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青さんの家に帰る途中に青さんの会社に田代君と一緒に寄り、真白君からミツヤマの社員情報を受け取った。
社内秘で持ち出し禁止の書類だそうなので会社の会議室で田代君と雑談をしながらその書類を見ていく。



「望、社内秘って知ってるか?
社外の人には勿論、社内でも特定の人や部署にしか知られてはいけない情報だぞ?」



「そうなの?
でも私の”友達“って言って一緒にここに入った田代君のことを真白君から止められなかったし、田代君はこの書類を見てないし大丈夫じゃない?」



「お前いつもそういう微妙な所を突いてくるよな~。
ていうか、俺までここに入る意味。」



「なんか、1人になりたくなくて。」



「この望があんなに泣きじゃくってな゙~。
間中から望は青さんの会社で清掃員をしてるって聞いてたし、仕事中なのかなとも思ったけど無視なんてマジで出来なくてさ。
あれ、俺が邪魔して大丈夫だった?」



「来てくれて凄く嬉しかった。
助けてくれてありがとう。」



「望、そういうことは相手を見て言うもんだぞ?」



「だって今、会社内でしか見られない書類を見てるんだもん。」



「データもないやつ?」



「このデータは社内のパソコンでは見られるらしいけど、私パソコン出来なくてさ。」



「データを見るだけならパソコンが出来る出来ないとか関係ないだろ。」



「電源の入れ方は教えて貰って、電源の切り方はまだ自信ないもん。」



「めっっっちゃウケる。
俺ら3人ともパソコン出来るんだからいつでも教えたのに。」



「今まで必要なかったからね~。
これからパソコンの勉強もしていかないと。」



「パソコンなら俺でも教えられるし、時間が合った時にでも教えてやるよ。」



「嬉し~い!
マナリーから田代君とのエッチの話は教えて貰えてるのに、田代君からはパソコンまで教えて貰えるなんて~!」



「俺抜きでその話はしろって言ってるのに、本人を目の前にその話してくんなよ!!」



田代君の突っ込みには笑いながら、三山社長から受け取ったというミツヤマの社員情報を見ていく。
青さんの会社独自の調査資料はないそうで、案件数に対して掃除を担当する社員が少ないことがよく分かる。



「田代君の会社でもさ、”Hatori“って女の人達から人気?」



「あ~・・・、うん、結構人気。」



私が奢った炭酸ジュースを飲み、普通にゲップをした田代君に聞く。



「結構って?」



「金額が金額だからな、20代の奴らで身につけてる奴はそんなにいない。
30代以降でも日常的に身につけてる奴はそんなにいなくて、デートの日だとかパーティーだとか合コンの日だとか、あとは大切なプレゼンや打ち合わせや接待、大切な顧客への営業や契約の時なんかはスーツだったりワンピースだったりバッグだったり持ってる感じ。
小物だったらもっと持ってる奴はいるかもな。」



「服とかバッグって自分で買ってるのかな?
それともプレゼントが多いのかな?」



「20代で自分の金で買えるくらいの給与があるのは総合職で結果出してる奴くらいだろうな。
30代で役職ついてる奴なら奮発して自分に買ったみたいなことは聞いたことがある。
さっきのオバサンの白いコート、その望のロングコートと同じく”Hatori“のだろ?」



「うん、そう。」



さっきこのコートについて爆笑していた田代君に頷き、顔を上げた。



「営業アシスタントの主任、37歳で年収470万円。
独身で都内で一人暮らし、今家賃を調べたら管理費込みで11万2千円の1DKのマンションに住んでる。」



私の言葉に田代君は無言になり、それからゆっくりと立ち上がった。



そして・・・



私のことを真っ直ぐと見てくる。



私は田代君から視線を移し、書類をまた見て次のページをめくろうとした。



そしたら・・・



「あ。」



書類を落としてしまって。



「しっかりしろよ。」



田代君が私の足元にある書類を拾ってくれ、ゆっくりと・・・



ゆっくりと、私の目の前にまた置いてくれた。



「37歳・・・」



田代君が小さな声で呟き、人差し指でトントンッとある箇所を指差した。



経歴の所にある出身高校を、指差して・・・。



うちらの出身校とは違うけれど何だか見覚えのある高校で。



都内にある、うちらの出身校と同じくらい偏差値の高い公立の高校で。



”なんだっけ・・・。“



どうしても思い出せなくてもどかしくなった時・・・



「時間が経てばどうにかなることが結構ある。」



懐かしいそんな言葉を田代君が呟いた。



「安藤香奈(あんどうかな)・・・。」



””Hatori“の白いロングコートの女の人“の名前を私が呟くと、田代君が楽しそうに笑った。



「俺はその女の名前に聞き覚えしかない。
バスケ部の顧問、尾崎先生の同級生で尾崎先生が殴りかかった唯一の女。
そして、尾崎先生がどうにかなった未来の1つのキッカケとなった女。」



「大学卒業と同時に入籍をして結婚式を挙げた尾崎先生と奥さんの友人代表としてスピーチをした女の人。」



「望がどんな掃除をしようとしているかまでは分かんねーけど、あのオバサンは本物の悪者ではないと俺は思う。」



「うん・・・。
私への忠告も助言もちゃんとしたモノだった。
でも・・・」



田代君のことを見上げながらどうしても引っ掛かることを口にした。



「あのコート、自分で買ったのかな・・・。
それとも・・・」



”三山社長が買ってあげたのかな・・・。“



そう続けようとした時、会議室の扉がノックもなく開いた。



あまりにも勢い良く開いたのでビックリして扉を見ると、いた。



少しだけ息が上がっている青さんがいた。



一瞬だけ私と田代君のことを”青さん“が確認したのが分かった時、社長のキャラになった青さんがゆっくりと歩いてきた。



そして・・・



私の目の前にある書類の上に大きな手をのせた。



田代君と私の間に身体を入れるようにしながら。



「うちの望がお世話になっております、星野です。
望が社内秘の書類を持って”男友達“と会議室に2人で入ったと弟から連絡がありまして。」



書類の上にあった青さんの大きな手が私の手を握った。
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