上 下
203 / 304
14

14-10

しおりを挟む
このおじいさんには申し訳ないけれど、試させてもらった。
抑え込む力はないとしても、その“目”はまだ生きているのか試させてもらった。



俺は・・・俺と長峰は、高みを目指さなければいけないから。
それはこの会社でなくなっていい。



和の会社にだって何度も誘われていた。
なんなら、藤岡社長にだって何度も誘われていた。



でも、俺と長峰は須崎社長と板東社長の元に歩いた。



時代の先を見に、この会社まで歩いてきた。



そして、俺も長峰も秘書になった。



須崎社長でも板東社長でもなく、このタイミングで松居会長が俺と長峰を秘書にしたと聞いた。



だから、試させてもらう。



このおじいさんの“目”がまだ生きているのか、試させてもらう。



そのつもりで松居会長に聞いたら、松居会長は俺の胸の辺りを見ることもなく答えた。



「商店街に並ぶ雪だるまを持ってる。」



自分から聞いたのに、それには驚く。



そんな俺を松居会長は鋭い目で見上げてきた。



その目は須崎社長とよく似ている。
須崎社長よりも、それよりも鋭い。



まるで、人1人どころか何人も、何十人も、何百人も殺したことがあるような目で。



「普通の雪だるまじゃない、まるで化粧をさせたみたいな雪だるま。」



「はい、そうです・・・。
化粧をさせました・・・。」



「長峰と一緒に?」



「須崎社長や板東社長から聞きましたか?」



「聞いてない。
俺は見えても普段は干渉しないことにしているから。
見えいてることによって難しくなってしまうこともあるからな。」



「そうですか・・・。
長峰も商店街の雪だるまを持ってるということですか?」



「そうだな、持っている。」



それを聞き嬉しい気持ちにもなりながら、俺は聞いた。



「僕、それだけですか?
他には何か持っていませんか?」



そう言いながら右手で自分の胸の真ん中をおさえた。



あの日の正仁さんの右手の熱を思い出しながら、おさえた。



松居会長は俺の胸の辺りをジッと見て、すぐに口を開いた。



「それだけだな。
でも、それだけでも持っている人はなかなかいない。
そんなにクッキリとハッキリ、持っている人はなかなかいない。」



そう言われ・・・



そう言ってくれ・・・。



でも、俺は嬉しくなかった。
何も嬉しくなかった。



俺はこの胸に長峰を持つことは出来なかったらしい。
常にこの胸に雪の枝という宝剣があるよう、あの日正仁さんが武器を与えてくれてのに。



でも、俺のこの胸には入ってくれなかった・・・。



長峰は、俺の胸の中にはいなかった・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

それは、あくまで不埒な蜜戯にて

奏多
恋愛
設楽一楓は、高校生の頃、同級生で生徒会長だった瀬名伊吹に弱みを握られて一度だけ体の関係を持った。 その場限りの約束のはずが、なぜか彼が作った会社に働くことになって!?   一度だけのあやまちをなかったことにして、カリスマ的パワハラ悪魔に仕えていた一楓に、突然悪魔が囁いた――。   「なかったことに出来ると思う? 思い出させてあげるよ、あの日のこと」     ブラック企業での叩き上げプログラマー兼社長秘書 設楽一楓 (しだら いちか)  × 元同級生兼カリスマIT社長 瀬名伊吹 (せな いぶき) ☆現在番外編執筆中☆

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。

処理中です...