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砂川さんにそう言われてしまったことにはショックを受ける。
でも、それ以上に・・・



「相川さん、笑いたいなら笑って良いですから。」



テーブルに突っ伏してまで笑いを堪えている相川さんにそう声を掛けると、砂川さんはそのままの態勢で爆笑し始めた。



「砂川さん、それはないっすよ・・・!!
そこは“うん”くらい言っておきましょうよ!!」



爆笑しながらもそう言って、爆笑したまま顔を上げた。



「“財務部の砂川さん”といったら、“あの砂川さん”ですよね!」



“そういう人”である砂川さんのことを相川さんまで知っているらしい。



「ここの財閥の分家のオッサンが俺に何度も言ってきたんだよ。
“そんなに文句が言いたいなら財務部にいる砂川くらいの家に生まれて来るんだったな!”って。」



楽しそうな顔で笑う相川さんは砂川さんのことを観察しているような目になった。



「砂川さんもあのオッサン連中に文句を言いまくってたらしいですね!!
大地主の家の息子だとあのオッサン連中のことも黙らせることが出来ましたか!!」



「俺は文句など言っていない。
至極当然のことを言っただけ。」



「うける・・・!!!」



爆笑しながら砂川さんのことを指差し、私に向かって爆笑してきた相川さんのことについて口にする。



「相川さんだって相川薬品の分家の人じゃん。
秘密にしてないで言っちゃえば良かったのに。」



「そうなんですか?相川薬品の・・・。
ですがあそこは世襲制を終わらせ外部の方が代表に就任しましたからね。
ここの財閥の分家の人間達にはそれがバカなことに見えるでしょうし、言ったところで攻撃の材料を増やすだけになりそうですね。」



「え、そうなんですか?
相川さんの報告書に勝手に書いちゃった、すみません。」



「隠してたわけではないから別に良い。
俺は自分自身が相川薬品の家の人間だということを海の向こうに行ってからすっかり忘れてただけ。」



相川さんが楽しそうに笑い続けたままそう言って、私のざる蕎麦に視線を移した。



「純!!交換とまでは言わないから一口だけでも食わせて!!!」



「残りを全部あげますよ。
よかれと思って報告書に相川薬品のことを記載しましたけど、結果的に余計なことになってしまったと思いますので。」



「お前マジで良い奴だよ!!!
色々ありがとな!!!」



砂川さんもいるからか“色々”と濁した相川さんにざる蕎麦を渡し、私も自然と笑い返した。



そんな私に相川さんは優しい笑顔を向けてくれる。



「疲れたらいつでも俺の所に遊びに来いよ。」



「いいんですか?」



「仕事終わりでも土日にフラッとでも、疲れた時はいつでも遊びに来い。
財布とスマホだけあれば良いように俺の家に泊まれる準備をしておいてやるから。」



「彼女さんは大丈夫なんですか?」



「確かに・・・。
俺の彼女、純と会ったらどうなるか・・・。
お前って日本人の女限定で惚れさせるの?」



「さあ、どうでしょう。
相川さんの家に遊びに行った時にそれが分かりますね、凄く楽しみです。」



写真で見せて貰った相川さんの彼女さんは白人の金髪美女。
向こうの大学で一緒だったらしく、日本に戻る相川さんについてきてしまったくらいに相川さんのことが大好きなのだと分かる。



「やっぱり今の発言は取り消す!!
俺がこっちに戻ってきた時にお前に連絡するから!!」



「え~、遊びに行かせてくださいよ!
私って頑張り屋なのでよく疲れちゃうもん。」



「いやいやいや、純は疲れ知らずなはずだって!!
お前ならマジで大丈夫だって!!」



砂川さんから昼ご飯に誘われた時はどうなるかと思ったけれど、相川さんのお陰で楽しい昼休みの時間を過ごすことが出来た。



「純、元気でな。」



「うん、相川さんも。」



出会ってたった数日で友達になれた私達。
相川さんがいなくなってしまうのは“寂しい”と思うのに、それを口に出来るほど私は女の子ではなかった。
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