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「どうした?寒い?」



隣に並ぶ宝田の左手に私は右手を伸ばした・・・。
結婚指輪をしていない宝田の左手に・・・。
私の右手をしっかりと握ってきて、この前のようにポケットの中に手を入れてくれた。



「さっき、会社を出る前に板東社長からお説教されちゃった・・・。」



「だからそんなに落ち込んでたんだ?
板東社長、なんだって?」



「・・・私の方が、猿だったらしい。」



「それはそうでしょ。
俺が猿なら犬の長峰をおんぶなんて出来ないし。」



「宝田からおんぶにだっこをして貰うのはそろそろ止めなさいって言われちゃった・・・。」



「・・・あ~・・・それは、俺が須崎社長に“おんぶしたらめちゃくちゃ重かった”って話したからかな?」



そう言いながら、宝田は笑っている。
私の右手を痛いくらいに握りながら、笑っている。



「“夜は宝田が上に乗ってます!”とか言っておけば良かったのに。」



「・・・今日、東京に帰ったら話したい。
家で話そう?」



「別に話すことなんてないけど。
長峰のことをおんぶにだっこしてるなんて思ったこともないし。
実際は・・・俺の方が長峰がいないと無理なのにね。
板東社長、気付いてなかったのかな?」



宝田が笑いながらそう言ってくる・・・。
前だけを向いて歩きながら、そう言ってくる・・・。



「でも、宝田と私のこの関係については・・・私は宝田におんぶにだっこされてる・・・。」



「そんなことないでしょ。」



「私・・・宝田のことを不幸にさせちゃってる・・・。」



「・・・そこそこ幸せですよ、長峰さん。
僕、長峰さんと結婚出来てそこそこ幸せですからね。
毎日毎日、そこそこ幸せなのを噛み締めていますよ。」



「子どもも・・・私、作れないし・・・。」



「子どもなら作りましたから。
この前、雪だるまで僕と長峰さんの子どもを作りましたから。
あれが僕と長峰さんの子どもです。」



宝田が敬語でそんなことを言ってくる。
怯えているのだと分かる。
私に、宝田が怯えているのだと分かる。



「とにかく、話し合いたい・・・。
ちゃんと・・・話し合いたい・・・。
結婚しちゃったんだもん、私達・・・。
だから、ちゃんと話し合いたい・・・。」



私の左手にも結婚指輪は存在しない。
宝田と私は結婚をした・・・。
でも、それは婚姻届を出しただけ・・・。



会社の集中プロジェクト・・・。
その攻撃の1つ目であると気付いていた宝田が、気付いていたのに私には教えてくれずに張り合ってきた・・・。
それで、売り言葉に買い言葉で結婚をしてしまった・・・。



反則をされた・・・。



私は、宝田に反則をされた・・・。



そして、それに気付かないまま・・・



婚姻届を出してしまった・・・。



グルグルと色々なことを思い出しながら、返事をしてくれない宝田の左手を、私も強く握り返した・・・。
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