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強引に引き止められた足は大きくフラつく。
いつもだったらこんなことにはならないはずなのに、さっきから何となく気付いてはいたけど私は相当酔っ払っているらしい。
大きくフラついた身体に驚き、両手を両腕から離した。
そしたら私の両腕を大きくてしっかりしている誰かの手が掴み、私の身体を支えた。
それにも驚きその人の方を見ると・・・
「砂川さん・・・。」
息を上げている砂川さんが困った顔で笑っている。
「純ちゃん、相変わらず歩くのが速いね。」
私の両腕をギュウ─────...としながらそう言って・・・
怖いくらい真剣な顔で口を開いた。
「何で泣いてるの?」
号泣しているであろう理由を聞かれてしまい、それには泣き続けながら笑顔を作った。
「めちゃくちゃ寒くて・・・。」
回らない頭で嘘ではないことを答えると、砂川さんは心配そうな顔で視線を落とした。
「本当だ、凄い震えてる。」
砂川さんの視線を辿るとそこには私の両手があった。
大きく震えている自分の両手を見下ろしながら泣き続ける。
羽鳥さんの手とは全然違う私の両手。
私はこんな手で砂川さんのモノをどうにかしようとしていた。
男の人の手には見えないけれど女の手にも見えないようなこんな手で。
「貸して?」
砂川さんが“貸して”とよく分からないことを言うと、両手を私の両手に伸ばしてきた。
そして・・・
私の両手を取り、信じられないことに砂川さんの大きくて温かい両手で包み込んだ。
「本当だ、凄く冷たいね。」
私の両手が砂川さんに触れて貰えている。
それだけじゃない。
さっきは肩も腕も触れて貰えた。
私の“女の子”の心は喜んでしまう。
男の人に触れて貰えた・・・。
砂川さんに触れて貰えた・・・。
本当はずっと触れて欲しかったのだと今やっと分かった。
「まだ寒い?」
さっきよりも泣いてしまっている私に砂川さんがそう聞き、私の両手から手を離すと自分の鞄を地面に置いた。
それを不思議に思っていると砂川さんはスーツのジャケットを脱ぎ・・・
「貸すよ。」
私の身体にフワッと砂川さんのジャケットが掛けられた。
砂川さんの匂いがする・・・。
抱き締められたことはなかったけれど知っている、“あの頃”と変わらない砂川さんの匂い。
“あの頃”と変わらない砂川さんの優しさ。
温かい砂川さんのジャケットの温もりに私は両手で顔を隠して泣き続ける。
“まるで私の身体を抱き締めて貰えているようだな”と思いながら。
“まるで“女の子”のようだな”と思いながら。
“やっぱり、砂川さんだけは私のことを“女の子”として扱ってくれるな”と思いながら。
酷くもある砂川さんの優しさを久しぶりに受け取り、私は泣き続ける。
「ジャケット・・・ありがとうございます・・・。
もう少し温まったら帰りますので、砂川さんは先に帰ってください・・・っ。
明日も仕事ですし・・・。
ジャケットは砂川さんの家に郵送します・・・っ。」
「俺の家の住所、覚えてるの?」
「はい・・・。」
「そうか。
でも、今はもうあの家に住んでないよ。」
それを聞き私の心は大きくショックを受けた。
砂川さんはもうあの家には住んでいないのだと知ったから。
私と散々一緒に過ごしたあの家はもうなくなってしまったと知ったから。
私の砂川さんへの“愛”を仕舞ったあの家はなくなってしまった・・・。
もう、なくなってしまった・・・。
私の“女の子”としての初めての“愛”が、なくなってしまった・・・。
「俺の家、ここから近いからおいで?」
そんな言葉に私の心はピクリと反応する。
「こんなに泣いてる女の子を置いて行くことは出来ないから。」
砂川さんが地面に置いた鞄を持ち上げたのを気配で感じ取る。
鞄のファスナーを開けている音が聞こえるから。
両手で顔を隠しながら何も答えられずにいると・・・
「純ちゃん、これ・・・。」
砂川さんが私のことを“純ちゃん”と呼び“これ”と言ってきて、思わず両手を顔から離し“これ”を確認した。
そしたら、あった・・・。
可愛くラッピングされている小さな箱が。
砂川さんが羽鳥さんに渡していた物と同じような箱が。
「これ、ホワイトデー。
1度も渡してなくてごめんね?
遅くなったし2年分のバレンタインを1つのお返しで申し訳ないけど受け取って欲しい。」
この小さな箱から目を離すことなく固まる私に砂川さんは続ける。
「1つ付け足すと、これはうちの顧問会計士からのホワイトデーの差し入れで。
貰い物でごめんね?
まさか今日会えるなんて思っていなかったから、何も準備していなくて。」
1つ付け足された内容にも驚き、回らない頭で必死に考える。
羽鳥さんに渡していた物と同じような箱に見えるけど、きっと違う物なのだと考える。
「中身はマカロンらしいんだけど、マカロン好きかな?」
そう聞かれ・・・
砂川さんから、そう聞かれて・・・
私は泣きながら答えた。
「好きです・・・。」
ホワイトデーに貰い物を渡してしまう“そういう砂川さん”に、受け取った2年分のバレンタインのお返しをこの胸に抱き締めながら伝えた。
「大好きです・・・。」
勇気を振り絞って仕舞わずにいた“恋”をやっと砂川さんに渡すことが出来た。
私の“愛”はなくなってしまったけれど、“恋”はやっと砂川さんに渡すことが出来た。
マカロンなんて全然美味しいと思わないけれど、“好き”と・・・“大好き”と言った。
“砂川さんが”という言葉がその前に隠れているはずの言葉だけど、伝えられた。
そんな言葉を渡した私のことを砂川さんは怖いくらい真剣な顔で見下ろしてくる。
今日初めて見たその顔は“そういう砂川さん”ではなくて、なんだか凄く男の人のように見える。
「純ちゃん、俺の家においで。
温かいお茶を出すから、ちゃんと温まってから帰った方が良いよ。」
その言葉を聞き、私は顔を隠すことなく泣いた。
胸のマカロンを抱き締めているから両手を離すことなんて出来なくて。
優しい男であり酷い男でもある砂川さんの顔を見上げながら泣いた。
泣き続ける私に砂川さんは困った顔をすることもなく、真剣な顔のまま片手を私に伸ばしてきた。
そして1歩、私の方に踏み出してきて・・・
私の隣に並び、私の背中に大きな手を添え・・・
私の背中を優しくだけど押してきた。
砂川さんの家にまで行くつもりなんてない私の背中を押されてしまった。
こんなの私には拒否することが出来ない。
婚約者がいる男の家に行くなんてバカなことだと分かるけど、私は好きな人からこんな風にして貰えているのに拒否出来るくらいの女ではない。
私は“そういう女”だから。
私は・・・
私は、“そういう人”・・・。
深呼吸をしながら何度も頭の中でそれを思い浮かべる。
砂川さんは私のことを“女の子”として扱ってくれるけれど、本当の意味で私のことを“女”として見てはいない。
そしてそれは砂川さんだけではなく“みんな”そうで。
私のことは誰1人として“女”として認識していない。
だから・・・
きっとこれは、バカなことにはならない。
私は“そういう人”だから・・・。
自分自身に何度も何度も何度も言い訳をし、砂川さんに背中を押されている身体を1歩、踏み出した。
身体はなんとなく熱い気がするけれど・・・
私はとても寒かったから。
“恋”も“愛”も私の心からなくなってしまい、私の“女の子”の心は空っぽになり、“女”ではない私の心はとても寒かったから。
温まりたかった。
少しで良いから、砂川さんの酷くて優しい温もりで、温まりたかった。
いつもだったらこんなことにはならないはずなのに、さっきから何となく気付いてはいたけど私は相当酔っ払っているらしい。
大きくフラついた身体に驚き、両手を両腕から離した。
そしたら私の両腕を大きくてしっかりしている誰かの手が掴み、私の身体を支えた。
それにも驚きその人の方を見ると・・・
「砂川さん・・・。」
息を上げている砂川さんが困った顔で笑っている。
「純ちゃん、相変わらず歩くのが速いね。」
私の両腕をギュウ─────...としながらそう言って・・・
怖いくらい真剣な顔で口を開いた。
「何で泣いてるの?」
号泣しているであろう理由を聞かれてしまい、それには泣き続けながら笑顔を作った。
「めちゃくちゃ寒くて・・・。」
回らない頭で嘘ではないことを答えると、砂川さんは心配そうな顔で視線を落とした。
「本当だ、凄い震えてる。」
砂川さんの視線を辿るとそこには私の両手があった。
大きく震えている自分の両手を見下ろしながら泣き続ける。
羽鳥さんの手とは全然違う私の両手。
私はこんな手で砂川さんのモノをどうにかしようとしていた。
男の人の手には見えないけれど女の手にも見えないようなこんな手で。
「貸して?」
砂川さんが“貸して”とよく分からないことを言うと、両手を私の両手に伸ばしてきた。
そして・・・
私の両手を取り、信じられないことに砂川さんの大きくて温かい両手で包み込んだ。
「本当だ、凄く冷たいね。」
私の両手が砂川さんに触れて貰えている。
それだけじゃない。
さっきは肩も腕も触れて貰えた。
私の“女の子”の心は喜んでしまう。
男の人に触れて貰えた・・・。
砂川さんに触れて貰えた・・・。
本当はずっと触れて欲しかったのだと今やっと分かった。
「まだ寒い?」
さっきよりも泣いてしまっている私に砂川さんがそう聞き、私の両手から手を離すと自分の鞄を地面に置いた。
それを不思議に思っていると砂川さんはスーツのジャケットを脱ぎ・・・
「貸すよ。」
私の身体にフワッと砂川さんのジャケットが掛けられた。
砂川さんの匂いがする・・・。
抱き締められたことはなかったけれど知っている、“あの頃”と変わらない砂川さんの匂い。
“あの頃”と変わらない砂川さんの優しさ。
温かい砂川さんのジャケットの温もりに私は両手で顔を隠して泣き続ける。
“まるで私の身体を抱き締めて貰えているようだな”と思いながら。
“まるで“女の子”のようだな”と思いながら。
“やっぱり、砂川さんだけは私のことを“女の子”として扱ってくれるな”と思いながら。
酷くもある砂川さんの優しさを久しぶりに受け取り、私は泣き続ける。
「ジャケット・・・ありがとうございます・・・。
もう少し温まったら帰りますので、砂川さんは先に帰ってください・・・っ。
明日も仕事ですし・・・。
ジャケットは砂川さんの家に郵送します・・・っ。」
「俺の家の住所、覚えてるの?」
「はい・・・。」
「そうか。
でも、今はもうあの家に住んでないよ。」
それを聞き私の心は大きくショックを受けた。
砂川さんはもうあの家には住んでいないのだと知ったから。
私と散々一緒に過ごしたあの家はもうなくなってしまったと知ったから。
私の砂川さんへの“愛”を仕舞ったあの家はなくなってしまった・・・。
もう、なくなってしまった・・・。
私の“女の子”としての初めての“愛”が、なくなってしまった・・・。
「俺の家、ここから近いからおいで?」
そんな言葉に私の心はピクリと反応する。
「こんなに泣いてる女の子を置いて行くことは出来ないから。」
砂川さんが地面に置いた鞄を持ち上げたのを気配で感じ取る。
鞄のファスナーを開けている音が聞こえるから。
両手で顔を隠しながら何も答えられずにいると・・・
「純ちゃん、これ・・・。」
砂川さんが私のことを“純ちゃん”と呼び“これ”と言ってきて、思わず両手を顔から離し“これ”を確認した。
そしたら、あった・・・。
可愛くラッピングされている小さな箱が。
砂川さんが羽鳥さんに渡していた物と同じような箱が。
「これ、ホワイトデー。
1度も渡してなくてごめんね?
遅くなったし2年分のバレンタインを1つのお返しで申し訳ないけど受け取って欲しい。」
この小さな箱から目を離すことなく固まる私に砂川さんは続ける。
「1つ付け足すと、これはうちの顧問会計士からのホワイトデーの差し入れで。
貰い物でごめんね?
まさか今日会えるなんて思っていなかったから、何も準備していなくて。」
1つ付け足された内容にも驚き、回らない頭で必死に考える。
羽鳥さんに渡していた物と同じような箱に見えるけど、きっと違う物なのだと考える。
「中身はマカロンらしいんだけど、マカロン好きかな?」
そう聞かれ・・・
砂川さんから、そう聞かれて・・・
私は泣きながら答えた。
「好きです・・・。」
ホワイトデーに貰い物を渡してしまう“そういう砂川さん”に、受け取った2年分のバレンタインのお返しをこの胸に抱き締めながら伝えた。
「大好きです・・・。」
勇気を振り絞って仕舞わずにいた“恋”をやっと砂川さんに渡すことが出来た。
私の“愛”はなくなってしまったけれど、“恋”はやっと砂川さんに渡すことが出来た。
マカロンなんて全然美味しいと思わないけれど、“好き”と・・・“大好き”と言った。
“砂川さんが”という言葉がその前に隠れているはずの言葉だけど、伝えられた。
そんな言葉を渡した私のことを砂川さんは怖いくらい真剣な顔で見下ろしてくる。
今日初めて見たその顔は“そういう砂川さん”ではなくて、なんだか凄く男の人のように見える。
「純ちゃん、俺の家においで。
温かいお茶を出すから、ちゃんと温まってから帰った方が良いよ。」
その言葉を聞き、私は顔を隠すことなく泣いた。
胸のマカロンを抱き締めているから両手を離すことなんて出来なくて。
優しい男であり酷い男でもある砂川さんの顔を見上げながら泣いた。
泣き続ける私に砂川さんは困った顔をすることもなく、真剣な顔のまま片手を私に伸ばしてきた。
そして1歩、私の方に踏み出してきて・・・
私の隣に並び、私の背中に大きな手を添え・・・
私の背中を優しくだけど押してきた。
砂川さんの家にまで行くつもりなんてない私の背中を押されてしまった。
こんなの私には拒否することが出来ない。
婚約者がいる男の家に行くなんてバカなことだと分かるけど、私は好きな人からこんな風にして貰えているのに拒否出来るくらいの女ではない。
私は“そういう女”だから。
私は・・・
私は、“そういう人”・・・。
深呼吸をしながら何度も頭の中でそれを思い浮かべる。
砂川さんは私のことを“女の子”として扱ってくれるけれど、本当の意味で私のことを“女”として見てはいない。
そしてそれは砂川さんだけではなく“みんな”そうで。
私のことは誰1人として“女”として認識していない。
だから・・・
きっとこれは、バカなことにはならない。
私は“そういう人”だから・・・。
自分自身に何度も何度も何度も言い訳をし、砂川さんに背中を押されている身体を1歩、踏み出した。
身体はなんとなく熱い気がするけれど・・・
私はとても寒かったから。
“恋”も“愛”も私の心からなくなってしまい、私の“女の子”の心は空っぽになり、“女”ではない私の心はとても寒かったから。
温まりたかった。
少しで良いから、砂川さんの酷くて優しい温もりで、温まりたかった。
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