“純”の純愛ではない“愛”の鍵

Bu-cha

文字の大きさ
上 下
15 / 166
1

1-15

しおりを挟む
ここ数年は3月でも昼間は凄く暑く、スプリングコートを着ることもしていない。
去年の今日や一昨年の今日の夜よりもずっと寒く感じるような夜の中を、スーツのジャケットだけを羽織っている自分の両腕を自分で抱き締める。



女の子達からは何度も抱き締められたこの身体。



でも、私は男の人からこの身体を抱き締めて貰えたことがない。
1度もこの身体を抱き締めて貰えた経験がないまま30歳になってしまった。



砂川さんから抱き締めて貰ったこともなかった。



抱き締めて貰うどころか、この肩に触ってくれたこともない。
この腕に触れてくれたこともない。
私のこの手を、この指先を、砂川さんは1度も触れてくれなかった。



それでも・・・



それでも、こんな私の身体の中でたった1つだけある女の場所、この穴だけは砂川さんと触れ合えていた。



この穴にだけは砂川さんのモノが入っていた。
何度も何度も何度も、私が入れていたから。



砂川さんの心も砂川さんのモノも全くやる気はなかったけれど、毎回どうにかして・・・たまに出来ない日もあったけれど、入れられていた。



どう思っただろう・・・。



性欲なんて全くなかったような砂川さんは私としか経験がなくて。
増田生命にいるどの男性社員よりも女の子にモテるような私としか経験がなくて。



そんな砂川さんが“素晴らしい”としか言いようがないような羽鳥さんの裸を見て、どう思っただろう・・・。



全然違った・・・。



服の上からでも分かるくらい、羽鳥さんはスーツ姿でも“とんでもない身体”をしているのが分かった。



こんな身体の私とは全然違う。



私の裸なんて見ても毎回何の反応もしていなかった砂川さんは、羽鳥さんの裸を見てどう思っただろう・・・。



どう思っただろう・・・。



昔見た私の裸のことをどう思っただろう・・・。



「私の方こそ忘れて欲しい・・・。
全部・・・全部、忘れて欲しい・・・。」



何にも反応してくれない砂川さんのモノを必死にどうにかしようとしていた私の姿を。
どうにかなった時は必死になって砂川さんの上に股がり1人で動いていた私の姿を。



避妊具なんて意味がなかったのではないかと思ってしまうくらい、砂川さんは数える程しか射精することはなかった。



どう思っただろう・・・。



羽鳥さんの裸を見て、羽鳥さんの身体に触れて、羽鳥さんの穴の中に入って、砂川さんはどう思っただろう・・・。



どんな風にしたんだろう・・・。



どんな風に愛してくれるんだろう・・・。



砂川さんは“女の子”として好きな相手を、どんな風に抱いてくれるんだろう・・・。



“良いな”と思ってしまう。



“羨ましいな”と思ってしまう。



変な妄想ばかりが止まらなくて、“私もそんな風にして欲しかった”と思ってしまう。



“私もそんな風に愛して欲しかった”と思ってしまう。



“あんな風”にしか出来なかったエッチに、“あの頃”の私はどうして満足していたんだろう。



指1本触れてくれなかった砂川さんのことをどうして“彼氏”なのだと思っていたのだろう。



どうして・・・



どうして・・・



どうして、全部を忘れさせようとしてくるんだろう。



砂川さんとの“あの頃”が消えてしまったら私の“女の子”としての心と身体はどうなってしまうんだろう。



砂川さんと再会してしまい凄く凄く最悪だったけれど、この気持ちは確かに私の“女の子”の心で。
砂川さんとの“あの頃”があるから抱く、“女の子”としての最悪な思いで。



忘れたくなんてなかった。



私は砂川さんとの“あの頃”を忘れたくなんてない。



砂川さんにとっては忘れたい出来事だっただろうけど、私にとってはとても大切でとても貴重な日々だった。



この先もう二度とないであろう楽しくて幸せな日々だった。



私の未来にはもう“そういうの”はない。



だって、私は“そういう女”だから。



“そういう人”だった砂川さんは羽鳥さんと出会ったことによって変われたけれど、私はこの先の未来でもずっと“そういう女”でしかない。



“女”なのかも自信はない。



私も“そういう人”。



昔の砂川さんと同じ、“そういう人”。



「会いたかったな・・・。」



“そういう人”だった砂川さんと会いたかった。
私にとっては悪い意味で変わってしまった砂川さんではなく、私は“そういう砂川さん”と会いたかった。



“そういう砂川さん”に“女の子”として扱って欲しかった。



“そういう砂川さん”に“純ちゃん”と呼んで欲しかった。



女の子のことを“ちゃん”付けで呼んだことがないと言って狼狽えまくっていた砂川さんの姿を思い出す。



“純ちゃん”と・・・。



砂川さんは“純ちゃん”と、一生懸命呼んでくれていた。



そんな“あの頃”の砂川さんを思い浮かべながら歩いていた時・・・



「純ちゃん・・・!!」



と・・・。



随分と大きな声で“純ちゃん”と叫ぶ男の人の声がして・・・



「待って・・・!!」



そんな声もしたかと思ったら、その瞬間・・・



誰かが私の肩を掴み・・・



早足で歩く私の足を強引に引き止めてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。 十分以上に勝算がある。と思っていたが、 「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」 と完膚なきまでに振られた俺。 失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。 彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。 そして、 「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」 と、告白をされ、抱きしめられる。 突然の出来事に困惑する俺。 そんな俺を追撃するように、 「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」 「………………凛音、なんでここに」 その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...