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「送ってくれてありがとう。」



「うん・・・。」



社宅のマンションの前で向かい合い、私は和君にお礼を言った。



なんだか・・・“女の子”みたいだった・・・。



家の前まで男の人に送って貰えるなんて、なんだか“女の子”になれたみたいだった。



全然違う・・・。



“岩渕さん”だった頃と、全然違う・・・。



それはそうで・・・。
あの頃は、和君の“正義”で私と一緒にいてくれただけで・・・。



こんな目で見てくれていなかった・・・。
あの頃は、ここまで熱い眼差しで見てくれたことなんてなかった・・・。



きっと、なかった・・・。



可愛いから・・・。



今の私は、“可愛い私”だから・・・。



可愛い女の子にはこんな瞳をするらしい・・・。



こんな瞳で・・・



連絡先を聞いてくれて・・・



“また会いたい”と言ってくれて・・・



家の前まで送ってくれるらしい・・・。



その事実を知って・・・



苦しくてなった・・・



悲しくなった・・・



悔しくなった・・・



“岩渕さん”はやっぱり泣きそうになった・・・。



でも、天国のお母さんに見えるように顔を上げ続ける。
初めて男の人に送って貰った、“可愛い私”が見えるように、顔を上げ続ける。



「おやすみなさい。」



和君にそう言って笑い掛ける。
なのに・・・和君は何も言ってくれなくて・・・。



真剣な顔で・・・熱い眼差しで、私を見詰めてきて・・・



「まだ・・・寝ないで・・・。」



と・・・。
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