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龍二に右手を繋がれ家まで歩く。
「頬、痛い?」
「少しね?」
「俺、最近平気だったのにな~。」
「そうだねぇ。
でもお父さんが昔からよく言ってるけど、龍二は炎を持ってるからすぐカッとなっちゃうからね。」
「迷惑かけて悪かった。」
「あたしのせいでしょ?」
あたしは立ち止まり、龍二のことを見上げる。
「昔から龍二がカッとなるのはあたしのせい。」
「別に杏のせいではない。
ただ俺がその時にイライラしてただけ。」
「龍二、あたしもう子供じゃないから大丈夫だよ?」
龍二から繋がれた手を離そうとする。
そしたら、龍二がさらに強く握ってきた。
「龍二・・・。
もう大丈夫なの。
ちゃんと1人でもあたしはもう大丈夫なんだよ?」
あたしの言葉に龍二は大きく笑った。
「1年通ってる道も覚えられねぇだろ。」
「帰りもみんなが使ってる電車の方を使うよ。
そしたら他の生徒も沢山いるから駅までの道が絶対に分かるし。」
「それは絶対にやめろ。
朝のあの早い時間なら中学の奴らもあの電車にはほぼ乗ってないだろうし、乗ってたとしても満員電車で気付かれない。
でも帰りの時間にあの電車を使って同じ車両にでもいてみろよ、一発でお前だってバレる。
何の為にこのわざわざ遠い高校を・・・、中学の奴らが毎年進学してないような偏差値の高いこの高校を選んだと思ってるんだよ?」
龍二の左手が私の右手をまたギュッと握ってきた。
「杏に・・・」
龍二があたしの顔から視線を逸らし、前を真っ直ぐと向いて笑った。
「杏に素敵な彼氏ができるまで・・・。」
小さな小さな声だったので何となくしか聞き取れない。
「え?なに?」
聞き返したあたしに龍二の横顔は笑い続け、あたしの右手を引いてまた歩き始めた。
「杏に素敵な彼氏とやらが出来るまでは、兄貴である俺が一緒にいてやるから。
俺、杏の結婚式でスピーチをするの結構楽しみだし。
笑いもそこそことって、最後は感動でみんなが泣くくらい、それくらいの話をしてやるよ。」
「自分でハードル上げちゃってるけど大丈夫?」
「全然大丈夫。」
龍二が力強い声で返事をした。
「その結婚式の中で俺のスピーチが杏の中でも1番良かったと思うくらいの話を俺がする。
バージンロードを歩いたことでもなく、旦那と誓いのキスをしたことでもなく、旦那とケーキカットをしたことでもなく、俺の話が1番杏の中に残るくらいの話をする。」
「その言葉、絶対に忘れないでよ?
あたしの変な話で終わるとか絶対にナシだからね?」
「俺は記憶力が昔から良いから杏とのどんなことでも忘れたことなんてねーよ。
すぐに何でも忘れるのはお前だろ?」
「あたしだって・・・、すぐに忘れちゃうこともあるけど、最近は昔のことをよく夢に見るようになったから結構思い出してきたもん。」
「昔のことって?」
「小学生の頃とか・・・。
あとは幼稚園の時の夢とか・・・。
お兄ちゃんが一人暮らしを始めた頃からかな、何でか毎日のように見るようになった。」
あたしも龍二の手をギュッと握り返した。
「凄く凄く怖い夢だけど、龍二がいつも助けてくれる夢。」
「・・・・。」
「龍二がいつもあたしのことを守ってくれる夢。」
「・・・・・。」
「龍二がいつもあたしのことを見付けてくれる夢。」
「・・・・・。」
「それで、龍二の隣にあたしがいる夢。」
素直にこんなことを言うのは恥ずかしいけれど、谷間さんのことで谷間さんの親からも高校からも“何か”があるかもしれない龍二に、あたしだけはこの言葉を伝える。
「いつもあたしのことを助けてくれて、守ってくれて、見付けてくれて、隣にいてくれて、ありがとうね?」
最近夢によく見る“あの頃”の龍二の姿と重ねながら、伝える。
「素敵な彼氏が出来るようにあたしも頑張るけど、それまでは龍二の隣はあたしの居場所になっちゃうね、ごめんね?」
「・・・・・。」
何も答えてくれない龍二の横顔に、伝えた。
「こんな妹がいて、ごめんね?」
やっぱり龍二は何も答えてはくれなかったけれど、私の右手はずっと握り続けていてくれていた。
.
「頬、痛い?」
「少しね?」
「俺、最近平気だったのにな~。」
「そうだねぇ。
でもお父さんが昔からよく言ってるけど、龍二は炎を持ってるからすぐカッとなっちゃうからね。」
「迷惑かけて悪かった。」
「あたしのせいでしょ?」
あたしは立ち止まり、龍二のことを見上げる。
「昔から龍二がカッとなるのはあたしのせい。」
「別に杏のせいではない。
ただ俺がその時にイライラしてただけ。」
「龍二、あたしもう子供じゃないから大丈夫だよ?」
龍二から繋がれた手を離そうとする。
そしたら、龍二がさらに強く握ってきた。
「龍二・・・。
もう大丈夫なの。
ちゃんと1人でもあたしはもう大丈夫なんだよ?」
あたしの言葉に龍二は大きく笑った。
「1年通ってる道も覚えられねぇだろ。」
「帰りもみんなが使ってる電車の方を使うよ。
そしたら他の生徒も沢山いるから駅までの道が絶対に分かるし。」
「それは絶対にやめろ。
朝のあの早い時間なら中学の奴らもあの電車にはほぼ乗ってないだろうし、乗ってたとしても満員電車で気付かれない。
でも帰りの時間にあの電車を使って同じ車両にでもいてみろよ、一発でお前だってバレる。
何の為にこのわざわざ遠い高校を・・・、中学の奴らが毎年進学してないような偏差値の高いこの高校を選んだと思ってるんだよ?」
龍二の左手が私の右手をまたギュッと握ってきた。
「杏に・・・」
龍二があたしの顔から視線を逸らし、前を真っ直ぐと向いて笑った。
「杏に素敵な彼氏ができるまで・・・。」
小さな小さな声だったので何となくしか聞き取れない。
「え?なに?」
聞き返したあたしに龍二の横顔は笑い続け、あたしの右手を引いてまた歩き始めた。
「杏に素敵な彼氏とやらが出来るまでは、兄貴である俺が一緒にいてやるから。
俺、杏の結婚式でスピーチをするの結構楽しみだし。
笑いもそこそことって、最後は感動でみんなが泣くくらい、それくらいの話をしてやるよ。」
「自分でハードル上げちゃってるけど大丈夫?」
「全然大丈夫。」
龍二が力強い声で返事をした。
「その結婚式の中で俺のスピーチが杏の中でも1番良かったと思うくらいの話を俺がする。
バージンロードを歩いたことでもなく、旦那と誓いのキスをしたことでもなく、旦那とケーキカットをしたことでもなく、俺の話が1番杏の中に残るくらいの話をする。」
「その言葉、絶対に忘れないでよ?
あたしの変な話で終わるとか絶対にナシだからね?」
「俺は記憶力が昔から良いから杏とのどんなことでも忘れたことなんてねーよ。
すぐに何でも忘れるのはお前だろ?」
「あたしだって・・・、すぐに忘れちゃうこともあるけど、最近は昔のことをよく夢に見るようになったから結構思い出してきたもん。」
「昔のことって?」
「小学生の頃とか・・・。
あとは幼稚園の時の夢とか・・・。
お兄ちゃんが一人暮らしを始めた頃からかな、何でか毎日のように見るようになった。」
あたしも龍二の手をギュッと握り返した。
「凄く凄く怖い夢だけど、龍二がいつも助けてくれる夢。」
「・・・・。」
「龍二がいつもあたしのことを守ってくれる夢。」
「・・・・・。」
「龍二がいつもあたしのことを見付けてくれる夢。」
「・・・・・。」
「それで、龍二の隣にあたしがいる夢。」
素直にこんなことを言うのは恥ずかしいけれど、谷間さんのことで谷間さんの親からも高校からも“何か”があるかもしれない龍二に、あたしだけはこの言葉を伝える。
「いつもあたしのことを助けてくれて、守ってくれて、見付けてくれて、隣にいてくれて、ありがとうね?」
最近夢によく見る“あの頃”の龍二の姿と重ねながら、伝える。
「素敵な彼氏が出来るようにあたしも頑張るけど、それまでは龍二の隣はあたしの居場所になっちゃうね、ごめんね?」
「・・・・・。」
何も答えてくれない龍二の横顔に、伝えた。
「こんな妹がいて、ごめんね?」
やっぱり龍二は何も答えてはくれなかったけれど、私の右手はずっと握り続けていてくれていた。
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