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青side
青く光るデカい水槽の真ん前で、俺に寄り掛かって爆睡をしている望のことを見下ろす。
腕時計を見るとそろそろ21時。
閉館の時間が近付いていることを確認した。
あれから泣き疲れた顔をしていた望に少し眠るように言うと、望は「外でなんて眠れない」とか言った30秒後には爆睡していた。
それは俺にもよく分かる。
ここで新しいスタッフを応募する際は俺にも必ず声を掛けて貰え、その時はそこまで必要はないのに俺は必ず訪問しているくらい、俺はこの場所が好きだった。
ここはワンスターエージェントを立ち上げた後の俺の休憩場所。
偶然の日程とはいえ鎌田の案件が終わった望をこの場所に来るよう約束しておいた。
「加藤の”家“の人間にも休憩時間は必要だろ。」
何度か一緒に仕事をした望の父親、俺のことを徹底的に指導した”お兄ちゃん“、そして呆けた後も秘書として頑張り続けようとしている亀さん。
「少しは休んだ方が良い。
加藤さんだって”お兄ちゃん“だって休憩することはあったし、それに亀さんだって照之の前でだけは休んでたぞ?」
呆けた後の亀さんの”照之“だった俺がそう言って、青い光りに包まれる望のことを見下ろし続ける。
今日は水槽なんか見ることなく望のことを見下ろし続ける。
「可哀想にな・・・。」
”普通の女の子になりたかった・・・!!!“
呆けた亀さんが泣き叫んでいた姿を今日も思い出す。
”ノンノンは普通の女の子になっても良いとおばあちゃんは思うんだけどねぇ。“
秘書は基本的には子どもを1人しか産まない。
それは増田財閥のどの代だったかの主が決めたことで、”可哀想な子どもは1人で充分だ“という理由だったそう。
”おばあちゃんが和希のことを優秀な秘書に育てるから、大丈夫だと思うんだけどねぇ。“
呆けた亀さんが赤ちゃんの人形を大切そうに胸に抱き、本物のミルクをあげながら”ノンノン“という赤ちゃんの人形にそう言っていた。
何度も何度も亀さんのことを”照之“として迎えに行ったけれど、その場面を見たのは”お兄ちゃん“に連れられて行った最初の研修の時だけだった。
呆けた老人のことを初めて目の当たりにした俺には衝撃的な光景で、虚ろな目をしながら涎を垂らし、それでもテキパキとミルクを作り赤ちゃんの人形にミルクを飲ませながら呂律も回っていないような声で言っていて、正直”怖い“とも思うくらいの衝撃的な光景だった。
若くして死んだ小関の”当主“のこと、自分のことを迎えに来ることなく死んだ”照之“のこと、それらを”お兄ちゃん“が伝えると、亀さんはパニックになって泣き叫んだ。
小関の”家“と加藤の”家“だけが、崩壊を迎えていた増田財閥の中で何故機能し続けていたのか。
それを”お兄ちゃん“が俺に亀さんを見せることでショックを受けるくらいに理解させた。
叫びまくって”お兄ちゃん“から逃げ回る亀さんのことを落ち着かせようとしながら、”お兄ちゃん“は分家の”秘書“の怖い話を俺にしていった。
その話の中には勿論、望の話もあった。
あんなにちっこくて普通の女の子にしかみえない・・・いや、口にセロハンテープを貼られた普通ではない女の子ではあるけど、それ以外は普通の女の子よりも可愛すぎるような望が恐ろしすぎることをやらされている話だった。
その怖い話は望と再会したことによって嘘も混じっていたと分かったけれど、俺は忘れられない。
望の未来の姿が亀さんなのだと思った、あの最初の衝撃は今でもハッキリと覚えている。
亀さんの姿に、セロハンテープを口に貼られた、”ピーコートが欲しい“と言った望の姿が重なり、俺は思わず亀さんのことを抱き締めた。
”迎えに来た。
遅くなってごめんな、亀。“
そう言って、俺は”照之“になって亀のことを迎えに行った。
”あのね、照之・・・、可愛い赤ちゃんが生まれたんだよ。
照之にソックリの可愛い男の子が生まれたの。
撫でてあげて・・・名前は照和(てるかず)。
照之とご主人様の名前を1文字ずつ貰ったの。“
虚ろな目をしていたけれどめちゃくちゃ安心した顔で、めちゃくちゃ嬉しそうな顔で、深く深く俺のことを愛している顔で、涎まみれの人形の赤ちゃんを俺に見せてきた。
”愛してる・・・。“
俺が寝かせたベッドで眠る前に亀さんは俺にそう言った。
それは当時付き合ったばかりの亜里沙より、その後に付き合った何人もの彼女より、亀さんが俺に言った”愛している“という言葉は本物の”愛“だった。
あれこそが本物の愛なのだと苦しいくらいに分かるほどに、本物の愛だった。
この前聞けた”ノンノン“からの・・・望からの愛の言葉よりも、あれこそが本物の愛だった。
「お前のは演技だもんな・・・。
でも、”ノンノン“である望からそう言って貰えて、”ノンノン“である望とやれて、俺の”ノンノン“への想いは浄化された。」
青く光るデカい水槽の真ん前で、俺に寄り掛かって爆睡をしている望のことを見下ろす。
腕時計を見るとそろそろ21時。
閉館の時間が近付いていることを確認した。
あれから泣き疲れた顔をしていた望に少し眠るように言うと、望は「外でなんて眠れない」とか言った30秒後には爆睡していた。
それは俺にもよく分かる。
ここで新しいスタッフを応募する際は俺にも必ず声を掛けて貰え、その時はそこまで必要はないのに俺は必ず訪問しているくらい、俺はこの場所が好きだった。
ここはワンスターエージェントを立ち上げた後の俺の休憩場所。
偶然の日程とはいえ鎌田の案件が終わった望をこの場所に来るよう約束しておいた。
「加藤の”家“の人間にも休憩時間は必要だろ。」
何度か一緒に仕事をした望の父親、俺のことを徹底的に指導した”お兄ちゃん“、そして呆けた後も秘書として頑張り続けようとしている亀さん。
「少しは休んだ方が良い。
加藤さんだって”お兄ちゃん“だって休憩することはあったし、それに亀さんだって照之の前でだけは休んでたぞ?」
呆けた後の亀さんの”照之“だった俺がそう言って、青い光りに包まれる望のことを見下ろし続ける。
今日は水槽なんか見ることなく望のことを見下ろし続ける。
「可哀想にな・・・。」
”普通の女の子になりたかった・・・!!!“
呆けた亀さんが泣き叫んでいた姿を今日も思い出す。
”ノンノンは普通の女の子になっても良いとおばあちゃんは思うんだけどねぇ。“
秘書は基本的には子どもを1人しか産まない。
それは増田財閥のどの代だったかの主が決めたことで、”可哀想な子どもは1人で充分だ“という理由だったそう。
”おばあちゃんが和希のことを優秀な秘書に育てるから、大丈夫だと思うんだけどねぇ。“
呆けた亀さんが赤ちゃんの人形を大切そうに胸に抱き、本物のミルクをあげながら”ノンノン“という赤ちゃんの人形にそう言っていた。
何度も何度も亀さんのことを”照之“として迎えに行ったけれど、その場面を見たのは”お兄ちゃん“に連れられて行った最初の研修の時だけだった。
呆けた老人のことを初めて目の当たりにした俺には衝撃的な光景で、虚ろな目をしながら涎を垂らし、それでもテキパキとミルクを作り赤ちゃんの人形にミルクを飲ませながら呂律も回っていないような声で言っていて、正直”怖い“とも思うくらいの衝撃的な光景だった。
若くして死んだ小関の”当主“のこと、自分のことを迎えに来ることなく死んだ”照之“のこと、それらを”お兄ちゃん“が伝えると、亀さんはパニックになって泣き叫んだ。
小関の”家“と加藤の”家“だけが、崩壊を迎えていた増田財閥の中で何故機能し続けていたのか。
それを”お兄ちゃん“が俺に亀さんを見せることでショックを受けるくらいに理解させた。
叫びまくって”お兄ちゃん“から逃げ回る亀さんのことを落ち着かせようとしながら、”お兄ちゃん“は分家の”秘書“の怖い話を俺にしていった。
その話の中には勿論、望の話もあった。
あんなにちっこくて普通の女の子にしかみえない・・・いや、口にセロハンテープを貼られた普通ではない女の子ではあるけど、それ以外は普通の女の子よりも可愛すぎるような望が恐ろしすぎることをやらされている話だった。
その怖い話は望と再会したことによって嘘も混じっていたと分かったけれど、俺は忘れられない。
望の未来の姿が亀さんなのだと思った、あの最初の衝撃は今でもハッキリと覚えている。
亀さんの姿に、セロハンテープを口に貼られた、”ピーコートが欲しい“と言った望の姿が重なり、俺は思わず亀さんのことを抱き締めた。
”迎えに来た。
遅くなってごめんな、亀。“
そう言って、俺は”照之“になって亀のことを迎えに行った。
”あのね、照之・・・、可愛い赤ちゃんが生まれたんだよ。
照之にソックリの可愛い男の子が生まれたの。
撫でてあげて・・・名前は照和(てるかず)。
照之とご主人様の名前を1文字ずつ貰ったの。“
虚ろな目をしていたけれどめちゃくちゃ安心した顔で、めちゃくちゃ嬉しそうな顔で、深く深く俺のことを愛している顔で、涎まみれの人形の赤ちゃんを俺に見せてきた。
”愛してる・・・。“
俺が寝かせたベッドで眠る前に亀さんは俺にそう言った。
それは当時付き合ったばかりの亜里沙より、その後に付き合った何人もの彼女より、亀さんが俺に言った”愛している“という言葉は本物の”愛“だった。
あれこそが本物の愛なのだと苦しいくらいに分かるほどに、本物の愛だった。
この前聞けた”ノンノン“からの・・・望からの愛の言葉よりも、あれこそが本物の愛だった。
「お前のは演技だもんな・・・。
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