“純”の純愛ではない“愛”の鍵

Bu-cha

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昨日のことを佐伯さんから聞かれたけれど、温かくなった身体と胸を感じながら短く息を吐いてから答えた。



「ダメだった。」



「田代って奴に言えたは言えたんだ?
昨日会社のビルの下までわざわざあいつを出迎えて会議室まで通したけど、なんかちょっと変な奴だよね?
あんまり女に興味ない奴?」



「いつも彼女が欲しいとは言ってるけど彼女はいたことないかな。」



「ああ、童貞なのか。」



「そっちの経験は普通にあるらしい。」



「へぇ~・・・あんまりそんな風にも見えなかった。
なんかちょっと変な奴なのは感じたけど、園江さんのことを本気で心配してたからそこは安心しつつも私の本心はめちゃくちゃ嫉妬してたよ。」



私の“彼氏”の佐伯さんが不満そうな顔でざる蕎麦を食べ続け、あんなに不味かったざる蕎麦をペロリと食べた。



「あいつはあいつでちょっと男っぽくないよね?
見た目も雰囲気も男っぽいけど、なんかパパ感強くない?」



「それは・・・分からない・・・っ!!」



危うくうどんを吹き出しそうになった。



「私自身がパパ感の強い人に安心するんだよね。
あいつ、精神もめちゃくちゃ強そうだし面倒見も良さそうだし責任を持って家族をちゃんと愛せる力がある奴そう。」



「どうなんだろう?
田代のことを今まで分析したことないな。
・・・田代みたいなのがタイプなんだ?」



「ああいう奴が私のことを全力で甘やかしてくれるならタイプ。
ちょっと嫉妬してくれた?」



「ちょっとね・・・。
女の子の佐伯さんも私にキュンキュンしてくれてたから。」



「それはもう無条件でするでしょ。
園江さんにときめきかない女子がいるなら見てみたい。」



佐伯さんの言葉を聞き、私は遠くの席で1人でご飯を食べている福富さんの方を指差した。



「さっきの福富さん、私に全然ときめいてなかったよ?」



「あの可愛らしい器、その中には強靭な男の魂が入ってる奇特な生物なの、あれ。」



そんな表現には大きく笑ってしまった。
でも佐伯さんは少しも笑うことなく、むしろその顔を更に険しくして私の顔を見た。



「あの子のことだけは少しも好きにならないで欲しい。
私が見てる所で関わらないで欲しい。」



「苦手なの?」



「苦手どころか大嫌い。」



「そんなに・・・?」



佐伯さんが少しだけ泣きそうな顔で頷いた。
その顔は“女の子”でも“男の人”でもなく、どこか幼い顔に見える。



「うちの会社の経理部では新卒配属がないはずなの。
それが何故かあの子だけは新卒で配属された。
私は社長のコネだったからもう1人新卒の子がいて良かったと思っていたら、入社初日にいたのは中学時代の私みたいな見た目のあの子だった。」



私に“何か”を真剣に伝えようとしている佐伯さんに頷くと、佐伯さんが小さく息を吸ってまた話し始める。



「あの子のお父さんが私のお父さんでもあるのかと思った。
だって、どこをどう見ても中学の時の私の見た目なんだもん。」



「そ・・・っか・・・。」



何度も頷く私に佐伯さんは小さく笑った。



「でも、話を聞いているうちにたぶんお父さんが違うことは分かった。」



「そっか。」



「それが分かった頃、私もあの子も経理部内だけじゃなくて他の部署とも関わるようになってきて。
あの子って本当に凄いんだよね。
“全社員と身内なの?”ってくらい、誰に対しても自分が思ってることを言っちゃうの。」



「さっきもそんな感じだったかな。」



「楽しかったでしょ?
園江さんがあんなに笑ってた。
本当にムカつく、私、あの子のことが本当に大嫌い。」



佐伯さんは大きく俯きながらも続けた。



「私がずっと好きな人・・・“お父さん”と呼んでいる人の次に大好きで、来世ではちゃんとその人の妹に生まれたいと思っている幼馴染みがいて。
その人と私がしていた中学生くらいの時のやり取り・・・。
それを私の中学時代の見た目のあの子が、私の目の前でその人とそのやり取りをしてるのがマジで無理。」



“初体験は高校1年生の時で相手は幼馴染み”



昨日聞いた佐伯さんの話を思い出す。



“二十歳まで精一杯生きた。
やり残すことがないように本当に精一杯。
それでもやり残したことばっかりだけど、それらは間に合わなかったからもう仕方ないの。
この命をちゃんと終わらせて、また来世で続きが出来ればもうそれで良い。”



佐伯さんのやり残したことは何だろう?と思う。



“来世ではちゃんとその人の妹に生まれたいと思っている”



好きな人の妹に“ちゃんと”生まれたいと思っている佐伯さんの俯く姿を見る。



“私のことを“可哀想”と思わずに“綺麗で可愛い”って本当に言ってくれたのは園江さんが初めて。
ありがとう、凄く嬉しい。”



昨日本当に嬉しそうな顔で私にそう言った佐伯さんの顔を思い浮かべながら、“お父さん”と呼んでいる人やその幼馴染みから佐伯さんは“可哀想”と思われているのかもしれないと思った。



俯いていたとしても魅力しかないようなこの女の子のことを私はやっぱり“可哀想”だなんて思えなくて、ここまで私に話してくれた佐伯さんに私もこの腫れている目の話をする。



「昨日、私が片想いをしていた人と偶然会ったの。
休憩も兼ねて田代と場所を変えた時、田代の声が大きいから話を聞かれちゃってた。」
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