上 下
146 / 280
8

8-13

しおりを挟む
「ただいま・・・。」



「お帰り、真理姉!!
面接どうだった?」



理子がカメラを回しながら玄関まで出迎えてくれた。



それに苦笑いをした後、自分の部屋へと向かう。
そんな私の後を理子がカメラを片手についてきて・・・



「ダメだった?」



「うん・・・全然喋れなかった・・・。」



私の面接は、大学の就職課の人達もお手上げ状態で・・・。
何度練習しても私は全然喋れなくて・・・。



コミュ障だった・・・。



クラスでも目立つ女の子達が言うとおり、私はコミュ障だった・・・。



「あ・・・さっき、和君をまた見掛けたよ・・・。」



「そうなんだ!
今度は話し掛けた!?」



「無理だよ・・・。
もう大学も卒業なのに・・・まだリクルートスーツを着てるなんて・・・。」



そう言いながら、カメラを片手に持つ理子に小さく笑い掛けた・・・。



「どうして私は・・・こんな感じなんだろう・・・。
どうしてこの世界は・・・こんなに苦しくて・・・悲しくて・・・悔しくて・・・泣きたくなることばっかりなんだろう・・・。」



そう言って、涙を我慢しながらも理子の顔を見た・・・。



そんな私を、理子が泣きそうな顔で見詰めてくる・・・。



「それでも顔を上げてこの世界を生きる真理姉が、私は大好きだよ。」



そんなことを言ってくれて、可愛く笑い掛けてくれた。



「私にとっては真理姉が1番可愛い。
真理姉のご飯もお菓子も1番美味しい。
他のどんなお母さん達よりも、私にとって真理姉が1番可愛くて美味しい・・・。」



理子がそう言ってくれる・・・。



理子の“お母さん”、桃子さんではなく私のことをそう言ってくれる・・・。



「この家でずっと一緒にいてくれた真理姉が、私にとって・・・たぶん私のお兄ちゃんにとっても、1番可愛くて美味しい“お母さん”だよ。」



理子のそんな言葉には我慢せずに涙を流した・・・。



お父さんもお母さんも、幼い頃に亡くしてしまった理子・・・。



桃子さんは理子の本当の“お母さん”ではない・・・。



理子には“お母さん”がいなかった。
私のように“お母さん”がいなかった。



でも・・・



こんな私でも、少しだけでも、理子の“お母さん”になれていたのかもしれない・・・。



「可愛くて美味しい・・・私の真理姉・・・。」



理子の涙を含んだ声が、私の部屋の中で温かく響いた・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...