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「俺の奢りなんだから蕎麦じゃなくてもっと高い物頼むだろ。」



相川さんの隣に座った私のトレーを見て、相川さんがまた文句を言ってくる。



さっきから何度も言ってくるけれど、今回は・・・



「でも久しぶりに蕎麦を見たらすげー旨そう。
そういえばこっちに戻ってきてから蕎麦って食べてない。
・・・・すっかり忘れてたけど、そういえば俺って蕎麦好きだった!!」 



私の蕎麦を見ながらそんなことを言っていて、「交換しませんよ」とハンバーグセットを頼んだ相川さんに一応言っておく。



私の目の前の席に砂川さんが座るのだと考えると、蕎麦以外の物が喉を通りそうになかった。



「砂川さんも蕎麦ですか、ここの蕎麦旨いんですか?」



「そんなに美味しくはない。」



「俺のハンバーグと交換します?」



「そのハンバーグよりは蕎麦の方がまだ美味しいから交換はしない。」



私が食べていた不味いと有名なくらい不味いうどんと交換してくれたことがある砂川さんが相川さんにはすぐに断った。



「ここの社食は安いのに結構美味しいって聞いたから最後にと思ってここに来たけど失敗だったか。
悪かったな、純。
好き食べ物なんだよ?
今日の夜にでもちゃんと旨い店で奢るから!」



「ざる蕎麦で充分ですから。
砂川さんはこう言っていますけど、ここのざる蕎麦は美味しいですよ。」



何度かざる蕎麦を食べたけれどいつも味がしないざる蕎麦のことをそう説明した。



「そうか、純がそう言うなら・・・・・って、いやいやいやいや・・・!!
ハンバーグめちゃくちゃ旨いじゃねーか!!!」



相川さんのテンションが上がり、私にハンバーグがのったお皿を向けてきた。



「ここのハンバーグ食べたことあるか?
ないなら食べてみろよ、すげー旨い。」



「ないけどいらないです。
今日は蕎麦の気分なので。」



「園江さんは麺類が好きなんだよね。
うどんと蕎麦を食べてる所しか見たことがない。」



「いや、麺類は別に普通。」



砂川さんにそう答えてからざる蕎麦を一瞬だけ噛み、すぐに喉に通した。



「ろくに噛まないでも飲み込めるから麺を選んだだけ。」



「お前、その顔でそういうこと言うなよ!」



砂川さんが何故か怒ってきて・・・



「すげー今の格好良かったじゃん!!
“ろくに噛まないでも飲み込めるから麺を選んだだけ・・・キリッ。”」



“キリッ”とした顔で私の言葉を私の声に似せているのか何なのか、そんな感じでこんなことをしてきた。



それには思わず大きく笑ってしまう。



「いつもそうやって笑ってろよ。
俺よりもイケメンな顔で神妙な顔をしてるとマジで雰囲気出すぎるから。
女はニコニコ笑ってるのが1番可愛い。
ですよね!?砂川さん!!」



相川さんに聞かれた砂川さんは少し考えた様子になり、それからゆっくりと私の顔をマジマジと見てきた。



相川さんのお陰で“普通”に笑えている私の顔を。



「俺は可愛いとは思わない。」



昔から分かりきっていたことをわざわざ口にしてきた。
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