【完】可愛くて美味しい真理姉

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「ごめん・・・スマホは持ってきたけど、財布また忘れた・・・。」



牛丼屋の前にまた着いたら、和君が困った顔で笑いながらそう言ってきた。



「キャッシュレスになってから財布よく忘れるようになって・・・。
急いでスマホだけ持ってまた来たから・・・ごめん。」



「じゃあ、お金はまた今度だね。」



少し息が上がっている和君にそう言って笑い掛けると、和君も嬉しそうな顔で頷いた。



そして、スマホを私に見せてきて・・・



「連絡先、教えて。」



と・・・。



和君のスマホを眺めた後、和君の顔に視線を移した・・・。



和君は・・・



熱い眼差しで、私を見詰めている・・・。



怖いくらい、熱い眼差しで見詰めている・・・。



気付いていない・・・。



和君は“私”だと気付いていない・・・。



こんなに必死に私の連絡先を知ろうとしていて・・・



“私”が“私”だと、気付いていない・・・。



気付いていないし・・・



きっと、忘れている・・・。



“岩渕さん”のことは忘れている・・・。



もう少し・・・



もう少しだけ・・・



この“私”でもいいから・・・



“可愛い私”でもいいから・・・



近付きたい・・・。



そんなことを考えながら、私はスマホをバッグから取り出した。



「私、真理。貴方の名前は？」



「・・・和雄。」



“和”が取れてしまって、すっかり“雄”になったような和君が私を見下ろしながらゆっくりと近付いてきた・・・。



そしてお互いのスマホを近付け、連絡先を交換した。