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砂川さんの新しい家、砂川さんから開けられた鍵で扉を開け入った場所。
あのネコのマグカップだけが残されていると思っていたのに、まさか私の物が全て残されているという場所。
砂川さんに促されリビングのソファーに座る。
皮のソファーは座った瞬間ひんやりとしたけれど、すぐにそれも気にならなくなった。
「寒い?床暖房付けようか?」
「・・・うん。」
「女の子は身体を冷やさないようにした方がいいらしいからね。」
昔はそんなことを気にしたこともなかった砂川さんはそんな知識を披露しリビングを出ていった。
「羽鳥さんが言ってたの・・・?」
1人になったリビングで呟いた。
「このソファーに羽鳥さんも座ってるの・・・?」
ソファーの目の前にある大きなテレビ、そこには緩い格好をしている“男”が黒い姿で写っている。
綺麗に化粧をしたはずなのにテレビの黒でその色は消されてしまっている。
「あれ、でも・・・」
1つ気が付いて鞄から鏡を取り出した。
「泣いたんだった・・・。」
何度か泣いた私の顔は化粧が落ちて汚くなっていた。
それを指先で拭いたけれど全然綺麗にならない。
「はい、部屋着を持ってきたよ。
部屋着でゆっくりしなね。」
砂川さんの声がリビングに戻ってきて視線を移すと、昔私が着ていた部屋着を本当に持っている。
そして何故かソレに顔をつけ・・・
「あれから洗ってないけど大丈夫かな、カビ臭くないといいけど。」
私は全然気にしないようなことを砂川さんは気にした。
「砂川さんって匂いに敏感だからね。」
「純愛ちゃんだって結構分かる方でしょ。」
受け取った部屋着に自分も顔をつける。
砂川さんも顔をつけていた昔の私の部屋着に。
そしてその匂いを吸い込み・・・
「なんか・・・新しい匂いがする。」
昔使っていた柔軟剤の匂いではなく、何となく新しい匂いがした。
「よく分かったね、新しいタンスに仕舞ってた。」
「そんな保管方法だったの?
段ボールにでも入れておけば良いのに。
砂川さんの頭ってどうなってるの?」
「結構良い頭なはずだけど。」
「勉強とかの方じゃなくてさ、人としての方。」
キッチンに行き恐らく飲み物を準備している砂川さんに言った。
今はシステムキッチンになっていて砂川さんの姿が真正面から見える。
「俺は“め~・・・・っちゃ変な人”なんじゃない?」
「それは昔でしょ?
今は変わったんじゃないの?」
「約30年間も生きてきてそう簡単には変われない。
凄く気を付けることは出来るけど。
普段は我慢しているけどこの前も、“匂いがキツいから香水は止めて欲しいとお願いしましたよね”って経理部内で嘆いたよ。」
「女性社員が多いもんね、みんな香水つけてるんだ?」
「絶対につけているはずなのにつけていないって言い張ってる。」
「確かに経理部の部屋って何となく良い香りはするけど香水っぽい匂いとも違ったよ?」
「・・・身体につける香水みたいな話はしてた。
それで保湿をしているとかなんとか。」
「それ香水じゃなくて普通にボディクリームじゃない?」
「匂いがつている時点で香水と大差ない。
経理部の部屋は臭くて耐えられない時があるから未だに真冬でも昼休みには窓を開けて換気をしていてよく怒られてる。」
「今の時期だと花粉がヤバそうだね。
でも花粉よりも砂川さんの方がヤバい人だね。」
その話は面白かったので普通に笑いながら膝に置いた部屋着を見下ろした。
昔着ていた普通のスウェット。
足元が床暖房により温かくなってきたからか身体もじんわりと温かくなってくる。
綺麗に畳まれているスウェットの上を少しずらすとズボンも出て来て、そして上とズボンの間には生理用品のパンツが挟まっていた。
昔なら1番上に置かれていたであろう生理前パンツがスウェットの間に仕舞われていた。
「でも、砂川さんはちゃんと変わったよ・・・。
変われて良かったね・・・。
変えて貰えて良かったね・・・。」
羽鳥さんの美しい姿を思い浮かべながら呟く。
静かに広げたスウェットは当たり前のように私のサイズ。
女が着るとは思えないような大きいスウェット。
こんなのを羽鳥さんに見付かってもまさか女が着るとは思わないはずで。
でも・・・
生理用パンツを見下ろしながら乾いた笑い声を漏らした。
「どんな言い訳をするの、バカじゃないの・・・。」
でも“結構良い頭”でもあるので、こんなのどんな言い訳でも出来るのかもしれない。
「はい、ホットミルクティー。」
ソファーの前の低いテーブルに砂川さんがホットミルクティーを置いた。
昔私が使っていたネコのマグカップ。
そしてコトッ───────...と、私のマグカップの隣に砂川さんのマグカップも置いた。
あのネコのマグカップだけが残されていると思っていたのに、まさか私の物が全て残されているという場所。
砂川さんに促されリビングのソファーに座る。
皮のソファーは座った瞬間ひんやりとしたけれど、すぐにそれも気にならなくなった。
「寒い?床暖房付けようか?」
「・・・うん。」
「女の子は身体を冷やさないようにした方がいいらしいからね。」
昔はそんなことを気にしたこともなかった砂川さんはそんな知識を披露しリビングを出ていった。
「羽鳥さんが言ってたの・・・?」
1人になったリビングで呟いた。
「このソファーに羽鳥さんも座ってるの・・・?」
ソファーの目の前にある大きなテレビ、そこには緩い格好をしている“男”が黒い姿で写っている。
綺麗に化粧をしたはずなのにテレビの黒でその色は消されてしまっている。
「あれ、でも・・・」
1つ気が付いて鞄から鏡を取り出した。
「泣いたんだった・・・。」
何度か泣いた私の顔は化粧が落ちて汚くなっていた。
それを指先で拭いたけれど全然綺麗にならない。
「はい、部屋着を持ってきたよ。
部屋着でゆっくりしなね。」
砂川さんの声がリビングに戻ってきて視線を移すと、昔私が着ていた部屋着を本当に持っている。
そして何故かソレに顔をつけ・・・
「あれから洗ってないけど大丈夫かな、カビ臭くないといいけど。」
私は全然気にしないようなことを砂川さんは気にした。
「砂川さんって匂いに敏感だからね。」
「純愛ちゃんだって結構分かる方でしょ。」
受け取った部屋着に自分も顔をつける。
砂川さんも顔をつけていた昔の私の部屋着に。
そしてその匂いを吸い込み・・・
「なんか・・・新しい匂いがする。」
昔使っていた柔軟剤の匂いではなく、何となく新しい匂いがした。
「よく分かったね、新しいタンスに仕舞ってた。」
「そんな保管方法だったの?
段ボールにでも入れておけば良いのに。
砂川さんの頭ってどうなってるの?」
「結構良い頭なはずだけど。」
「勉強とかの方じゃなくてさ、人としての方。」
キッチンに行き恐らく飲み物を準備している砂川さんに言った。
今はシステムキッチンになっていて砂川さんの姿が真正面から見える。
「俺は“め~・・・・っちゃ変な人”なんじゃない?」
「それは昔でしょ?
今は変わったんじゃないの?」
「約30年間も生きてきてそう簡単には変われない。
凄く気を付けることは出来るけど。
普段は我慢しているけどこの前も、“匂いがキツいから香水は止めて欲しいとお願いしましたよね”って経理部内で嘆いたよ。」
「女性社員が多いもんね、みんな香水つけてるんだ?」
「絶対につけているはずなのにつけていないって言い張ってる。」
「確かに経理部の部屋って何となく良い香りはするけど香水っぽい匂いとも違ったよ?」
「・・・身体につける香水みたいな話はしてた。
それで保湿をしているとかなんとか。」
「それ香水じゃなくて普通にボディクリームじゃない?」
「匂いがつている時点で香水と大差ない。
経理部の部屋は臭くて耐えられない時があるから未だに真冬でも昼休みには窓を開けて換気をしていてよく怒られてる。」
「今の時期だと花粉がヤバそうだね。
でも花粉よりも砂川さんの方がヤバい人だね。」
その話は面白かったので普通に笑いながら膝に置いた部屋着を見下ろした。
昔着ていた普通のスウェット。
足元が床暖房により温かくなってきたからか身体もじんわりと温かくなってくる。
綺麗に畳まれているスウェットの上を少しずらすとズボンも出て来て、そして上とズボンの間には生理用品のパンツが挟まっていた。
昔なら1番上に置かれていたであろう生理前パンツがスウェットの間に仕舞われていた。
「でも、砂川さんはちゃんと変わったよ・・・。
変われて良かったね・・・。
変えて貰えて良かったね・・・。」
羽鳥さんの美しい姿を思い浮かべながら呟く。
静かに広げたスウェットは当たり前のように私のサイズ。
女が着るとは思えないような大きいスウェット。
こんなのを羽鳥さんに見付かってもまさか女が着るとは思わないはずで。
でも・・・
生理用パンツを見下ろしながら乾いた笑い声を漏らした。
「どんな言い訳をするの、バカじゃないの・・・。」
でも“結構良い頭”でもあるので、こんなのどんな言い訳でも出来るのかもしれない。
「はい、ホットミルクティー。」
ソファーの前の低いテーブルに砂川さんがホットミルクティーを置いた。
昔私が使っていたネコのマグカップ。
そしてコトッ───────...と、私のマグカップの隣に砂川さんのマグカップも置いた。
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