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「こんな仕事をしているのでね、色々なお客様から色々な話を聞く機会があります。」



「はい・・・。」



「タクシー運転手の僕の、60歳のオジサンの独り言だと思って聞いてください。」



「うん。」



「若い時だけじゃなくて何歳になっても男と女がいれば・・・いや、男女だけではなくそこに恋や愛が存在すれば、多くの人がそれらに心を振り回されたことがあります。」



「そうなの・・・?
じゃあ、私の今のこの気持ちも普通なのかな・・・。」



「はい、僕から言わせると全然普通のことですね。
よく聞く話過ぎて“またか”と思うくらいの普通の話です。」



「そっか・・・、これ、普通なんだ・・・。」



思わず笑ってしまった私に運転手さんも笑ったのが分かった。



「僕はそのお客さん達がその先の未来でどうなったのかは分かりません。」



「それはそうだね。」



「でも、こんな仕事をしているので僕は人のことを見る目は結構ある方で。」



「そうなんだ?」



「はい、だから僕には乗せたお客様のその先の道が大体分かりますよ。」



「じゃあ、私はこれから先の道でどうなると思います?」



「幸せになりますよ。」



「・・・・絶対テキトーじゃん!!
みんなにそう言ってるでしょ!!!」



突っ込んだ私に運転手さんが大きく笑った。



「バレました?」



「うん、バレバレ。」



「どのお客様も嬉しそうに降りていきますけどね。」



そう言われ・・・



「うん、嬉しいは嬉しいよ。
なんか気分は良い。
もっと元気が出たし、気持ちも軽くなってはいる。」



本当のことを伝えた時、タクシーがとまった。



改めて外を見ると青さんのマンションの前で・・・。



「あ、これ使えますよね?
青さんからお会計の時にこれを渡すように言われて。」



「チケットですね、はい使えます。」



「これで私はお会計を払わなくて大丈夫なんですか?」



「はい、そうです。」



「ごめんなさい、30にもなって普通のことが全然分からなくて。」



謝った私に運転手さんは優しい顔で振り向いた。



そして・・・



「僕も普通のことが分からないままオジサンになりました。」



そう言ったこの人は・・・、このオジサンは・・・・・



「有村さん・・・・・?」



増田財閥の分家の中で1番増田の血が濃い”家“、増田の“家”の秘書の“家”、その家長だった有村さんだった。
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