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3月の凍えるように寒く感じる夜の中、流れる涙は氷のように冷たく私の頬を突き刺してくる。
こんな顔なんてグチャグチャになってしまえばいいのに。
そしたら全て諦めがつくのに。
私が男の人から“女”として見て貰えない言い訳に出来るのに。
「綺麗で格好良いって、全然嬉しくないから・・・。」
私と同じような顔をしている“残念な兄”のことを思い浮かべる。
「“男”としての色気、お母さんのお腹の中に全部忘れないでよ・・・。」
本人には可哀想なので言ったことがない文句を今日も1人で呟く。
砂川さんには何度も言っていた文句を。
砂川さんには何でも言えた。
私は砂川さんの“彼女”なのだと思っていたから。
砂川さんは何でも聞いてくれた。
私はそれを砂川さんが“彼氏”だからなのだと思っていた。
全然違った。
そんなの、全然違っていたのに。
泣きながら早足で歩き続けていた時・・・
「純ちゃん・・・!!!!」
砂川さんが私のことを“純ちゃん”と呼び止めた。
“純”ではなく“純ちゃん”と呼び、今日も呼び止めようとしてくる。
でも・・・
私は少しだけ立ち止まった後にまた歩き出した。
そしたら、聞こえた。
聞こえてしまった。
「純愛(じゅんあ)ちゃん!!!!」
私の下の名前、純愛という家族しか呼ばない名前が・・・。
それには思わず足を止めて砂川さんのことを振り返った。
「その名前、嫌いだって言ったよね・・・!?」
静かな夜の中に私の嘆きが響く。
その嘆きが聞こえているはずの砂川さんは、家の前に立ち怖いくらい真剣な顔で私のことを見詰め・・・。
なんとなく、なんとなくだけど、笑ったように見えた。
優しい笑顔でも困ったような笑顔でも楽しそうな笑顔でもなく、どこか私のことを試しているような笑顔で。
「そうだっけ?
純ちゃんよく覚えてるね。
俺はさっき全て忘れたから忘れちゃってたよ。」
そんなことを言って・・・
元野球部の砂川さんが私に向かって“何か”を投げてきた。
夜の中、街灯の光りを浴びて輝く“何か”。
その“何か”は、2人の距離は結構遠く離れているはずなのに綺麗な軌道を描き私の胸に吸い込まれるように投げ込まれた。
キラキラと光る“何か”を両手で受け取ると・・・
私の手の中には鍵が入っていた。
昔ながらのギザギザの鍵ではなく、今風の鍵。
「それ、この家の新しい鍵だから!!!」
遠く離れた砂川さんがそう叫んできた。
それには驚き砂川さんの方をまた見ると、砂川さんは怖いくらい真剣な顔で私のことを真っ直ぐと見詰めている。
「返す時は俺の家の鍵を開けて返しに来て!!!
昔みたいに郵便受けに入れないで!!!」
そう叫ばれて・・・
「いつでも来ていいから!!!
純ちゃんが・・・純愛ちゃんが疲れた時はまたいつでも来ていいから!!!」
驚きすぎて何も言えない私に砂川さんは満足そうに笑った。
「明日も仕事だから今日はもう寝るね!!
返すなら明日以降また来て!!!」
早足で家の門に入っていく砂川さんのことを黙って見ているしか出来なかった。
あまりにも変わった砂川さんに驚きすぎて。
私にあの新しい家の合鍵まで渡してしまった、相変わらず優しすぎて酷すぎる砂川さんにも驚きすぎて。
寒いはずの夜の中、この両手の中にある鍵だけこんなに温かく感じてしまうことにも驚くしかなくて。
こんな顔なんてグチャグチャになってしまえばいいのに。
そしたら全て諦めがつくのに。
私が男の人から“女”として見て貰えない言い訳に出来るのに。
「綺麗で格好良いって、全然嬉しくないから・・・。」
私と同じような顔をしている“残念な兄”のことを思い浮かべる。
「“男”としての色気、お母さんのお腹の中に全部忘れないでよ・・・。」
本人には可哀想なので言ったことがない文句を今日も1人で呟く。
砂川さんには何度も言っていた文句を。
砂川さんには何でも言えた。
私は砂川さんの“彼女”なのだと思っていたから。
砂川さんは何でも聞いてくれた。
私はそれを砂川さんが“彼氏”だからなのだと思っていた。
全然違った。
そんなの、全然違っていたのに。
泣きながら早足で歩き続けていた時・・・
「純ちゃん・・・!!!!」
砂川さんが私のことを“純ちゃん”と呼び止めた。
“純”ではなく“純ちゃん”と呼び、今日も呼び止めようとしてくる。
でも・・・
私は少しだけ立ち止まった後にまた歩き出した。
そしたら、聞こえた。
聞こえてしまった。
「純愛(じゅんあ)ちゃん!!!!」
私の下の名前、純愛という家族しか呼ばない名前が・・・。
それには思わず足を止めて砂川さんのことを振り返った。
「その名前、嫌いだって言ったよね・・・!?」
静かな夜の中に私の嘆きが響く。
その嘆きが聞こえているはずの砂川さんは、家の前に立ち怖いくらい真剣な顔で私のことを見詰め・・・。
なんとなく、なんとなくだけど、笑ったように見えた。
優しい笑顔でも困ったような笑顔でも楽しそうな笑顔でもなく、どこか私のことを試しているような笑顔で。
「そうだっけ?
純ちゃんよく覚えてるね。
俺はさっき全て忘れたから忘れちゃってたよ。」
そんなことを言って・・・
元野球部の砂川さんが私に向かって“何か”を投げてきた。
夜の中、街灯の光りを浴びて輝く“何か”。
その“何か”は、2人の距離は結構遠く離れているはずなのに綺麗な軌道を描き私の胸に吸い込まれるように投げ込まれた。
キラキラと光る“何か”を両手で受け取ると・・・
私の手の中には鍵が入っていた。
昔ながらのギザギザの鍵ではなく、今風の鍵。
「それ、この家の新しい鍵だから!!!」
遠く離れた砂川さんがそう叫んできた。
それには驚き砂川さんの方をまた見ると、砂川さんは怖いくらい真剣な顔で私のことを真っ直ぐと見詰めている。
「返す時は俺の家の鍵を開けて返しに来て!!!
昔みたいに郵便受けに入れないで!!!」
そう叫ばれて・・・
「いつでも来ていいから!!!
純ちゃんが・・・純愛ちゃんが疲れた時はまたいつでも来ていいから!!!」
驚きすぎて何も言えない私に砂川さんは満足そうに笑った。
「明日も仕事だから今日はもう寝るね!!
返すなら明日以降また来て!!!」
早足で家の門に入っていく砂川さんのことを黙って見ているしか出来なかった。
あまりにも変わった砂川さんに驚きすぎて。
私にあの新しい家の合鍵まで渡してしまった、相変わらず優しすぎて酷すぎる砂川さんにも驚きすぎて。
寒いはずの夜の中、この両手の中にある鍵だけこんなに温かく感じてしまうことにも驚くしかなくて。
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