【完】雪の上に、犬と猿。たまに男と女。

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駿side.......



“ゆきのうえ商店街には天使が生まれた。
それはそうだよな、白衣の天使から生まれた赤ちゃんなんだから、それは天使だよ。”



父さんがお酒を呑むといつも嬉しそうに笑ってそう言っていた。



“その天使が生まれた日は珍しいくらいの大雪の日だったんだよ。
積もらないっていう天気予報も外れて、予定日より1ヶ月も早く白衣の天使の陣痛が始まった。”



何度も何度も聞いた話を、父さんがいつも嬉しそうに話していく。



“俺もついていったんだよ、白衣の天使を乗せた麒麟に。
いつでも代われるようにな。
でも、やっぱりあいつは麒麟なんだよ。
最初から最後まで歩調が変わることもなく、白衣の天使を運びきった。”



長峰のお母さんのことを白衣の天使と呼び、お父さんのことは麒麟と呼ぶ。



“俺は分娩室の外で待機してたけどな、そこから見える真っ白な世界を眺めながらその鳴き声を聞いた時、思った。
天使が生まれたって、酔っぱらってもないのにそう思ったんだよ。”



長峰のことを父さんは昔から“天使”と呼んでいた。



“あの日から数日後、この商店街の名前はゆきのうえ商店街に変わった。
ゆきのうえ商店街の1人目の天使は雪枝なんだよ。
それまでにも商店街に天使は沢山いたけどな、ゆきのうえ商店街の初めての天使は雪枝。”



何度も何度も聞いた話。
でも、何度聞いても俺が大好きな話だった。



大好きな雪枝が生まれた時の話なのだから、当たり前のように大好きな話だった。