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財務部の扉に入ろうとしていた1人の男の人、私よりも少しだけ年上に見える人に声を掛けた。
その男の人は私が“砂川さん”の名前を出すと凄く驚いた顔になった。
「営業部の園江さんだよね?
やっぱり砂川さん、園江さんにも何かしちゃった?」
男の人がそう言って、自分のスーツのジャケットを指差した。
「朝に営業部の男の子が砂川さんにジャケットを返しに来て。
その時に砂川さんが怒ってたんだけど、あんなに本気で怒ってる砂川さんのことを初めて見たからみんな驚いたよ。
驚いたし・・・」
男の人が私のことを上から下までサッと確認をしたのが分かった。
「園江さんみたいな子でも勘違いをするかもしれないから、あんまりそういうことを言わない方が良いのにとも心配してて。
砂川さんに用があるなら俺から伝えるよ。
どうかした?」
優しい顔で笑いながら言われ、私は必死に顔を作ってビニール袋をその男の人に差し出す。
「ここの社食のうどんが不味いって知らずにうどんを注文してしまって。
たまたま砂川さんがいて持っていた蕎麦と交換してくれたんです。
差額の20円を返すのもアレなのでお礼も兼ねた差し入れです。」
「差額は20円だね?
俺から返しておくから園江さんは気にしないで良いよ。」
男の人は私が差し出す袋を受け取ることなく続ける。
「砂川さんのことは何も気にしない方が良いよ。
あの人、仕事だと凄く出来る人なんだけどその他では恐ろしいくらい出来ない人だから。
仕事では俺の面倒を見てくれてる先輩だけど、その他のことについては俺がフォローするよう上司から言われててさ。
砂川さんって基本的には優しい人だから女の子達が勘違いしちゃうみたいで、そういう系のフォローが1番大変なんだよね。」
男の人が私のことを“可哀想に”という顔で見てくる。
「園江さんっていったら今1番話題の子だからね。
変に大事になると俺も困るからさ。」
私の中では既に大事になっているのを知らない男の人に必死に笑顔を作り、男の人の胸にビニール袋に入るチョコを押し付けた。
「これ、あなたに差し入れをしますので1つお願い出来ますか?」
「なに?」
ビニール袋を受け取らないこの人が不審な目で聞いてくる。
それにも笑顔を貼り付けたまま答えた。
「私は砂川さんと関わりたくないので私の存在を忘れるように言って貰えますか?
私の存在自体を砂川さんの中で消し去るよう、私の存在自体を砂川さんの中で終わりにするよう、伝えてください。」
私の言葉に男の人は凄く安心をしながら頷き、私が強く押し付けているチョコをやっと手に持った。
「あの営業の男の子が園江さんに酷いことを言っていたようだから、砂川さんが可哀想と思って園江さんに優しくしちゃったんだと思う。
園江さんなら男からより女からのセクハラの方が心配なくらいなのにね。」
「そうですね、私はこんな感じの人間なので。」
「だよね、砂川さんに言っておくよ。
園江さんの存在自体を砂川さんの中で終わりにするように伝えておく。
これ以上園江さんには関わらないようにしっかり伝えておくよ。
本社に来たばっかりで忙しいのにわざわざごめんね。」
男の人が心底安心した顔でチョコが入ったビニール袋を持ち、財務部の扉の中に入っていった。
その瞬間・・・
少しだけ、本当に少しだけ、砂川さんの顔がパソコンの合間から見えた。
仕事をしている砂川さんの顔を初めて見てしまい、ドキドキなんてしたくはないのにドキドキとしてしまった。
泣きたくなるくらいにドキドキとしてしまった。
息が出来ないくらいに苦しい胸を両手で押さえた。
そしたら扉が全て閉まる時、砂川さんがフッ─────...と顔を上げてこっちを見た。
私のことを見たような気がした。
私と目が合ったような気がした。
私の存在が砂川さんの中で消えてしまう前の今、最後に砂川さんから見て貰えた気がした。
その男の人は私が“砂川さん”の名前を出すと凄く驚いた顔になった。
「営業部の園江さんだよね?
やっぱり砂川さん、園江さんにも何かしちゃった?」
男の人がそう言って、自分のスーツのジャケットを指差した。
「朝に営業部の男の子が砂川さんにジャケットを返しに来て。
その時に砂川さんが怒ってたんだけど、あんなに本気で怒ってる砂川さんのことを初めて見たからみんな驚いたよ。
驚いたし・・・」
男の人が私のことを上から下までサッと確認をしたのが分かった。
「園江さんみたいな子でも勘違いをするかもしれないから、あんまりそういうことを言わない方が良いのにとも心配してて。
砂川さんに用があるなら俺から伝えるよ。
どうかした?」
優しい顔で笑いながら言われ、私は必死に顔を作ってビニール袋をその男の人に差し出す。
「ここの社食のうどんが不味いって知らずにうどんを注文してしまって。
たまたま砂川さんがいて持っていた蕎麦と交換してくれたんです。
差額の20円を返すのもアレなのでお礼も兼ねた差し入れです。」
「差額は20円だね?
俺から返しておくから園江さんは気にしないで良いよ。」
男の人は私が差し出す袋を受け取ることなく続ける。
「砂川さんのことは何も気にしない方が良いよ。
あの人、仕事だと凄く出来る人なんだけどその他では恐ろしいくらい出来ない人だから。
仕事では俺の面倒を見てくれてる先輩だけど、その他のことについては俺がフォローするよう上司から言われててさ。
砂川さんって基本的には優しい人だから女の子達が勘違いしちゃうみたいで、そういう系のフォローが1番大変なんだよね。」
男の人が私のことを“可哀想に”という顔で見てくる。
「園江さんっていったら今1番話題の子だからね。
変に大事になると俺も困るからさ。」
私の中では既に大事になっているのを知らない男の人に必死に笑顔を作り、男の人の胸にビニール袋に入るチョコを押し付けた。
「これ、あなたに差し入れをしますので1つお願い出来ますか?」
「なに?」
ビニール袋を受け取らないこの人が不審な目で聞いてくる。
それにも笑顔を貼り付けたまま答えた。
「私は砂川さんと関わりたくないので私の存在を忘れるように言って貰えますか?
私の存在自体を砂川さんの中で消し去るよう、私の存在自体を砂川さんの中で終わりにするよう、伝えてください。」
私の言葉に男の人は凄く安心をしながら頷き、私が強く押し付けているチョコをやっと手に持った。
「あの営業の男の子が園江さんに酷いことを言っていたようだから、砂川さんが可哀想と思って園江さんに優しくしちゃったんだと思う。
園江さんなら男からより女からのセクハラの方が心配なくらいなのにね。」
「そうですね、私はこんな感じの人間なので。」
「だよね、砂川さんに言っておくよ。
園江さんの存在自体を砂川さんの中で終わりにするように伝えておく。
これ以上園江さんには関わらないようにしっかり伝えておくよ。
本社に来たばっかりで忙しいのにわざわざごめんね。」
男の人が心底安心した顔でチョコが入ったビニール袋を持ち、財務部の扉の中に入っていった。
その瞬間・・・
少しだけ、本当に少しだけ、砂川さんの顔がパソコンの合間から見えた。
仕事をしている砂川さんの顔を初めて見てしまい、ドキドキなんてしたくはないのにドキドキとしてしまった。
泣きたくなるくらいにドキドキとしてしまった。
息が出来ないくらいに苦しい胸を両手で押さえた。
そしたら扉が全て閉まる時、砂川さんがフッ─────...と顔を上げてこっちを見た。
私のことを見たような気がした。
私と目が合ったような気がした。
私の存在が砂川さんの中で消えてしまう前の今、最後に砂川さんから見て貰えた気がした。
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