【完】雪の上に、犬と猿。たまに男と女。

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それは初めて聞く話だったので、俺は身を乗り出した。



「どうしても化粧品会社に就職したかったんだよ、竜は。
それも大きな会社のね。
でも、どこも採用活動は終わっていて、竜は履歴書1枚を握り締めてマツイ化粧品に乗り込んでいった。」



「竜さん、本当にヤバい奴だよね。」



「そうなんだよ、ヤバい奴で。
でも、あいつはなんというか・・・良いことも悪いこともタイミングを掴む奴で。
そういう星の元に生まれたんだろうなと思うような奴で。」



「そうなんだ？」



「うん、で、やっぱりタイミングを掴んだ。」



正仁さんが真剣な顔で、でも半笑いにも見える顔で続けた。



「履歴書のことなんてすっかり忘れて、受付の可愛い女の子達を口説きまくっていたらしい。」



「・・・はあ？」



「本人の言い訳としては、可愛く化粧をした女の子達で、化粧の仕方を聞いていたらしいけどね。」



「そんな言い訳みんな信じたの？」



「一応ね、画家を諦めたタマゴの顔に、自分が代わりに化粧という絵を描いてやるとか、そういうことを2人で大喧嘩してたから。」



「なんだ、あの2人ちゃんとそういうことがあったから結婚したんだ？」



「いや、全然。
結婚した時は売り言葉に買い言葉で、そのままの勢いで結婚してたよ。
1度も付き合うことなくね、俺と絹枝もそうだったけど。」



「雪枝のお父さんとお母さん以上にあの2人は犬猿の仲だしね。
だから離婚しちゃったのかな？」



「・・・本当かは知らないけど、タマゴが不倫をしたことになってる。」



「うわ、それはショック。」



正仁さんは「竜がそう騒いでるだけだとは思うけど」と言った後、またお猪口でお茶を飲んだ。



「まあ、そんな風に色んなタイミングを掴んでしまえる奴で。
だから受付の女の子達を口説きまくっている時に現れたらしい。」



「誰が？」



「マツイ化粧品の社長が。」