「“私のことは気にしないで”という言葉も貰えたからね。
純愛ちゃんのことは気にせずこれからも絡み続けるよ。」



「・・・いや、あれはそういう意味で言ったんじゃないんだけど。」



「“もういいよ”っていう、昔のことに対するお許しの言葉も貰えたからね。
良かった良かった。」



「全然許してないから・・・!!!
それもそういう意味じゃないって!!!」



「俺って頭の中がヤバいらしいから、純愛ちゃんが今何を言っているのか全く分からない。」



とぼけた顔で砂川さんが首を傾げていて、それには慌てて立ち上がった。



「帰る!!ご馳走様でした!!」



「家まで送っていくよ。」



「いらない!!
一睡もしていない人の運転とか怖いから!!」



「そうか、電車だね?」



砂川さんはサッと立ち上がり、私の荷物を全て手に持った。



「行こうか。」



ムカつくくらいの営業スマイルをしてきて、それには文句を言いまくる。



「マジで・・・!!!!
頭の中ぜっっったいに変だって!!!!」



「うん、変で良かったよ。
普通の頭だったらこんなに純愛ちゃんに対して頑張れないだろうし。
純愛ちゃんからの拒絶反応が凄すぎて。」



「当たり前じゃん!!
私がしっかりと拒絶しないと!!!」



「どこをどう見ても俺のことが好きなのに拒絶してる所が可愛いよね。」



「・・・・・はあ?キモッ。」



「田代君にしか出さなかったそういう所を俺にも出してくれて嬉しいよ。
やっぱりずっと長く一緒にいるなら、嘘や隠し事ばっかりだと疲れるだろうし。」



「話が全然通じなくて私の方が疲れるから!!」



「そしたらまた俺の所においで?
今度はチーズケーキを焼くよ。」



「もう行くわけないじゃん!!!」



「そろそろあの花も咲くよ?」



砂川さんの家の扉を出て、門からも出た。



「佐伯さんも一緒に花見をしようか。」



それは少しだけ“良いかも”とその提案に頷いてしまいそうになり、慌てて首を横に振った。



そしたら・・・



「佐伯さん、日曜日にごめんね。
次の休みに俺の家で純愛ちゃんと一緒に花見をしない?」



驚くことに、砂川さんが佐伯さんに電話をして・・・



砂川さんが持つスマホの向こう側からは、佐伯さんの嬉しそうな声が小さくだけど聞こえた。



それには下腹部もおまたも更に痛くなったように思って。



そしたら・・・



手ぶらな私の手を砂川さんにキュッと握られ優しくその手を引かれたかと思ったら、砂川さんが車庫の方に足を進めていく。



それに抵抗をしようとしたのに、砂川さんは私よりも先に口を開き・・・



「佐伯さんからも言ってくれないかな?
純愛ちゃん、生理痛が酷いのに車じゃなくて電車で帰ろうとしていて。」



そんなことを佐伯さんにチクッていて、スマホを私に向けてきた。



『純愛ちゃん!!
砂川さんに車で送って貰いなね!!』



私の命も身体も持っている私の彼氏である佐伯さんからそう言われてしまった。



「使えるモノは使わないとね。」



スマホを仕舞った砂川さんが満足そうに笑い、助手席の扉を開けた。








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