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砂川さんについていき入った部屋は、土曜日に入れてくれたリビングではなく畳の1室。
そこに和風のタンスやドレッサーが置かれていて、私をその部屋の中に入れた砂川さんは押し入れを開けて布団を取り出した。
「ホットミルクティーは後で出す。
それよりも先にセックスをしよう。」
そんな言葉を言いながらワイシャツ姿の砂川さんがテキパキと布団を敷いていく。
それを呆然としながら眺めることしか出来ずにいる私に布団を敷き終えた砂川さんが振り向いてきた。
「園江さんの気が変わらないうちに早く済ませよう。」
まるで営業の契約かのような考え方には思わず小さく笑ってしまった。
「砂川さんは私とエッチなんてして大丈夫なんですか?」
“俺は付き合う女の子としかセックスはしないよ。”
またその言葉が私の頭の中に戻ってくる。
呆然としたまま砂川さんのことを見ていると、砂川さんはタンスの上に置いていた鞄の方へと歩き、鞄から“何か”を取り出しそれを私に見せてきた。
「避妊具は準備した。」
避妊の方の話になり私はそこまで考えていなかったので怖くなってしまった。
急に凄く怖くなってしまった。
「エッチをするって“そういうこと”だもんね・・・。
本当は・・・“そういうこと”の為にするんだもんね・・・。
お兄ちゃんと田代のお姉ちゃんは怖くないのかな・・・。」
小さく独り言を呟き、一歩後退った。
“やっぱりやめる。”
元々エッチをするつもりなんてなかったけれどそう口にしようとした瞬間、私よりも先に砂川さんが声を出してきた。
「もしも子どもが出来たらその時は勿論俺の責任だから。」
砂川さんが口にしてきたのはそんな言葉で、それには砂川さんのことを思わずちゃんと見た。
凄く真剣な顔をしている砂川さんの顔を。
「その時は園江さんがどうしたいか決めて構わない。」
「なんですか、それ・・・。」
「俺は園江さんの意見を聞くつもりでいる。」
「それじゃあ何を選んでも全部が私の責任ですね。」
「そうじゃない。」
砂川さんは大真面目な顔で私に近付いてきて、私の目の前に立った。
「園江さんの提案にのると決めたのは俺。
避妊をするとはいえ園江さんの中に入るのも俺。
でも子どもは俺の身体ではなく園江さんのお腹に宿るものだから、どうするかの決定権は園江さんにしかない。」
「そんなことはないと思いますけど・・・。」
「“普通”はどうなのか全く分からないけど、俺はそう思う。」
“そういう人”の砂川さんが力強くそう言ってきて、私は真面目に聞いてみる。
「私が産みたいって言ったらどうするんですか?」
「俺はそれに従う。
でも・・・」
砂川さんが真面目な顔のまま少しだけ顔をしかめた。
「園江さんが産まないと決めた時はよく話し合わせて欲しい。」
それを聞き・・・
私の顔は自然と笑ってしまった。
「砂川さんってやっぱりめっちゃ変なオジサン。」
泣きながら笑っている私に砂川さんはどこか安心したような顔になった。
そして・・・
「おいで。」
先に布団へと歩いていき私に“おいで”と声を掛けてくる。
その声に私の足はやっぱり自然とついていった。
不思議ともう怖くはなかったから。
砂川さんはやっぱりめっちゃ変なオジサンだけど本当に優しい人でもある。
私だってそれをもうちゃんと知っている。
だから怖いことにはならないと思えた。
“このまま終わりになってしまうのは嫌だと思った。”
砂川さんから言われた言葉に心の中で何度も頷く。
“私だってこのまま終わりになってしまうのはやっぱり嫌だ。”
心の中でそう言って、敷き布団の上にあぐらをかいて座る砂川さんの隣に静かに座ろうとした。
“そういう人”である砂川さんの隣に。
凄くドキドキとしながら座ろうとした時、見えた。
ドレッサーの鏡に私の姿が映ったのが。
砂川さんのスーツのジャケットを羽織っている私の姿・・・。
泣きすぎて化粧が全て落ちてしまった私の顔・・・。
小さな頃から嫌でも見てきた自分の姿をこんなタイミングで見てしまった。
だから・・・
電気にぶら下がっているすぐそこにあった紐を引き、電気を消した。
そしたら当たり前だけど部屋の中は真っ暗になった。
それに凄く安心した。
凄く凄く安心出来た。
男か女か分からないような私の姿は真っ黒になれた。
砂川さんからも“女”として認識されていない私は真っ暗になり見えなくなった。
こんなに安心出来ているのに何故かこんなにも泣きながら砂川さんの隣であろう場所に勢い良く座る。
私だって“普通”の女の子のように恋愛がしてみたい。
私だって“普通”の女の子のように男の人とエッチがしてみたい。
私だって“普通”の女の子のように男の人と結婚がしてみたい。
でも、やっぱり私にはそれらは出来そうにないから・・・
「私の性欲処理の相手になってくれてありがとうございます、砂川さん。」
必死に“普通”の声で砂川さんに伝える。
「子どもが出来たら私1人で育てます。」
“普通”ではない私が泣きながらも覚悟を持ってそう口にした。
そしたら・・・
「俺も一緒に育てたいんだけど。」
と、物凄く怒った声が聞こえて・・・。
「いいんですか・・・?」
「どういう形で一緒に育てるかはまたその時によく話し合おう。」
その言葉を聞けただけでも私の心はまたこんなにも喜んでいる。
“普通”の女ならどんな気持ちになるのか私には分からないけど、私は“普通”ではないから・・・。
だから“そういう人”である砂川さんの言葉に私はこんなにも喜んでいる。
でも・・・
やっぱり何でかこんなにも泣けてしまう。
やっぱり何でか胸が苦しいような気もする。
その理由が分からなくて、でもこれ以上考えることを放り投げてから、私の身体に纏っている全ての布も放り投げていく。
段々真っ黒ではなく少しの明かりが部屋の中にあることに気付きながらも、私は勢いに任せて裸になった。
私の隣で静かにスーツを脱いでいく砂川さんの気配も感じながら。
そこに和風のタンスやドレッサーが置かれていて、私をその部屋の中に入れた砂川さんは押し入れを開けて布団を取り出した。
「ホットミルクティーは後で出す。
それよりも先にセックスをしよう。」
そんな言葉を言いながらワイシャツ姿の砂川さんがテキパキと布団を敷いていく。
それを呆然としながら眺めることしか出来ずにいる私に布団を敷き終えた砂川さんが振り向いてきた。
「園江さんの気が変わらないうちに早く済ませよう。」
まるで営業の契約かのような考え方には思わず小さく笑ってしまった。
「砂川さんは私とエッチなんてして大丈夫なんですか?」
“俺は付き合う女の子としかセックスはしないよ。”
またその言葉が私の頭の中に戻ってくる。
呆然としたまま砂川さんのことを見ていると、砂川さんはタンスの上に置いていた鞄の方へと歩き、鞄から“何か”を取り出しそれを私に見せてきた。
「避妊具は準備した。」
避妊の方の話になり私はそこまで考えていなかったので怖くなってしまった。
急に凄く怖くなってしまった。
「エッチをするって“そういうこと”だもんね・・・。
本当は・・・“そういうこと”の為にするんだもんね・・・。
お兄ちゃんと田代のお姉ちゃんは怖くないのかな・・・。」
小さく独り言を呟き、一歩後退った。
“やっぱりやめる。”
元々エッチをするつもりなんてなかったけれどそう口にしようとした瞬間、私よりも先に砂川さんが声を出してきた。
「もしも子どもが出来たらその時は勿論俺の責任だから。」
砂川さんが口にしてきたのはそんな言葉で、それには砂川さんのことを思わずちゃんと見た。
凄く真剣な顔をしている砂川さんの顔を。
「その時は園江さんがどうしたいか決めて構わない。」
「なんですか、それ・・・。」
「俺は園江さんの意見を聞くつもりでいる。」
「それじゃあ何を選んでも全部が私の責任ですね。」
「そうじゃない。」
砂川さんは大真面目な顔で私に近付いてきて、私の目の前に立った。
「園江さんの提案にのると決めたのは俺。
避妊をするとはいえ園江さんの中に入るのも俺。
でも子どもは俺の身体ではなく園江さんのお腹に宿るものだから、どうするかの決定権は園江さんにしかない。」
「そんなことはないと思いますけど・・・。」
「“普通”はどうなのか全く分からないけど、俺はそう思う。」
“そういう人”の砂川さんが力強くそう言ってきて、私は真面目に聞いてみる。
「私が産みたいって言ったらどうするんですか?」
「俺はそれに従う。
でも・・・」
砂川さんが真面目な顔のまま少しだけ顔をしかめた。
「園江さんが産まないと決めた時はよく話し合わせて欲しい。」
それを聞き・・・
私の顔は自然と笑ってしまった。
「砂川さんってやっぱりめっちゃ変なオジサン。」
泣きながら笑っている私に砂川さんはどこか安心したような顔になった。
そして・・・
「おいで。」
先に布団へと歩いていき私に“おいで”と声を掛けてくる。
その声に私の足はやっぱり自然とついていった。
不思議ともう怖くはなかったから。
砂川さんはやっぱりめっちゃ変なオジサンだけど本当に優しい人でもある。
私だってそれをもうちゃんと知っている。
だから怖いことにはならないと思えた。
“このまま終わりになってしまうのは嫌だと思った。”
砂川さんから言われた言葉に心の中で何度も頷く。
“私だってこのまま終わりになってしまうのはやっぱり嫌だ。”
心の中でそう言って、敷き布団の上にあぐらをかいて座る砂川さんの隣に静かに座ろうとした。
“そういう人”である砂川さんの隣に。
凄くドキドキとしながら座ろうとした時、見えた。
ドレッサーの鏡に私の姿が映ったのが。
砂川さんのスーツのジャケットを羽織っている私の姿・・・。
泣きすぎて化粧が全て落ちてしまった私の顔・・・。
小さな頃から嫌でも見てきた自分の姿をこんなタイミングで見てしまった。
だから・・・
電気にぶら下がっているすぐそこにあった紐を引き、電気を消した。
そしたら当たり前だけど部屋の中は真っ暗になった。
それに凄く安心した。
凄く凄く安心出来た。
男か女か分からないような私の姿は真っ黒になれた。
砂川さんからも“女”として認識されていない私は真っ暗になり見えなくなった。
こんなに安心出来ているのに何故かこんなにも泣きながら砂川さんの隣であろう場所に勢い良く座る。
私だって“普通”の女の子のように恋愛がしてみたい。
私だって“普通”の女の子のように男の人とエッチがしてみたい。
私だって“普通”の女の子のように男の人と結婚がしてみたい。
でも、やっぱり私にはそれらは出来そうにないから・・・
「私の性欲処理の相手になってくれてありがとうございます、砂川さん。」
必死に“普通”の声で砂川さんに伝える。
「子どもが出来たら私1人で育てます。」
“普通”ではない私が泣きながらも覚悟を持ってそう口にした。
そしたら・・・
「俺も一緒に育てたいんだけど。」
と、物凄く怒った声が聞こえて・・・。
「いいんですか・・・?」
「どういう形で一緒に育てるかはまたその時によく話し合おう。」
その言葉を聞けただけでも私の心はまたこんなにも喜んでいる。
“普通”の女ならどんな気持ちになるのか私には分からないけど、私は“普通”ではないから・・・。
だから“そういう人”である砂川さんの言葉に私はこんなにも喜んでいる。
でも・・・
やっぱり何でかこんなにも泣けてしまう。
やっぱり何でか胸が苦しいような気もする。
その理由が分からなくて、でもこれ以上考えることを放り投げてから、私の身体に纏っている全ての布も放り投げていく。
段々真っ黒ではなく少しの明かりが部屋の中にあることに気付きながらも、私は勢いに任せて裸になった。
私の隣で静かにスーツを脱いでいく砂川さんの気配も感じながら。
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