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「ミルクティーの方が良い?」
立派な座卓がある畳の部屋、その隣の空間には低めの布のソファーがあり、目の前には丁度良い高さの和風のテーブルまである。
このソファーに座るよう私のことを促した砂川さんはすぐに台所に向かってそう聞いてきた。
「ミルクティーは好きですけど甘いミルクティーは好きではなくて。」
「どういうこと?」
「紅茶にミルクだけを入れるのが好きなんです。
私は甘い物が苦手なので。」
「俺には全く分からない。」
「そこは“そうなんだ”で終わらせてくださいよ。
みんながみんな砂川さんと同じなわけないじゃないですか。」
「みんなが俺と同じなら俺は小言や嫌味を言われずもっと楽に生きられた。
俺からすると他の人達の方が普通ではない。」
「私からしてみたら砂川さんは普通ですよ。」
私の言葉に砂川さんは台所から私のことを振り向いてきた。
その姿を改めて見て何度も頷く。
「普通の男の人ですよ。
どこをどう見ても普通の男の人。」
「数分前に“めっちゃ変なオジサン”って言われた覚えがある。」
「めっちゃ変なオジサンだけど普通の男の人でもありますよ。
・・・あ、普通の男の人ではないか。
めっちゃ変なオジサンだけど普通の王子様ですよね。」
笑いながら本当のことを伝えると、砂川さんはまた背中を向けて何やら作業をしている。
ワイシャツ姿の砂川さんの後ろ姿は普通の男の人。
普通の女ではない私からしてみたら、砂川さんはどこをどう見ても普通の男の人でしかない。
布のソファーに座り、目の前にある大きなテレビに中に映る黒い姿の私を見る。
砂川さんのスーツのジャケットを羽織っている私の姿は男のようだった。
それも普通の男ではない。
自分でも思うくらい“綺麗で格好良い”男に見える。
そんな姿をしている私に小さく笑う。
「私こそ普通の女じゃないので。
今日の婚活パーティー、信じられないことに沢山のお姉さん方が選んだのはその会場にいた男達ではなく私でした。」
笑ったつもりでいたけれどテレビの中にいる黒い私の顔は少しも笑えていない。
「私、小さな頃から女の子達から凄くモテて。
本当に本気で私のことを好きなられて。
それも普通の好きじゃありませんよ、私に愛を渡そうとしてきます。
私は女だから受け取れるはずがないのに。
私は女だからそれに何かを返すことなんて出来ないのに。」
数分前に見た号泣するマナリーの姿を思い浮かべる。
「私に純愛を向けてくる。
何も返さなくていいからと、私に何も求めない純愛をくれる。」
私なんかと幼馴染みになってしまったマナリー。
あんなに可愛いマナリーをおかしな人生にしてしまっているのは私の存在のせい。
マナリーが言う通り私は酷い女でもある。
マナリーが私から離れないのではない。
私はマナリーが私から離れられないようにしている。
私のことを“女の子”として好きでいてくれているマナリーの存在に、私の心は少しだけ救われていた。
「私はこんな見た目ですけど心は女なんです・・・。
家族や友達に守られ、それでも疲れちゃうくらい心は女なんです・・・。」
テレビの中の黒い私は涙を流していく。
今日で会うのは2回目の砂川さんにこんな話までしていく。
私のことを“女の子”だと言って、まるで王子様のように現れてくれた砂川さんに“何か”を求めそうになってしまう。
それに気付き、慌てて下を向いた。
そしたら・・・
「俺には何の話をしているのか全く分からない。」
砂川さんの低くて静かな声がすぐ近くから聞こえ、私の前にコトッ─────...とコップを置いた音が聞こえた。
その音に釣られてソコを見ると、私の目の前にはグラスでもマグカップでもなく湯飲みが置かれている。
「私の方が全く分からないんですけど。
さっきミルクティーの話をしてたのに普通にお茶とか、さっきのやり取り何なんですか?」
「うちはグラスと湯飲みしかないんだよね。
両親が引っ越す時に色々と持って行ったから。
その中身、砂糖は入れていないミルクティー。」
「ありがとうございます・・・。
いただきます。」
お礼を口にしてから湯飲みを持ち、ゆっくりと一口ミルクティーを口に含んだ。
そしたら私の口に、私の身体に、私のお腹に、ほんの少しだけ甘さを含む温かいミルクティーがおさまった。
「見た目はお茶かと思ったけど、中身は普通に私が飲みたかったミルクティーでした。」
そう呟いてから笑顔を作って笑った。
「私みたい・・・。
見た目と中身が伴ってない・・・。」
静かに湯飲みをテーブルに戻した時、砂川さんは私が座るソファーの90度の位置にある1人掛け用のソファーに座った。
そして湯飲みに入った飲み物をゴクゴクと飲んでいく。
その度に砂川さんの喉仏が動いていき、それを何気なく眺めてしまいドキドキとしてしまう。
こんな私にこんな感情は不釣り合いなのにどうしようもなくドキドキとしてしまう。
「俺の湯飲みの中にはコーヒー牛乳に更に牛乳を入れた物が入ってる。」
「砂川さんは甘い物が好きでしたよね。
昨日自動販売機の前で聞きました。」
「そうだね、その話を俺もするつもりだった。」
砂川さんは普通の顔で湯飲みをテーブルに置き、私の顔をマジマジと見ながら口を開いてきた。
何を言われるのか少し怖くなっていると・・・
「園江さんこそ普通の女の子だよね?
昨日も自動販売機の所で思った。
そして今日も全く同じことを思っている。
どこをどう見ても女の子なのに、園江さんがさっきから何を話しているのか俺には全く分からない。」
どこをどう見ても本気で言っている顔で、そう言われた。
そう言ってくれた。
立派な座卓がある畳の部屋、その隣の空間には低めの布のソファーがあり、目の前には丁度良い高さの和風のテーブルまである。
このソファーに座るよう私のことを促した砂川さんはすぐに台所に向かってそう聞いてきた。
「ミルクティーは好きですけど甘いミルクティーは好きではなくて。」
「どういうこと?」
「紅茶にミルクだけを入れるのが好きなんです。
私は甘い物が苦手なので。」
「俺には全く分からない。」
「そこは“そうなんだ”で終わらせてくださいよ。
みんながみんな砂川さんと同じなわけないじゃないですか。」
「みんなが俺と同じなら俺は小言や嫌味を言われずもっと楽に生きられた。
俺からすると他の人達の方が普通ではない。」
「私からしてみたら砂川さんは普通ですよ。」
私の言葉に砂川さんは台所から私のことを振り向いてきた。
その姿を改めて見て何度も頷く。
「普通の男の人ですよ。
どこをどう見ても普通の男の人。」
「数分前に“めっちゃ変なオジサン”って言われた覚えがある。」
「めっちゃ変なオジサンだけど普通の男の人でもありますよ。
・・・あ、普通の男の人ではないか。
めっちゃ変なオジサンだけど普通の王子様ですよね。」
笑いながら本当のことを伝えると、砂川さんはまた背中を向けて何やら作業をしている。
ワイシャツ姿の砂川さんの後ろ姿は普通の男の人。
普通の女ではない私からしてみたら、砂川さんはどこをどう見ても普通の男の人でしかない。
布のソファーに座り、目の前にある大きなテレビに中に映る黒い姿の私を見る。
砂川さんのスーツのジャケットを羽織っている私の姿は男のようだった。
それも普通の男ではない。
自分でも思うくらい“綺麗で格好良い”男に見える。
そんな姿をしている私に小さく笑う。
「私こそ普通の女じゃないので。
今日の婚活パーティー、信じられないことに沢山のお姉さん方が選んだのはその会場にいた男達ではなく私でした。」
笑ったつもりでいたけれどテレビの中にいる黒い私の顔は少しも笑えていない。
「私、小さな頃から女の子達から凄くモテて。
本当に本気で私のことを好きなられて。
それも普通の好きじゃありませんよ、私に愛を渡そうとしてきます。
私は女だから受け取れるはずがないのに。
私は女だからそれに何かを返すことなんて出来ないのに。」
数分前に見た号泣するマナリーの姿を思い浮かべる。
「私に純愛を向けてくる。
何も返さなくていいからと、私に何も求めない純愛をくれる。」
私なんかと幼馴染みになってしまったマナリー。
あんなに可愛いマナリーをおかしな人生にしてしまっているのは私の存在のせい。
マナリーが言う通り私は酷い女でもある。
マナリーが私から離れないのではない。
私はマナリーが私から離れられないようにしている。
私のことを“女の子”として好きでいてくれているマナリーの存在に、私の心は少しだけ救われていた。
「私はこんな見た目ですけど心は女なんです・・・。
家族や友達に守られ、それでも疲れちゃうくらい心は女なんです・・・。」
テレビの中の黒い私は涙を流していく。
今日で会うのは2回目の砂川さんにこんな話までしていく。
私のことを“女の子”だと言って、まるで王子様のように現れてくれた砂川さんに“何か”を求めそうになってしまう。
それに気付き、慌てて下を向いた。
そしたら・・・
「俺には何の話をしているのか全く分からない。」
砂川さんの低くて静かな声がすぐ近くから聞こえ、私の前にコトッ─────...とコップを置いた音が聞こえた。
その音に釣られてソコを見ると、私の目の前にはグラスでもマグカップでもなく湯飲みが置かれている。
「私の方が全く分からないんですけど。
さっきミルクティーの話をしてたのに普通にお茶とか、さっきのやり取り何なんですか?」
「うちはグラスと湯飲みしかないんだよね。
両親が引っ越す時に色々と持って行ったから。
その中身、砂糖は入れていないミルクティー。」
「ありがとうございます・・・。
いただきます。」
お礼を口にしてから湯飲みを持ち、ゆっくりと一口ミルクティーを口に含んだ。
そしたら私の口に、私の身体に、私のお腹に、ほんの少しだけ甘さを含む温かいミルクティーがおさまった。
「見た目はお茶かと思ったけど、中身は普通に私が飲みたかったミルクティーでした。」
そう呟いてから笑顔を作って笑った。
「私みたい・・・。
見た目と中身が伴ってない・・・。」
静かに湯飲みをテーブルに戻した時、砂川さんは私が座るソファーの90度の位置にある1人掛け用のソファーに座った。
そして湯飲みに入った飲み物をゴクゴクと飲んでいく。
その度に砂川さんの喉仏が動いていき、それを何気なく眺めてしまいドキドキとしてしまう。
こんな私にこんな感情は不釣り合いなのにどうしようもなくドキドキとしてしまう。
「俺の湯飲みの中にはコーヒー牛乳に更に牛乳を入れた物が入ってる。」
「砂川さんは甘い物が好きでしたよね。
昨日自動販売機の前で聞きました。」
「そうだね、その話を俺もするつもりだった。」
砂川さんは普通の顔で湯飲みをテーブルに置き、私の顔をマジマジと見ながら口を開いてきた。
何を言われるのか少し怖くなっていると・・・
「園江さんこそ普通の女の子だよね?
昨日も自動販売機の所で思った。
そして今日も全く同じことを思っている。
どこをどう見ても女の子なのに、園江さんがさっきから何を話しているのか俺には全く分からない。」
どこをどう見ても本気で言っている顔で、そう言われた。
そう言ってくれた。
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