“純”の純愛ではない“愛”の鍵

Bu-cha

文字の大きさ
上 下
105 / 166
7

7-5

しおりを挟む
砂川さんについていき入った部屋は、土曜日に入れてくれたリビングではなく畳の1室。
そこに和風のタンスやドレッサーが置かれていて、私をその部屋の中に入れた砂川さんは押し入れを開けて布団を取り出した。



「ホットミルクティーは後で出す。
それよりも先にセックスをしよう。」



そんな言葉を言いながらワイシャツ姿の砂川さんがテキパキと布団を敷いていく。
それを呆然としながら眺めることしか出来ずにいる私に布団を敷き終えた砂川さんが振り向いてきた。



「園江さんの気が変わらないうちに早く済ませよう。」



まるで営業の契約かのような考え方には思わず小さく笑ってしまった。



「砂川さんは私とエッチなんてして大丈夫なんですか?」



“俺は付き合う女の子としかセックスはしないよ。”



またその言葉が私の頭の中に戻ってくる。



呆然としたまま砂川さんのことを見ていると、砂川さんはタンスの上に置いていた鞄の方へと歩き、鞄から“何か”を取り出しそれを私に見せてきた。



「避妊具は準備した。」



避妊の方の話になり私はそこまで考えていなかったので怖くなってしまった。
急に凄く怖くなってしまった。



「エッチをするって“そういうこと”だもんね・・・。
本当は・・・“そういうこと”の為にするんだもんね・・・。
お兄ちゃんと田代のお姉ちゃんは怖くないのかな・・・。」



小さく独り言を呟き、一歩後退った。



“やっぱりやめる。”



元々エッチをするつもりなんてなかったけれどそう口にしようとした瞬間、私よりも先に砂川さんが声を出してきた。



「もしも子どもが出来たらその時は勿論俺の責任だから。」



砂川さんが口にしてきたのはそんな言葉で、それには砂川さんのことを思わずちゃんと見た。



凄く真剣な顔をしている砂川さんの顔を。



「その時は園江さんがどうしたいか決めて構わない。」



「なんですか、それ・・・。」



「俺は園江さんの意見を聞くつもりでいる。」



「それじゃあ何を選んでも全部が私の責任ですね。」



「そうじゃない。」



砂川さんは大真面目な顔で私に近付いてきて、私の目の前に立った。



「園江さんの提案にのると決めたのは俺。
避妊をするとはいえ園江さんの中に入るのも俺。
でも子どもは俺の身体ではなく園江さんのお腹に宿るものだから、どうするかの決定権は園江さんにしかない。」



「そんなことはないと思いますけど・・・。」



「“普通”はどうなのか全く分からないけど、俺はそう思う。」



“そういう人”の砂川さんが力強くそう言ってきて、私は真面目に聞いてみる。



「私が産みたいって言ったらどうするんですか?」



「俺はそれに従う。
でも・・・」



砂川さんが真面目な顔のまま少しだけ顔をしかめた。



「園江さんが産まないと決めた時はよく話し合わせて欲しい。」



それを聞き・・・



私の顔は自然と笑ってしまった。



「砂川さんってやっぱりめっちゃ変なオジサン。」



泣きながら笑っている私に砂川さんはどこか安心したような顔になった。



そして・・・



「おいで。」



先に布団へと歩いていき私に“おいで”と声を掛けてくる。



その声に私の足はやっぱり自然とついていった。



不思議ともう怖くはなかったから。



砂川さんはやっぱりめっちゃ変なオジサンだけど本当に優しい人でもある。



私だってそれをもうちゃんと知っている。



だから怖いことにはならないと思えた。



“このまま終わりになってしまうのは嫌だと思った。”



砂川さんから言われた言葉に心の中で何度も頷く。



“私だってこのまま終わりになってしまうのはやっぱり嫌だ。”



心の中でそう言って、敷き布団の上にあぐらをかいて座る砂川さんの隣に静かに座ろうとした。



“そういう人”である砂川さんの隣に。



凄くドキドキとしながら座ろうとした時、見えた。



ドレッサーの鏡に私の姿が映ったのが。



砂川さんのスーツのジャケットを羽織っている私の姿・・・。



泣きすぎて化粧が全て落ちてしまった私の顔・・・。



小さな頃から嫌でも見てきた自分の姿をこんなタイミングで見てしまった。



だから・・・



電気にぶら下がっているすぐそこにあった紐を引き、電気を消した。



そしたら当たり前だけど部屋の中は真っ暗になった。



それに凄く安心した。



凄く凄く安心出来た。



男か女か分からないような私の姿は真っ黒になれた。



砂川さんからも“女”として認識されていない私は真っ暗になり見えなくなった。



こんなに安心出来ているのに何故かこんなにも泣きながら砂川さんの隣であろう場所に勢い良く座る。



私だって“普通”の女の子のように恋愛がしてみたい。
私だって“普通”の女の子のように男の人とエッチがしてみたい。
私だって“普通”の女の子のように男の人と結婚がしてみたい。



でも、やっぱり私にはそれらは出来そうにないから・・・



「私の性欲処理の相手になってくれてありがとうございます、砂川さん。」



必死に“普通”の声で砂川さんに伝える。



「子どもが出来たら私1人で育てます。」



“普通”ではない私が泣きながらも覚悟を持ってそう口にした。



そしたら・・・



「俺も一緒に育てたいんだけど。」



と、物凄く怒った声が聞こえて・・・。



「いいんですか・・・?」



「どういう形で一緒に育てるかはまたその時によく話し合おう。」



その言葉を聞けただけでも私の心はまたこんなにも喜んでいる。
“普通”の女ならどんな気持ちになるのか私には分からないけど、私は“普通”ではないから・・・。



だから“そういう人”である砂川さんの言葉に私はこんなにも喜んでいる。



でも・・・



やっぱり何でかこんなにも泣けてしまう。



やっぱり何でか胸が苦しいような気もする。



その理由が分からなくて、でもこれ以上考えることを放り投げてから、私の身体に纏っている全ての布も放り投げていく。



段々真っ黒ではなく少しの明かりが部屋の中にあることに気付きながらも、私は勢いに任せて裸になった。



私の隣で静かにスーツを脱いでいく砂川さんの気配も感じながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

【完】FUJIメゾン・ビビ~インターフォンを鳴らして~

Bu-cha
恋愛
マンション、FUJIメゾン・ビビ 201号室は、高級車の運転手の優男が。 202号室には、セクシーでゴージャスな女が。 隣人同士の普通ではない恋物語。 ※注意※ 202号室の女が大暴走しますのでラブシーン多め ベリーズカフェさんにて、恋愛ランキング最高11位の物語 関連物語 『ソレは、脱がさないで』 ベリーズカフェさんにて恋愛部門ランキング最高 12位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位 『経理部の女王様が落ちた先には』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高4位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 エブリスタにて恋愛ランキング最高9位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

記憶のない貴方

詩織
恋愛
結婚して5年。まだ子供はいないけど幸せで充実してる。 そんな毎日にあるきっかけで全てがかわる

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...