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お母さんの言葉に先に反応したのは私ではなく青さんだった。



「こんな姿になってまで秘書として何を頑張るんだよ・・・。」



青さんのめちゃくちゃ怒っている低い声がおばあちゃんの部屋の中に響く。



「俺には可哀想な姿にしか見えねーよ・・・。
こんなの可哀想すぎるだろ・・・。
今まで出会った奴らの中で俺にはダントツで亀さんが可哀想すぎて・・・。
“ノロマなダメ秘書の亀”と言われていた亀さんが立派な秘書になった分、それがまためちゃくちゃ可哀想に思えて・・・。」



私の隣からゆっくりと立ち上がった青さんは、ボロボロになっている赤ちゃんの人形にミルクをあげているおばあちゃんの前にしゃがんだ。



そして・・・



「亀。」



凄く・・・凄く凄く、凄く凄く優しい声で”亀“と呼んだ。



それは私のことを”望“と呼ぶ時よりも深く、どこまでも深く”愛している“声に聞こえて・・・。



「今までよく頑張ったな。」



「・・・・・・・・。」



「1人でよく、ここまで来たな。」



「・・・・・・・・。」



「偉かったな。」



何も反応していないおばあちゃんに青さんがそう言って、ボロボロの赤ちゃんの人形の頭を優しく撫でた。
凄く凄く優しい手つきだけど、撫で慣れていないような手つきで。



「後は俺がやるから、亀はもう休んでろ。」



私には起き上がるように言ってくる青さんがおばあちゃんにはそう言って、ボロボロの赤ちゃんの人形を優しく抱っこし、哺乳瓶もおばあちゃんの手から抜き取った。



「遅くなってごめんな、亀。
ずっと来られなくてごめんな。
俺は、亀にずっと会いたかった。」



そう言って、ボロボロの赤ちゃんの人形を抱っこしている青さんが、おばあちゃんのことも優しく抱き締めた。



「やっと会えた。」



凄く凄く大切そうにボロボロの赤ちゃんの人形のこともおばあちゃんのことも青さんが抱き締める。



その姿はどこをどう見ても”亀の旦那さん“の姿で・・・。



見た目は全然似ていないはずなのに、不思議と照之なのではないかと思うくらいの深い”愛している“で。



”青さんって、ここまで演技が出来る人だったんだ・・・。“



そう思った時、骨のように細いおばあちゃんの両手が震えながら青さんの背中に回った。



そして・・・



「ヴゥゥゥゥ・・・・・・・・っっっ」



苦しそうな大きな泣き声がおばあちゃんの口から出てきた。



呆けてしまう前も呆けてしまった後も、泣いているおばあちゃんの姿を見るのは初めてで。
呆けてしまった後、パニックになっているおばあちゃんの姿は見たことがあっても泣いている姿を私は見たことがなくて。



ビックリした・・・。



凄く凄く、ビックリした。



私が知っているおばあちゃんはそんな人ではなかったから。



お母さんやお父さんやお兄ちゃんから話は聞いたことがあったけれど、私はおばあちゃんがこんな風に泣いている姿を初めて見たから。



こんな風に・・・



こんなに、心を全て解放して・・・



誰かに縋り付いているおばあちゃんの姿を私は初めて見た・・・。



「お義母さんがあんな風になるのは青君にだけなの。
お父さんも和希も照之の見た目に似ているはずなのに、お義母さんが普通の女の子に戻れるのは青君の前でだけ。
青君のアレは演技ではないってお義母さんは呆けた中でもきっと気付いているのかも。
久しぶりに青君が来てくれて良かった、お義母さん凄く安心してる。」



お母さんが涙ぐみながらそう言った言葉を、私は複雑な気持ちになりながら聞いていた。



だって、私は・・・



私は、まさかのおばあちゃんに嫉妬をしてしまっているから。



”いいな“と・・・



“羨ましいな”と・・・



そう思ってしまって。



“私とは全然違う。”



“私への愛とは全然違う。”



“本物ではない私への愛とはこんなにも違う。”



凄く苦しい。



凄く悲しい。



凄く虚しい。



必死に握り締めた一平さんの第2ボタンは、初めてひんやりと冷たく感じた・・・。
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