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数分後



木下さんの叫び声だけがミツヤマの社内に響き続ける。
よくこんなに叫び続けられると思うくらいに長い時間、木下さんは叫び続けてくれている。



“社長の奥様に手紙を出したのは私です・・・。
本当に申し訳ございませんでした・・・。
訴えられることも解雇になることも覚悟は出来ております・・・。”



2日前、あの魚屋の個室で三山社長に謝罪をした木下さんの姿を思い出した時・・・



段ボールだらけのオフィスの出入口から不規則なヒールの音が微かに聞こえた。



それが聞こえた瞬間、私は顔をパッと上げた。



何時間も怒り続けている木下さんの顔は少しも疲れを見せることなく、キツめの美人な顔を鬼のような顔にして私のことを見た。



そして・・・



「さっきから黙ってないで何とか言いなさいよ!!!」



より一層大きな声で叫んだ。



「私、見たんだからね!!!
アンタが“社長から可愛がって貰ってる”って友達に自慢してる所!!
“私なら何をしても社長が庇ってくれる”って!!!
だからってこんなことをするなんて、頭おかしいんじゃないの!!?」



今日初めて出てきたこの言葉に、三山社長が一歩前に出てきた。



「望ちゃん・・・。
俺でもこれは庇いきれないよ。
会社名義でこんなに不必要な物を注文されたら・・・。
それに俺のことが好きだったのは分かってたけど、俺結婚してるしさ。」



困った顔で笑う三山社長も大きな声でそう言った。



そしたら・・・



「失礼しま~す!!!
なんか段ボールが沢山あったので受付の電話機が取れませんでした~!!」



いつもよりも高く、いつもよりも明るく、いつもよりもおバカっぽく聞こえるような一美さんの声が、聞こえた。



突然聞こえたその声に、みんなが一斉に一美さんの方を見たことを確認する。



そして、その目を見開いたことも。



“こんなに美人でこんなに色っぽくて、こんなに発光している女を見たことないでしょ。”



私の身体も心も昂ってくるのを感じる。



“うちのお嬢様は凄いでしょ。”



“うちのお嬢様は凄いの。”



改めてそう思いながら・・・



「一美さん・・・っ」



一美さんの名前を呼び、一美さんの元へと駆け出した。



そして・・・



思いっ切り、転んだ。



みんなの様子を確認する為ではなく、一美さんの前で転びたいから転んだ。
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