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その日の夜
「は・・・?
純愛、ホールディングスに出向する方を選んだのか・・・?」
家に帰って来たお兄ちゃんを玄関まで出迎え伝えると、お兄ちゃんは凄く驚きながら家に入ってきた。
「お前、昼休みに俺に電話してきた時は辞めるって言ってただろ。
さっき駅で田代に会ったけど、田代もお前が辞めると思ってたぞ?」
「うん、田代は営業先から直帰だったから社内で会わなくて。
後でメッセージでも送ろうと思ってたところなんだよね。」
リビングに入りスーツのジャケットを脱いでいくお兄ちゃんの姿をソファーに座りながら見る。
「私がホールディングスに出向になるの、怒ってる?」
「まあな。」
「何で?」
「何でってお前・・・」
お兄ちゃんがネクタイを外しながら言葉を切り、凄く怒った顔で私の方を見た。
「俺と同じビルに純愛も入るってことだろ。
今の会社でも“残念な兄”だって認識される。
この歳で課長に昇進して、会社じゃ結構女の子達からの人気もあって、やっと男としての自信を持てたところだっていうのに。」
「怒るところそこなの?」
「そこしか怒るところはないだろ。
何で急にホールディングスに出向する方を選んだんだよ。
しかも経理部だろ?
経理部っていったらいるだろ、あいつ。」
私が砂川さんと身体の関係“だけ”があったことを知っているお兄ちゃんが全然普通の顔で言ってきた。
それに私も笑顔を作り答える。
お互いに営業で成績を出してきた私達。
こんな風に顔を作ることなんて何でもない。
「ホールディングスの経理部に佐伯さんっていう女の子がいるの知ってる?」
「佐伯さんな、知ってる。
経理部の3姉妹の次女。」
「佐伯さんも姉妹で同じ会社なんだ?」
「本当の姉妹なわけじゃなくて3人でセットみたいな3人組なんだよ。
分家の羽鳥さんっていう人が教育担当をしてて、下に若い女の子2人がついているうちの1人。」
“羽鳥さん”
お兄ちゃんからその名前が出て来て思わず反応してしまいそうになり、無理矢理普通の顔を張り付ける。
「佐伯さんが何?
・・・そういえば今日、佐伯さんから純愛のことを聞かれた。」
「そうなの?」
「うん、他の人からもお前のことを聞かれることは結構あるから、その時は“佐伯さんと喋れてラッキー”くらいにしか思ってなかったけど。」
「佐伯さん、私の何を聞いてたの?」
「俺らの親の話とか俺との仲とか、友達の話とか学生時代の様子とか部活とか営業時代の話、あとは・・・」
お兄ちゃんが顔を崩して苦笑いをした。
「男関係性の話。」
「それ、何て答えたの?」
「知らないって答えた。
兄妹でそういう話はしないって。」
「まあ・・・実際にしてないからね。」
「詳しくはな。」
普通の顔をしているお兄ちゃんの顔を見上げながら私も頷く。
それから“残念な兄”と呼ばれてしまうお兄ちゃんから視線を逸らして笑った。
「私、佐伯さんから命も身体も貰われちゃった。」
「何だよそれ?」
「よく分からないけど、それで明日付けで増田ホールディングスの経理部へ出向になっちゃった。」
「だから、何でだよ?」
「私の命も身体も佐伯さんの物だからじゃない?」
私が口にした言葉にお兄ちゃんが真剣な顔で答える。
「純愛、遂に女の子と付き合うのか。
それも佐伯さんと。
俺、羽鳥さんの次に佐伯さんのことを狙ってたのに残念すぎる。」
「バカじゃないの?」
私と先に出会った女の子達は私にお兄ちゃんがいると知ると必ずお兄ちゃんのことを見に行く。
そして必ずガッカリしてしまい、いつしか“残念な兄”と呼ばれるようになった。
性格のことは置いておき、あんなに綺麗で可愛い佐伯さんから話し掛けられて舞い上がったであろう“残念な兄”にそう言い、ソファーに勢いよく寝転がった。
「私のことをペラペラ喋らないでよ。」
「あの佐伯さんがわざわざ俺の所に来て喋り掛けてきたんだぞ?
それは出来るだけ長く喋るだろ。」
「お兄ちゃんってドMだったんだ、気持ち悪。」
ドSどころか“狂気”の女である佐伯さんの姿を思い浮かべながら口にした。
「は・・・?
純愛、ホールディングスに出向する方を選んだのか・・・?」
家に帰って来たお兄ちゃんを玄関まで出迎え伝えると、お兄ちゃんは凄く驚きながら家に入ってきた。
「お前、昼休みに俺に電話してきた時は辞めるって言ってただろ。
さっき駅で田代に会ったけど、田代もお前が辞めると思ってたぞ?」
「うん、田代は営業先から直帰だったから社内で会わなくて。
後でメッセージでも送ろうと思ってたところなんだよね。」
リビングに入りスーツのジャケットを脱いでいくお兄ちゃんの姿をソファーに座りながら見る。
「私がホールディングスに出向になるの、怒ってる?」
「まあな。」
「何で?」
「何でってお前・・・」
お兄ちゃんがネクタイを外しながら言葉を切り、凄く怒った顔で私の方を見た。
「俺と同じビルに純愛も入るってことだろ。
今の会社でも“残念な兄”だって認識される。
この歳で課長に昇進して、会社じゃ結構女の子達からの人気もあって、やっと男としての自信を持てたところだっていうのに。」
「怒るところそこなの?」
「そこしか怒るところはないだろ。
何で急にホールディングスに出向する方を選んだんだよ。
しかも経理部だろ?
経理部っていったらいるだろ、あいつ。」
私が砂川さんと身体の関係“だけ”があったことを知っているお兄ちゃんが全然普通の顔で言ってきた。
それに私も笑顔を作り答える。
お互いに営業で成績を出してきた私達。
こんな風に顔を作ることなんて何でもない。
「ホールディングスの経理部に佐伯さんっていう女の子がいるの知ってる?」
「佐伯さんな、知ってる。
経理部の3姉妹の次女。」
「佐伯さんも姉妹で同じ会社なんだ?」
「本当の姉妹なわけじゃなくて3人でセットみたいな3人組なんだよ。
分家の羽鳥さんっていう人が教育担当をしてて、下に若い女の子2人がついているうちの1人。」
“羽鳥さん”
お兄ちゃんからその名前が出て来て思わず反応してしまいそうになり、無理矢理普通の顔を張り付ける。
「佐伯さんが何?
・・・そういえば今日、佐伯さんから純愛のことを聞かれた。」
「そうなの?」
「うん、他の人からもお前のことを聞かれることは結構あるから、その時は“佐伯さんと喋れてラッキー”くらいにしか思ってなかったけど。」
「佐伯さん、私の何を聞いてたの?」
「俺らの親の話とか俺との仲とか、友達の話とか学生時代の様子とか部活とか営業時代の話、あとは・・・」
お兄ちゃんが顔を崩して苦笑いをした。
「男関係性の話。」
「それ、何て答えたの?」
「知らないって答えた。
兄妹でそういう話はしないって。」
「まあ・・・実際にしてないからね。」
「詳しくはな。」
普通の顔をしているお兄ちゃんの顔を見上げながら私も頷く。
それから“残念な兄”と呼ばれてしまうお兄ちゃんから視線を逸らして笑った。
「私、佐伯さんから命も身体も貰われちゃった。」
「何だよそれ?」
「よく分からないけど、それで明日付けで増田ホールディングスの経理部へ出向になっちゃった。」
「だから、何でだよ?」
「私の命も身体も佐伯さんの物だからじゃない?」
私が口にした言葉にお兄ちゃんが真剣な顔で答える。
「純愛、遂に女の子と付き合うのか。
それも佐伯さんと。
俺、羽鳥さんの次に佐伯さんのことを狙ってたのに残念すぎる。」
「バカじゃないの?」
私と先に出会った女の子達は私にお兄ちゃんがいると知ると必ずお兄ちゃんのことを見に行く。
そして必ずガッカリしてしまい、いつしか“残念な兄”と呼ばれるようになった。
性格のことは置いておき、あんなに綺麗で可愛い佐伯さんから話し掛けられて舞い上がったであろう“残念な兄”にそう言い、ソファーに勢いよく寝転がった。
「私のことをペラペラ喋らないでよ。」
「あの佐伯さんがわざわざ俺の所に来て喋り掛けてきたんだぞ?
それは出来るだけ長く喋るだろ。」
「お兄ちゃんってドMだったんだ、気持ち悪。」
ドSどころか“狂気”の女である佐伯さんの姿を思い浮かべながら口にした。
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