上 下
7 / 166
1

1-7

しおりを挟む
─────────────────・・・



「すみません!俺そろそろ失礼します!」



田代が財布を取り出しながらそう言ったので腕時計を見ると、もう22時になっていた。
あれから4人で結構盛り上がりお酒も進んでいた。



「ここは俺がご馳走するから。
久しぶりに田代君にも会えて楽しかったよ。」



「じゃあお言葉に甘えて!あざっす!!
純、これホワイトデー!!」



「ありがとう・・・。」



コンビニのビニール袋を渡され袋を覗いてみると・・・



まさかの避妊具の箱が入っていた。
私が“女になれる物”とリクエストをしたのでコレを買ってきてくれたのだと分かる。



分かるけど・・・



「バカ・・・。」



笑いながらその言葉を口に出すと田代が大きく笑った。



「ホワイトデーにお返しが欲しかったとか号泣されて、ソレに辿り着くまでかなり悩んだんだからな!!」



「うん、ありがとう。
バレンタインのお返しを貰えたのは生きてて初めてだからめちゃくちゃ嬉しい。」



少し泣きそうになりながら避妊具の箱が入ったビニール袋を抱き締めた。
この先コレを使う日が来るかなんて分からないけれど、使用期限を迎えてしまう前に使える日が来ることを泣きそうになりながらも願った。



「砂川課長、私もお先に失礼しますね。」



羽鳥さんがブランド物の鞄からブランド物の財布を取り出したのを見て、私も鞄を手に取った。



「羽鳥さん、ここは俺が出しますから。」



「いいんですか・・・?」



「勿論で・・・」



鞄を持ち立ち上がっている私の方を砂川さんが見た。



「す・・・。」



残りの“す”だけを口にし、砂川さんは困ったように笑った。



「羽鳥さん、本当に申し訳ありませんがあと少しだけお時間よろしいですか?
なんだか・・・今日は凄く楽しくて・・・。」



砂川さんが照れた顔で羽鳥さんに笑い掛けながらそんな言葉を言っている。
私が聞いたこともない言葉を羽鳥さんには一生懸命な様子で伝えている。



“変わったな”と思った。



砂川さんはこんなことを言うような人ではなかった。



こんなことを思うような人でもなかった。



“良いな”と思ってしまった。



“羨ましいな”と思ってしまった。



“私にもそんな風に言って欲しかったな”と。



“私にもそんな風に思って欲しかったな”と。



そんなことを思ってしまった。



増田ホールディングスに転籍になる前日、砂川さんはあっさりと私に“元気でね”と伝えた。



“セフレという関係が終わるタイミングが全く分からなかったけど、このタイミングなのかなと思って”



困った顔で笑いながら私にそう言った。



“好き”や“付き合って”や“彼氏”や“彼女”なんていう恥ずかしい言葉を口に出来なかった私に。



そんな言葉を口にすることがなかった砂川さんに何の疑問も抱かなかった私に。



砂川さんはそんな言葉を言えるような人ではなかったから。



だから何の疑問も何の心配もしていなかった。



私のことは“女の子”としての“好き”ではないことは分かっていたけれど、砂川さんは“そういう人”だったから。



だから私は大きな勘違いをしてしまっていた。



女の子達から見返りを求められない多くの“純愛”を受け続けていたから、砂川さんの“ソレ”も“純愛”なのだと思ってしまっていた。



だって、砂川さんは私のことを1番に考えてくれていた。



私が幸せになることを1番に考えてくれていた。



私に何の見返りを求めることもなく、私が幸せになることだけを考えてくれていた。



それがちゃんと分かっていたから砂川さんからの“恋”は貰えなくても良いと思っていた。



私達の3年間は身体“だけ”の関係だったのに・・・。
砂川さんにとっては“それだけ”の関係だったのに・・・。



男の人と恋愛をした経験がなかった私は、“それだけ”の関係だった砂川さんと“付き合っている”と、“彼氏”と“彼女”なのだと、そんな大きな勘違いをしてしまっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

先生、生徒に手を出した上にそんな淫らな姿を晒すなんて失格ですよ

ヘロディア
恋愛
早朝の教室に、艶やかな喘ぎ声がかすかに響く。 それは男子学生である主人公、光と若手美人女性教師のあってはならない関係が起こすものだった。 しかしある日、主人公の数少ない友達である一野はその真実に気づくことになる…

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

処理中です...