34 / 166
3
3-2
しおりを挟む
その日の定時後
「お!お前も戻ったのか、お疲れさん。」
「まだ20時過ぎだから全然疲れてないよ。
営業所の時も残業が当たり前だったし。」
本社のビルには社員食堂の他にもいくつかの休憩スペースが設けられている。
そのうちの1つである1番小さな休憩スペースにいると、田代が私の隣にある自動販売機で炭酸のジュースを買った。
「本社、観葉植物多いよな~。
都会にいると緑が恋しくなるから癒される。」
営業所とは違い観葉植物に囲まれた休憩スペース。
ここの休憩スペースにはベンチが2つ置かれているだけだけど、観葉植物に囲まれた静かなこの空間は確かに癒されるような気もする。
「ここ、経理部と財務部があるフロアみたいだな。
お前もここを選ぶとは。」
「営業部のフロアだとまだ残ってる人がいたからね。
田代こそここを選ぶとはね。」
「こういう初日のことを俺はもう嫌というほど経験したからな。
どうせお前のことを聞かれまくるだけだからここに避難してきた。
“普通”じゃない幼馴染みを持つとマジ大変。」
「ごめんね。」
「そこは“ありがとう”にしておけよ。」
「うん、ありがとう。
田代って普通に良い男なのにね。
営業所の時に彼女作っちゃえば良かったのに。」
「逆にモテすぎたことにより恐ろしくなって誰とも付き合えなかった。」
「どういうこと?」
「誰か1人選んだ後が怖いだろ。
他の女の子達、そうなったらその後どうなるんだよ?」
「知らない、私も誰か1人を選んだことはないから。」
「間中が相手だったら他の女の子達も諦められるかもしれないぞ?
あいつ可愛い見た目してるし。」
「それは無理だって。
私は女だもん。」
「お前は女じゃないから大丈夫だって!」
「私は女なんだってば、良い加減そこは認めてよ。」
「女って言っても股に穴があるだけだろ?
俺だって尻に穴があるからお前とほぼ変わらねーから。」
「バカ。」
「俺、お前より勉強出来たし~。」
「少しでしょ?
そんなことばっかり言ってたらまたモテないよ?」
「俺と同じ“純”なんて名前になりやがって。
それで男の俺よりも男とかマジで勘弁しろよ。
お前、本当は股に男のモノがついてるだろ?」
いつも言うようなことを田代が言った時・・・
「キミ、それセクハラだからね。
研修を定期的に受けているのにそんな発言をしているなんて、研修を受けさせている意味が全くないようだね。」
落ち着いた男の人の声が聞こえた。
田代と並び自動販売機の壁に寄り掛かっていた身体を離し、自動販売機の向こう側にいるであろうその人のことを見た。
そしたら、田代と同じくらいの見た目レベルの男が・・・私達よりも年上に見える男がいて・・・。
自動販売機から身体を出した私のことを不思議そうな顔で見詰めてきた。
そして・・・
「なんだ、普通の女の子だね。」
私のことを“普通”の女の子と言って・・・
「嫌だと思ったら嫌だとちゃんと声に出した方が良い。
もしも本人に言えないようなら上司や会社の相談窓口に相談出来るからね。」
セクハラのアドバイスを“普通”に私にしてきて、それには凄く驚きながらも口にした。
「上司からも“男の子”だって言われました・・・。」
「そうなの?どこの部署の誰から?」
「営業部の部長から。」
「それは可哀想に。
俺から人事部に報告しておくよ。
キミの名前は?」
「園江です。」
「園江さんね。」
男の人が真面目な顔で頷き、また口を開いた。
「園江純さんだよね。」
そう言われて・・・
“純愛”と訂正するのが恥ずかしかったので小さく頷いた。
「アナタのお名前を伺ってもよろしいですか?」
「俺は砂川。
財務部に所属している砂川進。」
「砂川さん・・・。」
砂川さんは私の目の前の自動販売機で何かのボタンを押した。
自動販売機から取り出した飲み物は砂川さんには似合わないようなピンク色の桃の缶ジュース。
「桃ジュース、好きなんですか?」
「頭を使うと甘い物を取りたくなるんだよね。
今日はまだ残業だから。」
それを聞き、私は自動販売機でミルクティーを買った。
「はい、どうぞ。」
「え・・・。」
「こいつからのセクハラの件のお礼です。
あんな風に誰かにフォローして貰えたのは生まれて初めてでした。
ありがとうございました。」
自然に笑いながら砂川さんにお礼を伝えると、砂川さんはやけにジッと私の顔を見下ろしてきた。
「俺は女の子のこととか全く分からないけど、やっぱり普通の女の子なのにね。
身長が高いからかな?」
「そうですかね・・・っ。」
私の身長のことだけを大真面目な顔で言って、私からミルクティーを受け取り砂川さんは観葉植物の向こう側へと歩いていった。
「凄い良い人だったね・・・。」
「どこがだよ・・・。
本社に異動になったばっかで、俺セクハラで地方に飛ばされるかもしれねーのに。」
「それは自業自得。」
「すみませんでした・・・。」
田代の謝罪に笑いながら観葉植物の方から目が離せなかった。
私のことを初めて“女の子”として扱ってくれた砂川さんの後ろ姿はもう見えないのに、どうしても視線を移せなかった。
たまに痛くなる私の胸は小さくだけどドキドキとした。
痛くはないドキドキで・・・
なんとなくだけど、温かく感じた。
「お!お前も戻ったのか、お疲れさん。」
「まだ20時過ぎだから全然疲れてないよ。
営業所の時も残業が当たり前だったし。」
本社のビルには社員食堂の他にもいくつかの休憩スペースが設けられている。
そのうちの1つである1番小さな休憩スペースにいると、田代が私の隣にある自動販売機で炭酸のジュースを買った。
「本社、観葉植物多いよな~。
都会にいると緑が恋しくなるから癒される。」
営業所とは違い観葉植物に囲まれた休憩スペース。
ここの休憩スペースにはベンチが2つ置かれているだけだけど、観葉植物に囲まれた静かなこの空間は確かに癒されるような気もする。
「ここ、経理部と財務部があるフロアみたいだな。
お前もここを選ぶとは。」
「営業部のフロアだとまだ残ってる人がいたからね。
田代こそここを選ぶとはね。」
「こういう初日のことを俺はもう嫌というほど経験したからな。
どうせお前のことを聞かれまくるだけだからここに避難してきた。
“普通”じゃない幼馴染みを持つとマジ大変。」
「ごめんね。」
「そこは“ありがとう”にしておけよ。」
「うん、ありがとう。
田代って普通に良い男なのにね。
営業所の時に彼女作っちゃえば良かったのに。」
「逆にモテすぎたことにより恐ろしくなって誰とも付き合えなかった。」
「どういうこと?」
「誰か1人選んだ後が怖いだろ。
他の女の子達、そうなったらその後どうなるんだよ?」
「知らない、私も誰か1人を選んだことはないから。」
「間中が相手だったら他の女の子達も諦められるかもしれないぞ?
あいつ可愛い見た目してるし。」
「それは無理だって。
私は女だもん。」
「お前は女じゃないから大丈夫だって!」
「私は女なんだってば、良い加減そこは認めてよ。」
「女って言っても股に穴があるだけだろ?
俺だって尻に穴があるからお前とほぼ変わらねーから。」
「バカ。」
「俺、お前より勉強出来たし~。」
「少しでしょ?
そんなことばっかり言ってたらまたモテないよ?」
「俺と同じ“純”なんて名前になりやがって。
それで男の俺よりも男とかマジで勘弁しろよ。
お前、本当は股に男のモノがついてるだろ?」
いつも言うようなことを田代が言った時・・・
「キミ、それセクハラだからね。
研修を定期的に受けているのにそんな発言をしているなんて、研修を受けさせている意味が全くないようだね。」
落ち着いた男の人の声が聞こえた。
田代と並び自動販売機の壁に寄り掛かっていた身体を離し、自動販売機の向こう側にいるであろうその人のことを見た。
そしたら、田代と同じくらいの見た目レベルの男が・・・私達よりも年上に見える男がいて・・・。
自動販売機から身体を出した私のことを不思議そうな顔で見詰めてきた。
そして・・・
「なんだ、普通の女の子だね。」
私のことを“普通”の女の子と言って・・・
「嫌だと思ったら嫌だとちゃんと声に出した方が良い。
もしも本人に言えないようなら上司や会社の相談窓口に相談出来るからね。」
セクハラのアドバイスを“普通”に私にしてきて、それには凄く驚きながらも口にした。
「上司からも“男の子”だって言われました・・・。」
「そうなの?どこの部署の誰から?」
「営業部の部長から。」
「それは可哀想に。
俺から人事部に報告しておくよ。
キミの名前は?」
「園江です。」
「園江さんね。」
男の人が真面目な顔で頷き、また口を開いた。
「園江純さんだよね。」
そう言われて・・・
“純愛”と訂正するのが恥ずかしかったので小さく頷いた。
「アナタのお名前を伺ってもよろしいですか?」
「俺は砂川。
財務部に所属している砂川進。」
「砂川さん・・・。」
砂川さんは私の目の前の自動販売機で何かのボタンを押した。
自動販売機から取り出した飲み物は砂川さんには似合わないようなピンク色の桃の缶ジュース。
「桃ジュース、好きなんですか?」
「頭を使うと甘い物を取りたくなるんだよね。
今日はまだ残業だから。」
それを聞き、私は自動販売機でミルクティーを買った。
「はい、どうぞ。」
「え・・・。」
「こいつからのセクハラの件のお礼です。
あんな風に誰かにフォローして貰えたのは生まれて初めてでした。
ありがとうございました。」
自然に笑いながら砂川さんにお礼を伝えると、砂川さんはやけにジッと私の顔を見下ろしてきた。
「俺は女の子のこととか全く分からないけど、やっぱり普通の女の子なのにね。
身長が高いからかな?」
「そうですかね・・・っ。」
私の身長のことだけを大真面目な顔で言って、私からミルクティーを受け取り砂川さんは観葉植物の向こう側へと歩いていった。
「凄い良い人だったね・・・。」
「どこがだよ・・・。
本社に異動になったばっかで、俺セクハラで地方に飛ばされるかもしれねーのに。」
「それは自業自得。」
「すみませんでした・・・。」
田代の謝罪に笑いながら観葉植物の方から目が離せなかった。
私のことを初めて“女の子”として扱ってくれた砂川さんの後ろ姿はもう見えないのに、どうしても視線を移せなかった。
たまに痛くなる私の胸は小さくだけどドキドキとした。
痛くはないドキドキで・・・
なんとなくだけど、温かく感じた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる