“純”の純愛ではない“愛”の鍵

Bu-cha

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「そういえば、課長って昔増田生命にいたらしいですからね。
園江さんと結構絡んでたんですか?」



「うん、よく絡んでたよ。ね?
凄く絡んでた。」



砂川さんが微妙に意味深な顔で私に聞いてきて、それには自然と怒りながら首を横に振る。



「凄く絡んではいません。」



私が1人で動いてエッチしていたことを思い出しながら反論をすると・・・



「よく自動販売機の所で一緒に一息ついてたのに。」



そのことを言われ、それには片手で頭を押さえる。



「課長ってコミュ障だったらしいですからね。
向こうでは盛大にコミュ障だったんでしょうね。」



「うん、俺って“め~・・・っちゃ変わった人”だったらしいから。」



「うちの経理部に来られて良かったですよね、女性社員達に揉まれて今では結構普通ですよ。」



「まだ“結構”レベルかな?」



「そうですね。」



佐伯さんがやっともう一口だけよく分からない食べ物を口に入れた時、砂川さんが私の方を普通に笑いながら見てきた。



「中華が好きっていうのも嘘だったかな?」



佐伯さんが隣で大人しく食べ物を噛んでいる気配を感じながら、私は首を横に振った。



「中華が好きなのは本当です。」



「うん、俺も好き。」



砂川さんが嬉しそうな顔で笑い、また口を開いた。



「俺も大好き。」



砂川さんが少しだけ照れたような顔でそう言ってくる。



砂川さんは本当に中華料理が好きな人で。
昔はあの家で砂川さんも私もよく中華料理を作って一緒に食べていた。
時には並んで料理をしたことだってある。



でも、まるで私に“好き”と、“大好き”だと言ってくれたような気がしてしまう。



またそんな勘違いをしてしまいそうになる。



砂川さんが腕時計を確認し、スーツから財布を取り出した。



「週末、俺も同席してもいいかな?
まだ“結構”レベルの男らしいから、うちの経理部の女性社員から揉まれたいんだけど。」



そう言って財布から1万札を2枚出し、テーブルに置いた。
それなりに良い店ではあるけれどランチなのに。



あんなに私の方を見ていたのに佐伯さんのことだけを真っ直ぐと見詰めながら。



「デザートまで食べてね。
お釣りで部署のみんなに差し入れも買ってきて貰えるかな?」



「了解です。いつもありがとうございます。」



「お安い御用だよ。
俺はお金しかない男らしいから。」



「お姉さん方の言葉を気にしすぎです。」



佐伯さんが楽しそうに笑った時、砂川さんがゆっくりと立ち上がり、佐伯さんに優しい優しい顔で笑い掛けた。
私に見せる笑顔とも何だか違うような優しい笑顔で。



「1つ付け足すと、俺は車も持ってる男だけどね。」



砂川さんがそう付け足すと・・・



「週末はよろしくお願いします、おとーさん♪」



砂川さんのことを“おとーさん”と可愛い声で佐伯さんが言った。



「娘と娘の友達と出掛けられるの、“おとーさん”楽しみにしてるよ。」



砂川さんは佐伯さんのことだけを真っ直ぐと見て、店の扉から出て行った。



「うちの部署では部長の方が人気なんだけど、私は断然砂川課長が好きなんだよね。
私の仮のパパと似てて嘘とかつけなそうだしちょっと不器用な所がめちゃくちゃ可愛い。」



佐伯さんが凄く嬉しそうに私の方を見てきた。



「土曜日、空いてるかな?
純愛ちゃんとデートがしたい。」



凄く凄く嬉しそうに、“男の人”の顔で私に言う。



「課長のことはお財布と車だと思って?
私、純愛ちゃんとデートがしたい。」



彼氏である佐伯さんに命と身体を貰われている私は素直に頷いてしまった。
だって私とデートをしたいと言ってくれた“男の人”は初めてで。



こんなの、私は喜んでしまう。



喜んで頷いてしまう。



でも・・・



「砂川さんって増田生命で営業成績が私よりも良かった人だよ?
嘘だってつけるし人の意思や心を誘導するのも出来る人だからあんまり心を許さない方がいいよ。」



そう1つ付け足し説明をした。



「純愛ちゃん、砂川さんの実家って地主なことも知ってる?
それ繋がりで契約を取ってたって先輩達から聞いた。」



“あの経理部の女性社員達は俺の営業成績を全く信じてくれないからね。”



昨日聞いた砂川さんの言葉を思い出し、それには可哀想な気持ちになったので更にもう1つ付け足してあげる。



「砂川さんは家が持っている土地に何の興味もない人だよ。
だから自分の家がどこに土地を持っているのかも全然把握してない。」



「そうなんだ?
じゃあ本当に自分で契約取ってたんだ!
“おとーさん”凄いじゃ~ん、土曜日はちょっと優しくしてあげよう♪」



その返事には苦笑いになってしまい、片手でガンガンと痛む頭を押さえた。
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