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マナリーと望以外の人から、それも男の人から“可愛い”と言われたのは初めてで驚く。
驚き過ぎて顔を下げられず砂川さんのことを見詰め続けてしまう。
砂川さんは私の顔をジッと見詰めながらも慌てたような顔になった。
「ごめんね、セクハラだよね、変なことを言ってしまった。
俺が今言った言葉は忘れて欲しい。」
そうお願いをされたけれど、私は首を横に振りながら笑った。
泣きながらだけど、自然と笑った。
「忘れません。
この先ずっと忘れません。」
この身体が急に暑くなってきた。
砂川さんのジャケットがあるからだと気付き、それを確かめるように砂川さんのジャケットを両手で少しだけ確認をした。
さっきまで凍えるように冷たかったこの胸はこんなにも温かくなってくる。
だからかさっきよりもずっとドキドキとしてくる。
「嫌な気持ちにはなってない?」
「はい。」
「それなら良かった。
今日はスーツじゃないからかな、雰囲気が全然違って驚いたよ。」
その言葉を聞き、砂川さんの“可愛い”はそれくらいの意味の“可愛い”なのだと知る。
「今日は夕方から婚活パーティーだったんです。
だからこの格好で仕事に行って、その後に婚活パーティーに行って来ました。」
「今日会社にいたんだね。
俺も仕事だったから会社にいたんだよ。」
「私は会社じゃなくて営業同行です。
何をやっても営業成績が上がらない支社の社員に同行してきました。」
「本社の営業、そんな仕事ないよね?」
「私と昨日のセクハラ男だけはそういった仕事内容も含まれます。」
「ああ、昨日の男の子ね。
ちゃんと人事部に報告しておいたからね。」
「田代飛ばされるんですか?」
「いや・・・。」
砂川さんが残念そうな顔で私の顔を見続けてくる。
「あの男の子と幼馴染みだからと言って全く問題視をしてくれなくて、今会社に不信感を抱いてる所だよ。」
それには大きく笑ってしまった。
「ありがとうございます。
私みたいな女が受けたセクハラなんかに本当に動いてくれて、それで会社に不信感まで抱いてくれて。
もうそれだけで元気が出ました。」
地面に崩れていた身体をゆっくりと起こし、立ち上がった。
心配そうな顔をしている、地面にしゃがんだままの砂川さんのことを見下ろしながら伝える。
「ジャケットを返すのは月曜日でもいいですか?」
これで終わりたくないと思った。
今ここでこのジャケットを返してしまったらもうそれで終わりな気がしてしまった。
そう思ったら、作ったはずの笑顔はすぐに崩れてまた涙が流れてきた。
「ごめんなさい、私なんか凄く酔っ払ってもいて・・・。
寒いし疲れたし、なんか凄く変で・・・。」
両手で涙を拭きながら必死に笑う。
そんな私の目の前にスッ─────...と砂川さんが立ち上がったのが分かった。
泣きながら思わず砂川さんのことを見てしまった。
昨日はそんなに気にしなかったけれど、私のすぐ目の前に立った砂川さんは結構背が高い。
今日の私は3センチのヒールの靴だから砂川さんのことを見上げる角度も大きくなる。
砂川さんは真剣な顔で私のことを見下ろし、ゆっくりと口を開いた。
「俺の家、ここから近いからおいで?」
「え・・・家・・・?でも・・・」
こんな時間に男の人の家に上がるのは気が引けた。
いつもはこんなことを絶対に気にしないのに、今は何故か物凄く気になった。
そんな自分にも戸惑っていると、砂川さんは私の顔を穴が開くと思ってしまうくらいジッと見詰めてくる。
「こんなに泣いてる女の子を置いて行くことは出来ないから。」
砂川さんが私のことを“女の子”と言う。
昨日と同じように“女の子”だと普通に言ってくれる。
「何だろう、今日は昨日よりも背が低く感じるからかな。
スーツでもないし昨日よりも凄く女の子だよね。」
そう言われ・・・
「私は女です・・・。
生まれた時からずっと女です・・・っ!!」
号泣した涙を隠すことも拭うことも出来ないまま心から初めてそう叫べた。
「それはそうだろうね。
1つ付け足すと、生まれた時からというよりお母さんのお腹の中にいた時から女の子だったでしょ。」
「お母さんのお腹の中にいた時、私は男だったんです。」
「・・・ごめんね、何を言っているのか全く分からない。」
大真面目な顔でそう言われ、それにもまた大きく笑ってしまった。
泣きながら笑う私のことを砂川さんはまだジッと見詰めてきて・・・
「園江さん、俺の家においで。
温かいお茶を出すから、ちゃんと温まってから帰った方が良いよ。」
砂川さんがあまりにも真剣な顔でそんな優しい言葉をくれるから、私は今度は迷うことなく受け取った。
私に返せるモノがあるかは分からないけれど、受け取りたいと心から思ったから受け取ってしまった。
「ここから歩くと30分くらいかな。」
「・・・全然近くないんですけど。」
「デスクワークで運動不足になるから毎日歩いて帰ってるんだよね。
タクシー拾おうか?」
「砂川さんの運動に付き合いますよ、私は営業部なので歩くのに慣れてます。」
「それなのに疲れるなんて、婚活パーティーはそれほど過酷なんだね。
俺も親からすすめられたことがあるけど行かなくて良かったよ。」
「めちゃくちゃ過酷でした。
私はもう二度と行きたくありませんね。」
「うん、もう行かない方が良いよ。
また園江さんが倒れてても、今度は俺が近くにいないかもしれないから。」
「近くにいたらまた助けてくれますか?」
「近くにいたらそれは助けるよ。」
「私だって分かってなくても助けてくれようとしましたからね。
なんか・・・王子様みたいでしたよ。」
恥ずかしくなりながらも口にして、フラフラする足を必死に動かして前に進む。
「園江さん、歩くの凄く速いね。
園江さんからしてみたら俺はオジサンだし、王子様でも何でもなく普通のオジサンだよ。」
「何歳なんですか?」
「27歳・・・あ、そういえば今日で28歳になった。」
「全然オジサンじゃないですよ。
そして誕生日おめでとうございます。」
「誕生日に“おめでとう”とか全く分からないけどね。
毎年祝う人達が何を祝っているのか俺には理解出来ない。」
「・・・普通じゃなくてめっちゃ変なオジサンなんだけど。」
「ああ、やっぱり?
部署の若い子からたまに言われるよ。」
“普通”ではない“めっちゃ変な砂川さん”と並びながら夜の道を歩き続けた。
倒れている私の前に現れ膝をつき、私のことを助けてくれたこの人にドキドキとしながら。
砂川さんのスーツのジャケットが私のこんな身体に掛かっていることを両手で少しだけ確認する。
何度も何度も確認をする。
それだけで凄く嬉しい気持ちになれた。
それだけでも私にとっては初めて感じる嬉しさで。
凄く凄くドキドキとした。
隣に歩く砂川さんから凄く見られている気がしたけれど、気にしないように歩き続けた。
この夜に隠れなくても砂川さんには私が“女の子”に見えているらしいから。
だから前を向き続けたまま歩き続けた。
酔っ払っていることは自覚をしながら。
私は酔っ払っている。
私はこんなにも酔っ払っている。
だからだと思う。
たがら私には砂川さんのことが“凄く格好良く”見える。
凄く凄く格好良くて・・・
“めっちゃ変な砂川さん”なはずなのに、私には王子様に見えてしまっている。
そんな女の子みたいな、恥ずかしいことを考えてしまっている。
「・・・園江さん、歩くの速すぎるよ!!」
自分の恥ずかしい思いを振り切るように早足で前に進み続けた。
驚き過ぎて顔を下げられず砂川さんのことを見詰め続けてしまう。
砂川さんは私の顔をジッと見詰めながらも慌てたような顔になった。
「ごめんね、セクハラだよね、変なことを言ってしまった。
俺が今言った言葉は忘れて欲しい。」
そうお願いをされたけれど、私は首を横に振りながら笑った。
泣きながらだけど、自然と笑った。
「忘れません。
この先ずっと忘れません。」
この身体が急に暑くなってきた。
砂川さんのジャケットがあるからだと気付き、それを確かめるように砂川さんのジャケットを両手で少しだけ確認をした。
さっきまで凍えるように冷たかったこの胸はこんなにも温かくなってくる。
だからかさっきよりもずっとドキドキとしてくる。
「嫌な気持ちにはなってない?」
「はい。」
「それなら良かった。
今日はスーツじゃないからかな、雰囲気が全然違って驚いたよ。」
その言葉を聞き、砂川さんの“可愛い”はそれくらいの意味の“可愛い”なのだと知る。
「今日は夕方から婚活パーティーだったんです。
だからこの格好で仕事に行って、その後に婚活パーティーに行って来ました。」
「今日会社にいたんだね。
俺も仕事だったから会社にいたんだよ。」
「私は会社じゃなくて営業同行です。
何をやっても営業成績が上がらない支社の社員に同行してきました。」
「本社の営業、そんな仕事ないよね?」
「私と昨日のセクハラ男だけはそういった仕事内容も含まれます。」
「ああ、昨日の男の子ね。
ちゃんと人事部に報告しておいたからね。」
「田代飛ばされるんですか?」
「いや・・・。」
砂川さんが残念そうな顔で私の顔を見続けてくる。
「あの男の子と幼馴染みだからと言って全く問題視をしてくれなくて、今会社に不信感を抱いてる所だよ。」
それには大きく笑ってしまった。
「ありがとうございます。
私みたいな女が受けたセクハラなんかに本当に動いてくれて、それで会社に不信感まで抱いてくれて。
もうそれだけで元気が出ました。」
地面に崩れていた身体をゆっくりと起こし、立ち上がった。
心配そうな顔をしている、地面にしゃがんだままの砂川さんのことを見下ろしながら伝える。
「ジャケットを返すのは月曜日でもいいですか?」
これで終わりたくないと思った。
今ここでこのジャケットを返してしまったらもうそれで終わりな気がしてしまった。
そう思ったら、作ったはずの笑顔はすぐに崩れてまた涙が流れてきた。
「ごめんなさい、私なんか凄く酔っ払ってもいて・・・。
寒いし疲れたし、なんか凄く変で・・・。」
両手で涙を拭きながら必死に笑う。
そんな私の目の前にスッ─────...と砂川さんが立ち上がったのが分かった。
泣きながら思わず砂川さんのことを見てしまった。
昨日はそんなに気にしなかったけれど、私のすぐ目の前に立った砂川さんは結構背が高い。
今日の私は3センチのヒールの靴だから砂川さんのことを見上げる角度も大きくなる。
砂川さんは真剣な顔で私のことを見下ろし、ゆっくりと口を開いた。
「俺の家、ここから近いからおいで?」
「え・・・家・・・?でも・・・」
こんな時間に男の人の家に上がるのは気が引けた。
いつもはこんなことを絶対に気にしないのに、今は何故か物凄く気になった。
そんな自分にも戸惑っていると、砂川さんは私の顔を穴が開くと思ってしまうくらいジッと見詰めてくる。
「こんなに泣いてる女の子を置いて行くことは出来ないから。」
砂川さんが私のことを“女の子”と言う。
昨日と同じように“女の子”だと普通に言ってくれる。
「何だろう、今日は昨日よりも背が低く感じるからかな。
スーツでもないし昨日よりも凄く女の子だよね。」
そう言われ・・・
「私は女です・・・。
生まれた時からずっと女です・・・っ!!」
号泣した涙を隠すことも拭うことも出来ないまま心から初めてそう叫べた。
「それはそうだろうね。
1つ付け足すと、生まれた時からというよりお母さんのお腹の中にいた時から女の子だったでしょ。」
「お母さんのお腹の中にいた時、私は男だったんです。」
「・・・ごめんね、何を言っているのか全く分からない。」
大真面目な顔でそう言われ、それにもまた大きく笑ってしまった。
泣きながら笑う私のことを砂川さんはまだジッと見詰めてきて・・・
「園江さん、俺の家においで。
温かいお茶を出すから、ちゃんと温まってから帰った方が良いよ。」
砂川さんがあまりにも真剣な顔でそんな優しい言葉をくれるから、私は今度は迷うことなく受け取った。
私に返せるモノがあるかは分からないけれど、受け取りたいと心から思ったから受け取ってしまった。
「ここから歩くと30分くらいかな。」
「・・・全然近くないんですけど。」
「デスクワークで運動不足になるから毎日歩いて帰ってるんだよね。
タクシー拾おうか?」
「砂川さんの運動に付き合いますよ、私は営業部なので歩くのに慣れてます。」
「それなのに疲れるなんて、婚活パーティーはそれほど過酷なんだね。
俺も親からすすめられたことがあるけど行かなくて良かったよ。」
「めちゃくちゃ過酷でした。
私はもう二度と行きたくありませんね。」
「うん、もう行かない方が良いよ。
また園江さんが倒れてても、今度は俺が近くにいないかもしれないから。」
「近くにいたらまた助けてくれますか?」
「近くにいたらそれは助けるよ。」
「私だって分かってなくても助けてくれようとしましたからね。
なんか・・・王子様みたいでしたよ。」
恥ずかしくなりながらも口にして、フラフラする足を必死に動かして前に進む。
「園江さん、歩くの凄く速いね。
園江さんからしてみたら俺はオジサンだし、王子様でも何でもなく普通のオジサンだよ。」
「何歳なんですか?」
「27歳・・・あ、そういえば今日で28歳になった。」
「全然オジサンじゃないですよ。
そして誕生日おめでとうございます。」
「誕生日に“おめでとう”とか全く分からないけどね。
毎年祝う人達が何を祝っているのか俺には理解出来ない。」
「・・・普通じゃなくてめっちゃ変なオジサンなんだけど。」
「ああ、やっぱり?
部署の若い子からたまに言われるよ。」
“普通”ではない“めっちゃ変な砂川さん”と並びながら夜の道を歩き続けた。
倒れている私の前に現れ膝をつき、私のことを助けてくれたこの人にドキドキとしながら。
砂川さんのスーツのジャケットが私のこんな身体に掛かっていることを両手で少しだけ確認する。
何度も何度も確認をする。
それだけで凄く嬉しい気持ちになれた。
それだけでも私にとっては初めて感じる嬉しさで。
凄く凄くドキドキとした。
隣に歩く砂川さんから凄く見られている気がしたけれど、気にしないように歩き続けた。
この夜に隠れなくても砂川さんには私が“女の子”に見えているらしいから。
だから前を向き続けたまま歩き続けた。
酔っ払っていることは自覚をしながら。
私は酔っ払っている。
私はこんなにも酔っ払っている。
だからだと思う。
たがら私には砂川さんのことが“凄く格好良く”見える。
凄く凄く格好良くて・・・
“めっちゃ変な砂川さん”なはずなのに、私には王子様に見えてしまっている。
そんな女の子みたいな、恥ずかしいことを考えてしまっている。
「・・・園江さん、歩くの速すぎるよ!!」
自分の恥ずかしい思いを振り切るように早足で前に進み続けた。
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