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「ああ、園江さんがどうとかいう話ではなくて。
男のここは排尿している場所だから汚いのと見た目も気持ち悪い。」



砂川さんが口にしてきた言葉には心がフッ────...と軽くなり、俯いたまま大きく笑った。



「私も同じことを思っていました。
女のここも普段排泄をしている場所のすぐ近くですから普通に汚いですし、見た目も気持ち悪いですよ。」



「そういえばシャワーも浴びなかった。」



「砂川さんが凄く急いでたんじゃないですか。
まあ、私はシャワーとか思い付きもしませんでしたけど。」



「1つ付け足すと、シャワーを浴びたところで汚いのも気持ち悪いのも全く変わらない。」



「少しは綺麗になるんじゃないですか?
砂川さんシャワー浴びてきます?
そしたら私が触っても大丈夫ですか?」



「今日は射精の必要がない日のようだから何をしても下半身は反応しない。
仕方がないから諦めることにする。」



「諦めるって?」



「園江さんとの関わりが終わりになることを。」



思わず顔を上げてしまいそうになる。
それをグッと我慢し、膝の上にのせていた両手を強く握り締める。



「私は諦められません。」



そう言って嘘をつく。



「私は性欲が男並に強いんです。」



どんな嘘でもついてみせる。



「ここまできてエッチが出来ないなんて嫌です。」



“砂川さんとの関わりが終わってしまうのは嫌です。”
その言葉は飲み込み嘘を並べていく。



「私の下半身だけ準備をさせて、“やっぱり出来ない”は酷いですよ。」



「うん、本当に申し訳ない。」



砂川さんがまた謝罪し、私の視界から両足は消えていった。
そしてまたすぐに戻ってきたかと思ったら・・・



私の視界には“何か”が入ってきた。



その“何か”が何なのか分かり、私は声を漏らしながら涙を流してしまった。



「それで足りないならまた明日渡すから。」



私の目の前に置かれたのは数枚のお札だった。
暗いから何枚置かれているかまでは分からないけれど、結構な枚数が置かれている。



「お金なんていらないです・・・。
砂川さん、私エッチがしたい・・・。」



「うん、本当にごめんね。
あのまま終わりにしておけば園江さんに変に期待をさせることもなかったのに。」



「まだ・・・試していないじゃないですか。
私触ってみますから・・・砂川さんのモノ、触らせてください・・・。
全然汚くも気持ち悪くもないですから・・・。」



そう懇願をし、震えてしまう両手を砂川さんの方へ伸ばした。



絶対に顔を上げてしまわないよう、両手だけを砂川さんの元へと伸ばしていく。



そしたら・・・



「本当に男並なんだね。」



私の頭をまた鈍器で殴ってきた。



それにより私の両手はこれ以上伸ばせなくなり、静かに両手を下ろし、その両手で自分の下半身を確認した。
やっぱり一応男のモノはついていない下半身を。



「そんなに性欲が強いなんて園江さんは本当に男並なんだ。
性欲が全くないような俺には分からないけど、見る人が見れば園江さんがそうだって分かるのか。
だから多くの人が園江さんのことを男として見ているのかもね。」



絶対にそんな理由ではないのに砂川さんが妙に納得したような声を出している。
それをお札を見下ろしながら聞き、最後にもう1度言ってみる。



「そうです、私は本当に男並なんです。
エッチが出来るかもしれないとなった状況でエッチが出来なかったなんて、耐えられません。」



「うん、本当に申し訳ない。
明日追加分を渡すよ、いくらなら納得してくれる?」



「お金なんていりません・・・。」



俯いたままパンツを履き、ストッキングを履き、スーツのスカートを履いた。
それからブラウスの上にジャケットを着てブラジャーとキャミソールを手に持った。



それから顔を上げて号泣しながら口にする。



「お金なんていらないので私に二度と話し掛けないでください。
私に二度と顔を見せないでください。」



最後の最後に薄暗い部屋の中で砂川さんの裸を目に焼き付けながら叫んだ。



「二度と私のことを見ないでください・・・っ
二度と私の姿なんてその目に入れないでください・・・っっ」



初めて見たお兄ちゃん以外の男の人の裸は・・・砂川さんの裸は、綺麗だった。



ムカつくくらいに、凄く凄く綺麗だった・・・。



号泣しながら叫んだ私の顔を砂川さんは真っ直ぐと見詰めてきて、口を開いてきた。



それを見て私は素早く声を出した。



「二度と私に話し掛けないで。」



何故か砂川さんが苦しそうに顔を歪め、まるで傷付いたような反応をしてきた。



それには思わず嫌味を言う。



「土曜日のあの時、砂川さんに助けて貰わなければ良かった。
砂川さんの家になんてついていかなければ良かった。」



初めて男の人の前で裸になったのに指1本触れて貰えることのなかった自分の身体を自分で強く抱き締める。



そしたら・・・



裸の砂川さんが畳に置かれていたスーツのジャケットを私に無言で差し出してきた。



それを見て、私はすぐに声を出す。



「受け取るわけないじゃん。
バカじゃないの?」



自分で自分自身のことを抱き締めてあげながら最後に言う。



「バカは私か・・・。
私なんかと本当にエッチが出来る男の人なんているわけないのに、ついてきちゃった・・・。
喜んでついてきちゃった・・・・・っっ」



最後にそう叫んでから、鞄を忘れることなく手に取り早足で砂川さんの家を飛び出した。



飛び出した4月の夜はやっぱり寒かった。



もう、めちゃくちゃ寒くて死んだ。



こんなのめちゃくちゃ死んだ。



「会社辞めたい・・・・っ!!!」



いくら違う部署とはいえ砂川さんと同じ会社で働くことは出来そうにない。



「異動なんてしなければ良かった・・・っ!!!」



黒い空に向かって大きく嘆いた。
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