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店に入ると、いつもはやっていないはずなのに店内にはお客様が数人いた。


顔見知りのお客様もいて・・・



「え!!??響華ちゃん!!??
プライベート!!??」



ママのお客様がクラブも利用してくださっているので、響華のことを知っている。
こんなにラフな格好で・・・化粧も薄いので、プライベートなことはバレバレ。



「親父の会社の人なの!!
そういうんじゃないから!!!」



そう言って笑いながら、拓実をカウンターの空いている席に座らせる。
その隣に私が座ると、“ママ”が拓実の目の前に立った。



「良い男だね!!
コタちゃん見る目あるよ!!」



“コタちゃん”とは、私の弟のこと。
ママは小太郎のことを“コタちゃん”と呼ぶ。



「・・・拓実です。」



「旦那からはチラッと聞いたよ!!!
こんなに見た目も良い男だとは思わなかったけど!!!」



“ママ”が大きな声で笑った。



「今日は旦那の・・・社長の驕りだよ!!
好きな物飲み食いしな!!」



そう言って、目の前に並ぶ上等な酒の棚に“ママ”が視線を移した。
拓実がそれを追うように、酒が並ぶ棚を見る。



そして、しばらくして・・・ゆっくりと指を指した。



「ウイスキーを。」



それを聞き、私は少し緊張した・・・。



「ウイスキーの、“響”を。」



私は苦笑いをしながら、“ママ”から視線を逸らした。



拓実がウイスキーの“響”を頼んだから・・・。



あの夜、私が飲んでいたウイスキーの“響”を頼んだから・・・。



だから、拓実は私を“響ちゃん”と呼ぶ。



響歌や響華の“響”ではない。



拓実は、ウイスキーの“響”を飲んでいたから、私を“響ちゃん”と呼んでいる。
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