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「このまま終わるのは嫌だ。」



砂川さんからのそれを聞き、負傷している穴がジンジンと痛んでいくのにも気付く。



「私の性別は女なんだよ・・・?
家の鍵を渡してそんなことも言ってきて・・・何をしてるか分かってる?」



「それは勿論分かってる。
俺は純ちゃんのことが“人”として凄く好きだから。」



「“人”としてね。」



「本当の意味で女の子としてという意味は俺には分からないけど、でも俺は純ちゃんとセックスがしたいと思ったし実際にセックスをした。」



砂川さんが上半身を起こし、私の手に向かってまだ鍵を渡そうとする。



「俺は純ちゃんとセックスが出来る。
他の男には出来ないセックスが俺には出来た。
だから普通の友達には戻りたくない。」



砂川さんが真剣な声で、真剣な顔に見える顔でそう伝えてくる。



「気持ち良くなりたいからとかそんな軽い理由で俺は純ちゃんとセックスをしたわけじゃない。」



「それは分かります・・・。」



「うん・・・。」



私のことを真っ直ぐと見詰める砂川さんの目が少しだけ揺らいだように見えた瞬間、砂川さんは下を向き鍵を持つ手も下に下ろした。



「俺のこの気持ちをどう伝えれば良いのかこれ以上は全く分からない・・・。
これ以上どう説明をすれば純ちゃんが俺の所に来てくれるようになるのかが全く分からない。」



下を向いた砂川さんが小さく笑いながら呟いた。



「“普通”はどう言うんだろう。」



“そういう人”である砂川さんがもっと下を向き、身体を小さくさせた。



「“普通”の男はこういう時にどうするんだろう。」



身体を小さくさせ、深く俯く砂川さんの横顔を眺めていたらフッ─────...と思い出した。



“俺は付き合う女の子としかセックスはしないよ。”



急に私の所に戻ってきてしまったその言葉。



それを思い出し、“そういう人”と言われてしまう砂川さんことを眺める。



私も“普通”ではないけれど砂川さんも“普通”ではないのだと改めて思う。



私のことを“女の子”として“好き”とも言えず、私と“付き合いたい”という言葉も浮かんでくることがないくらいに砂川さんは“そういう人”。



「鍵は受け取らなくて構わない。
また俺の所に戻ってくるという約束もいらない。
だからたまに・・・純ちゃんが疲れた時に・・・沖縄に行く時間も費用もない時とか・・・そういう時にでも、俺の所に戻ってきて欲しい。
ここは部屋も沢山あるし美味しい料理も出てくるし、中庭もあるから・・・あと、純ちゃんが望むならセックスも出来る男がいるから。」



小さな小さな声で砂川さんが言って・・・



「1つ付け足すと、“普通”ではない“残念な男”でいいならいるから。」



そんなことまで言い出してしまった砂川さんには自然と笑ってしまった。



自然と笑い続けたまま、下に下ろしていた砂川さんの手から鍵をスッと抜き取る。



それに驚いた顔の砂川さんが私の顔に視線を戻してきて、私は大きく笑いながら口にした。



「私も“普通”の女ではないので、“普通”じゃない男も嫌いではありません。
それに私の兄も“残念な兄”なので、“残念な男”には慣れています。」



私のことを“女の子”として“好き”とも言ってくれず、私と“付き合おう”とも言ってくれることはなかった砂川さん。
そんな砂川さんに私からそれらを言えるくらい私は女の子にはなれない。



でも、これで良いと思った。



砂川さんも私も“普通”ではないから、“普通”ではない恋愛でも“普通”ではないセックスでも、“普通”ではない付き合い方でも良いと思った。



ジンジンと痛みまくる穴を感じながら、さっきまでは複雑な“喜び”だった感情に温かい気持ちが重なっていく。



「また疲れたら砂川さんのトコロに戻ってくるね。
ここって凄く居心地が良いから。」



あんな最悪な状態から何度も戻ってきた砂川さんのトコロ。



“そういう人”である砂川さんが砂川さんなりに必死に渡そうとしてくれた、私への砂川さんらしいとも言える“愛”。
そこに“恋”はないということは分かるけれど、私に何の見返りも求めなかったその“愛”は嫌いではなかった。



嫌いではなかったし・・・



「ありがとう、純ちゃん。」



私のことを“純ちゃん”と呼び嬉しそうに笑う砂川さんの顔は“好き”だと思う。



やっぱり、“凄く好き”だと思う。



“何度も何度も砂川さんのトコロに戻って良かった”と、心からそう思う。







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