43 / 166
3
3-11
しおりを挟む
昨日のことを佐伯さんから聞かれたけれど、温かくなった身体と胸を感じながら短く息を吐いてから答えた。
「ダメだった。」
「田代って奴に言えたは言えたんだ?
昨日会社のビルの下までわざわざあいつを出迎えて会議室まで通したけど、なんかちょっと変な奴だよね?
あんまり女に興味ない奴?」
「いつも彼女が欲しいとは言ってるけど彼女はいたことないかな。」
「ああ、童貞なのか。」
「そっちの経験は普通にあるらしい。」
「へぇ~・・・あんまりそんな風にも見えなかった。
なんかちょっと変な奴なのは感じたけど、園江さんのことを本気で心配してたからそこは安心しつつも私の本心はめちゃくちゃ嫉妬してたよ。」
私の“彼氏”の佐伯さんが不満そうな顔でざる蕎麦を食べ続け、あんなに不味かったざる蕎麦をペロリと食べた。
「あいつはあいつでちょっと男っぽくないよね?
見た目も雰囲気も男っぽいけど、なんかパパ感強くない?」
「それは・・・分からない・・・っ!!」
危うくうどんを吹き出しそうになった。
「私自身がパパ感の強い人に安心するんだよね。
あいつ、精神もめちゃくちゃ強そうだし面倒見も良さそうだし責任を持って家族をちゃんと愛せる力がある奴そう。」
「どうなんだろう?
田代のことを今まで分析したことないな。
・・・田代みたいなのがタイプなんだ?」
「ああいう奴が私のことを全力で甘やかしてくれるならタイプ。
ちょっと嫉妬してくれた?」
「ちょっとね・・・。
女の子の佐伯さんも私にキュンキュンしてくれてたから。」
「それはもう無条件でするでしょ。
園江さんにときめきかない女子がいるなら見てみたい。」
佐伯さんの言葉を聞き、私は遠くの席で1人でご飯を食べている福富さんの方を指差した。
「さっきの福富さん、私に全然ときめいてなかったよ?」
「あの可愛らしい器、その中には強靭な男の魂が入ってる奇特な生物なの、あれ。」
そんな表現には大きく笑ってしまった。
でも佐伯さんは少しも笑うことなく、むしろその顔を更に険しくして私の顔を見た。
「あの子のことだけは少しも好きにならないで欲しい。
私が見てる所で関わらないで欲しい。」
「苦手なの?」
「苦手どころか大嫌い。」
「そんなに・・・?」
佐伯さんが少しだけ泣きそうな顔で頷いた。
その顔は“女の子”でも“男の人”でもなく、どこか幼い顔に見える。
「うちの会社の経理部では新卒配属がないはずなの。
それが何故かあの子だけは新卒で配属された。
私は社長のコネだったからもう1人新卒の子がいて良かったと思っていたら、入社初日にいたのは中学時代の私みたいな見た目のあの子だった。」
私に“何か”を真剣に伝えようとしている佐伯さんに頷くと、佐伯さんが小さく息を吸ってまた話し始める。
「あの子のお父さんが私のお父さんでもあるのかと思った。
だって、どこをどう見ても中学の時の私の見た目なんだもん。」
「そ・・・っか・・・。」
何度も頷く私に佐伯さんは小さく笑った。
「でも、話を聞いているうちにたぶんお父さんが違うことは分かった。」
「そっか。」
「それが分かった頃、私もあの子も経理部内だけじゃなくて他の部署とも関わるようになってきて。
あの子って本当に凄いんだよね。
“全社員と身内なの?”ってくらい、誰に対しても自分が思ってることを言っちゃうの。」
「さっきもそんな感じだったかな。」
「楽しかったでしょ?
園江さんがあんなに笑ってた。
本当にムカつく、私、あの子のことが本当に大嫌い。」
佐伯さんは大きく俯きながらも続けた。
「私がずっと好きな人・・・“お父さん”と呼んでいる人の次に大好きで、来世ではちゃんとその人の妹に生まれたいと思っている幼馴染みがいて。
その人と私がしていた中学生くらいの時のやり取り・・・。
それを私の中学時代の見た目のあの子が、私の目の前でその人とそのやり取りをしてるのがマジで無理。」
“初体験は高校1年生の時で相手は幼馴染み”
昨日聞いた佐伯さんの話を思い出す。
“二十歳まで精一杯生きた。
やり残すことがないように本当に精一杯。
それでもやり残したことばっかりだけど、それらは間に合わなかったからもう仕方ないの。
この命をちゃんと終わらせて、また来世で続きが出来ればもうそれで良い。”
佐伯さんのやり残したことは何だろう?と思う。
“来世ではちゃんとその人の妹に生まれたいと思っている”
好きな人の妹に“ちゃんと”生まれたいと思っている佐伯さんの俯く姿を見る。
“私のことを“可哀想”と思わずに“綺麗で可愛い”って本当に言ってくれたのは園江さんが初めて。
ありがとう、凄く嬉しい。”
昨日本当に嬉しそうな顔で私にそう言った佐伯さんの顔を思い浮かべながら、“お父さん”と呼んでいる人やその幼馴染みから佐伯さんは“可哀想”と思われているのかもしれないと思った。
俯いていたとしても魅力しかないようなこの女の子のことを私はやっぱり“可哀想”だなんて思えなくて、ここまで私に話してくれた佐伯さんに私もこの腫れている目の話をする。
「昨日、私が片想いをしていた人と偶然会ったの。
休憩も兼ねて田代と場所を変えた時、田代の声が大きいから話を聞かれちゃってた。」
「ダメだった。」
「田代って奴に言えたは言えたんだ?
昨日会社のビルの下までわざわざあいつを出迎えて会議室まで通したけど、なんかちょっと変な奴だよね?
あんまり女に興味ない奴?」
「いつも彼女が欲しいとは言ってるけど彼女はいたことないかな。」
「ああ、童貞なのか。」
「そっちの経験は普通にあるらしい。」
「へぇ~・・・あんまりそんな風にも見えなかった。
なんかちょっと変な奴なのは感じたけど、園江さんのことを本気で心配してたからそこは安心しつつも私の本心はめちゃくちゃ嫉妬してたよ。」
私の“彼氏”の佐伯さんが不満そうな顔でざる蕎麦を食べ続け、あんなに不味かったざる蕎麦をペロリと食べた。
「あいつはあいつでちょっと男っぽくないよね?
見た目も雰囲気も男っぽいけど、なんかパパ感強くない?」
「それは・・・分からない・・・っ!!」
危うくうどんを吹き出しそうになった。
「私自身がパパ感の強い人に安心するんだよね。
あいつ、精神もめちゃくちゃ強そうだし面倒見も良さそうだし責任を持って家族をちゃんと愛せる力がある奴そう。」
「どうなんだろう?
田代のことを今まで分析したことないな。
・・・田代みたいなのがタイプなんだ?」
「ああいう奴が私のことを全力で甘やかしてくれるならタイプ。
ちょっと嫉妬してくれた?」
「ちょっとね・・・。
女の子の佐伯さんも私にキュンキュンしてくれてたから。」
「それはもう無条件でするでしょ。
園江さんにときめきかない女子がいるなら見てみたい。」
佐伯さんの言葉を聞き、私は遠くの席で1人でご飯を食べている福富さんの方を指差した。
「さっきの福富さん、私に全然ときめいてなかったよ?」
「あの可愛らしい器、その中には強靭な男の魂が入ってる奇特な生物なの、あれ。」
そんな表現には大きく笑ってしまった。
でも佐伯さんは少しも笑うことなく、むしろその顔を更に険しくして私の顔を見た。
「あの子のことだけは少しも好きにならないで欲しい。
私が見てる所で関わらないで欲しい。」
「苦手なの?」
「苦手どころか大嫌い。」
「そんなに・・・?」
佐伯さんが少しだけ泣きそうな顔で頷いた。
その顔は“女の子”でも“男の人”でもなく、どこか幼い顔に見える。
「うちの会社の経理部では新卒配属がないはずなの。
それが何故かあの子だけは新卒で配属された。
私は社長のコネだったからもう1人新卒の子がいて良かったと思っていたら、入社初日にいたのは中学時代の私みたいな見た目のあの子だった。」
私に“何か”を真剣に伝えようとしている佐伯さんに頷くと、佐伯さんが小さく息を吸ってまた話し始める。
「あの子のお父さんが私のお父さんでもあるのかと思った。
だって、どこをどう見ても中学の時の私の見た目なんだもん。」
「そ・・・っか・・・。」
何度も頷く私に佐伯さんは小さく笑った。
「でも、話を聞いているうちにたぶんお父さんが違うことは分かった。」
「そっか。」
「それが分かった頃、私もあの子も経理部内だけじゃなくて他の部署とも関わるようになってきて。
あの子って本当に凄いんだよね。
“全社員と身内なの?”ってくらい、誰に対しても自分が思ってることを言っちゃうの。」
「さっきもそんな感じだったかな。」
「楽しかったでしょ?
園江さんがあんなに笑ってた。
本当にムカつく、私、あの子のことが本当に大嫌い。」
佐伯さんは大きく俯きながらも続けた。
「私がずっと好きな人・・・“お父さん”と呼んでいる人の次に大好きで、来世ではちゃんとその人の妹に生まれたいと思っている幼馴染みがいて。
その人と私がしていた中学生くらいの時のやり取り・・・。
それを私の中学時代の見た目のあの子が、私の目の前でその人とそのやり取りをしてるのがマジで無理。」
“初体験は高校1年生の時で相手は幼馴染み”
昨日聞いた佐伯さんの話を思い出す。
“二十歳まで精一杯生きた。
やり残すことがないように本当に精一杯。
それでもやり残したことばっかりだけど、それらは間に合わなかったからもう仕方ないの。
この命をちゃんと終わらせて、また来世で続きが出来ればもうそれで良い。”
佐伯さんのやり残したことは何だろう?と思う。
“来世ではちゃんとその人の妹に生まれたいと思っている”
好きな人の妹に“ちゃんと”生まれたいと思っている佐伯さんの俯く姿を見る。
“私のことを“可哀想”と思わずに“綺麗で可愛い”って本当に言ってくれたのは園江さんが初めて。
ありがとう、凄く嬉しい。”
昨日本当に嬉しそうな顔で私にそう言った佐伯さんの顔を思い浮かべながら、“お父さん”と呼んでいる人やその幼馴染みから佐伯さんは“可哀想”と思われているのかもしれないと思った。
俯いていたとしても魅力しかないようなこの女の子のことを私はやっぱり“可哀想”だなんて思えなくて、ここまで私に話してくれた佐伯さんに私もこの腫れている目の話をする。
「昨日、私が片想いをしていた人と偶然会ったの。
休憩も兼ねて田代と場所を変えた時、田代の声が大きいから話を聞かれちゃってた。」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説


女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる