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青さんが好きな顔で可愛く笑いながら聞いてきた野々ちゃんに、私は口を開いた。



どうしても言わずにはいられなくて。



青さんとの夫婦生活を思い出しながら言った。



「私は全然可哀想じゃない。
加藤の“家“に生まれたから私は好きな男の人と幸せな時間を過ごすことが出来た。
本当ならそんなことが出来なかったはずなのに、私は加藤望だからそれが出来た。
凄く凄く幸せだった。
私はちゃんと幸せだった・・・、本当に、私は、私だけは本当に幸せだった。
だからバレンタインの差し入れを渡せなかったくらい全然可哀想じゃない。」



「ああ、望さんは一平さんのことが男の人として好きらしいですからね!
やっぱり、好きな人と一緒に暮らせるとか凄く幸せですよね、分かります!」



私には余計なことを言わないように言ってきた青さんは、私のことはめちゃくちゃ野々ちゃんに言っているらしい。



「望さんは一平さんのことが好きだから、青さんと一緒に暮らしていても青さんのことが異性として好きとかそういうのはなかったんですよね?
青さんからこの前すぐに聞きました!」



”どうしよう、苦しい・・・。“



“どうしよう、泣きそう・・・。“



「私と再会した後、青さんがすぐに増田清掃に行ったんです。
望さんのことで望さんのお兄さんと話をしたそうですよ。
”俺は望と絶対に結婚しない“と怒鳴り散らしたと聞きました。
仕事とはいえ、彼氏でも何でもない人と一緒に暮らすなんて望さんも大変でしたね。」



この口がもうこれ以上開かないように唇を噛み締める。



青さんとの幸せだった毎日を思い出しながら、その思い出を私だけは忘れてしまわないように必死に思い出し続ける。



青さんにとってはもう、全然幸せな1ヶ月ではなくなってしまったけれど、私だけは絶対に忘れないように。



呆けたお婆さんになった時、青さんとの幸せ
な夢の中にいられるように、必死に思い出し続ける。



青さんと野々ちゃんが2人で並ぶ姿を1ミリも思い浮かべないように。



「じゃあ、私達はこれからデートに行ってきます♪
この前は本当にありがとうございました。
望さんのお陰で私達付き合うことになりました!」



野々ちゃんが可愛く手を振りながら、青さんがいるオフィスビルへ守君と入っていった。



私の手には、渡すことが出来たかった甘々なチョコケーキが。



青さんとの約束のチョコケーキを持ち続けながら青さんとの結婚生活を思い出し続けたけれど・・・



青さんと私の約1ヶ月間は、噛み締めた唇から滲み出た血の味しかしなかった・・・。



「どうしよう・・・、野々ちゃんのこと嫌いになりそう・・・。」



見上げた空は今日も灰色で。



やけに灰色で。



雪が降りそうな空だった。



「私の青(あお)は何処に行っちゃったんだろう・・・。」



”青さん、帰って来てよ・・・。”



そんな望みを抱いてしまう私は、やっぱり“大バカなダメ秘書”だった。







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