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それから、鎌田さんは床に蹲ったままピクリとも動くことはなかった。
マナリーが愛姉さんの長くて重い髪の毛をカットしている間も、カラーとトリートメントをしている間も、そしてメイクまでしている間も。
鎌田さんはピクリとも動くことはなく、鎌田さんだけではなく愛姉さんの顔もピクリとも動くことはない。
なんだか、不思議な女の人だった。
どこか幼さが残っているようにも見えるのに、なのにとても強いお母さんのようにも見える女の人。
男の子4人を育ててきたからそれは当たり前のことなのかもしれないけれど、お母さんとしての強さだけではなく純粋な女の子としての雰囲気もある女の人。
とても弱い女の人にも見えるのに、この美しい横顔はどこまでも強い女の人にも見える。
”青さん、今ならきっと分かったと思うよ。
鎌田さんは良い女を好きになった。
鎌田さんと同じように、綺麗な見た目だけじゃなくて中身まで格好良い女のことを、鎌田さんは女として本気で愛した。“
愛姉さんが”普通“に幸せになることを望んでいた鎌田さんが”本当に幸せになる“の為に、2人のお姉さん達から守り続けていた”みっちゃん“のことを殺した愛姉さんの姿は、とても美しい女の人になった。
美しいだけではなく、どこか幼さがある雰囲気もある、とても可愛い女の子にも見える女の人になった。
「凄い・・・生まれ変わったみたい・・・。」
お洒落な明るいショートヘア、沢山のメイク用品を使っているように見えたのに、仕上がりはナチュラルな美人さんに見える顔。
そんな愛姉さんの顔が少しだけだけど、嬉しそうな顔になっている。
”笑うとめっちゃ可愛いし、笑った顔を見るとなんだか凄く嬉しい気持ちになるな。“
少しだけ笑っただけなのにそう思うのは、今まであまりにも顔が動いていなかったかもしれない。
青さんの言う通り、女は笑っている顔が1番可愛いのだと私も心から理解をした。
可愛い女の人に・・・、可愛い女の子にも見える姿に生まれ変わった愛姉さんが、ゆっくりとスタイリングチェアから立ち上がり、床に蹲っている鎌田さんの前まで歩いた。
「みっちゃん。」
昔はこんな風になっている鎌田さんのことを毎回迎えに行っていたという愛姉さんが、鎌田さんのことを見下ろしながら”みっちゃん“と呼ぶ。
従弟である鎌田さんのことをお姉さん達と同じようにそう呼び・・・
「ごめんね?」
謝罪の言葉を口にした。
たぶんだけど、殺してしまったことへの謝罪の言葉なのだと思う。
生まれ変わった姿の愛姉さんはゆっくりと片手を動かし、ソッ···と、鎌田さんの頭に指先で少しだけ触れた。
「落ち着いたら、たまには家に帰ってきてね?
みんなみっちゃんに会いたがってるよ?
・・・オジサンやオバサンだけじゃなくて、子ども達もみんな。」
愛姉さんが30歳、鎌田さんが29歳になる年に鎌田さんは実家を出た。
愛姉さんからだけではなく子ども達からも離れていった。
自分の中で色々な言い訳を並べているだろうけど、それくらいに聞きたかったのだと私は分かる。
イトコ同士だとしても、鎌田さんは愛姉さんからも愛の言葉が欲しかった。
どうしても、欲しかった。
その言葉を貰うことが出来たなら、きっと鎌田さんは頑張れたのだと私は思う。
従弟として、従姉の愛姉さんを女としても愛し抜くことを頑張れた。
鎌田さん自身も気付いていないだろうけれど、私は知っている。
私は”ダメ秘書“だから知っている。
その気持ちを、苦しくて悲しくて虚しいくらいに知っている。
”鎌田さん!!!早く!!!
愛姉さん、行っちゃうよ!!!!“
お会計の所でマナリーにお礼を言っている愛姉さんのことと鎌田さんのことを私はアワアワとしながら交互に見ていると、愛姉さんは私のことを真っ直ぐと見詰めた。
それから、愛姉さんは蹲ったままの鎌田さんのことを見た。
「実家を出た後も、子ども達にいつでも美容室に来るように言ってくれていたんです。
よく一人暮らしの家にも泊まらせてくれて、休みの日にはみんなと遊んでくれてもいて、昔みたいに参加することはしなくなった学校行事が終わった日には、必ず子ども達と会って頑張ったご褒美やお祝いもしてくれていて。
実家を出た後もちゃんと、子ども達が愛を知っている大人になれるフォローをしてくれていたんです。」
愛姉さんがしっかりとした声で、青さんに話していた内容を私の前でも言葉にした。
それから、私のことをまたゆっくりと見詰めた。
「”彼“は、そういう男の人です。」
鎌田さんのことを”みっちゃん“ではなく”彼“と呼んだ愛姉さんに、私はしっかりと頷いた。
“鎌田の幸せだけを願って、この案件を進めて欲しい“。
青さんからの依頼をこの胸にもう1度戻し、鎌田さんの店から出ていく愛姉さんの後ろ姿を確認した。
マナリーが愛姉さんの長くて重い髪の毛をカットしている間も、カラーとトリートメントをしている間も、そしてメイクまでしている間も。
鎌田さんはピクリとも動くことはなく、鎌田さんだけではなく愛姉さんの顔もピクリとも動くことはない。
なんだか、不思議な女の人だった。
どこか幼さが残っているようにも見えるのに、なのにとても強いお母さんのようにも見える女の人。
男の子4人を育ててきたからそれは当たり前のことなのかもしれないけれど、お母さんとしての強さだけではなく純粋な女の子としての雰囲気もある女の人。
とても弱い女の人にも見えるのに、この美しい横顔はどこまでも強い女の人にも見える。
”青さん、今ならきっと分かったと思うよ。
鎌田さんは良い女を好きになった。
鎌田さんと同じように、綺麗な見た目だけじゃなくて中身まで格好良い女のことを、鎌田さんは女として本気で愛した。“
愛姉さんが”普通“に幸せになることを望んでいた鎌田さんが”本当に幸せになる“の為に、2人のお姉さん達から守り続けていた”みっちゃん“のことを殺した愛姉さんの姿は、とても美しい女の人になった。
美しいだけではなく、どこか幼さがある雰囲気もある、とても可愛い女の子にも見える女の人になった。
「凄い・・・生まれ変わったみたい・・・。」
お洒落な明るいショートヘア、沢山のメイク用品を使っているように見えたのに、仕上がりはナチュラルな美人さんに見える顔。
そんな愛姉さんの顔が少しだけだけど、嬉しそうな顔になっている。
”笑うとめっちゃ可愛いし、笑った顔を見るとなんだか凄く嬉しい気持ちになるな。“
少しだけ笑っただけなのにそう思うのは、今まであまりにも顔が動いていなかったかもしれない。
青さんの言う通り、女は笑っている顔が1番可愛いのだと私も心から理解をした。
可愛い女の人に・・・、可愛い女の子にも見える姿に生まれ変わった愛姉さんが、ゆっくりとスタイリングチェアから立ち上がり、床に蹲っている鎌田さんの前まで歩いた。
「みっちゃん。」
昔はこんな風になっている鎌田さんのことを毎回迎えに行っていたという愛姉さんが、鎌田さんのことを見下ろしながら”みっちゃん“と呼ぶ。
従弟である鎌田さんのことをお姉さん達と同じようにそう呼び・・・
「ごめんね?」
謝罪の言葉を口にした。
たぶんだけど、殺してしまったことへの謝罪の言葉なのだと思う。
生まれ変わった姿の愛姉さんはゆっくりと片手を動かし、ソッ···と、鎌田さんの頭に指先で少しだけ触れた。
「落ち着いたら、たまには家に帰ってきてね?
みんなみっちゃんに会いたがってるよ?
・・・オジサンやオバサンだけじゃなくて、子ども達もみんな。」
愛姉さんが30歳、鎌田さんが29歳になる年に鎌田さんは実家を出た。
愛姉さんからだけではなく子ども達からも離れていった。
自分の中で色々な言い訳を並べているだろうけど、それくらいに聞きたかったのだと私は分かる。
イトコ同士だとしても、鎌田さんは愛姉さんからも愛の言葉が欲しかった。
どうしても、欲しかった。
その言葉を貰うことが出来たなら、きっと鎌田さんは頑張れたのだと私は思う。
従弟として、従姉の愛姉さんを女としても愛し抜くことを頑張れた。
鎌田さん自身も気付いていないだろうけれど、私は知っている。
私は”ダメ秘書“だから知っている。
その気持ちを、苦しくて悲しくて虚しいくらいに知っている。
”鎌田さん!!!早く!!!
愛姉さん、行っちゃうよ!!!!“
お会計の所でマナリーにお礼を言っている愛姉さんのことと鎌田さんのことを私はアワアワとしながら交互に見ていると、愛姉さんは私のことを真っ直ぐと見詰めた。
それから、愛姉さんは蹲ったままの鎌田さんのことを見た。
「実家を出た後も、子ども達にいつでも美容室に来るように言ってくれていたんです。
よく一人暮らしの家にも泊まらせてくれて、休みの日にはみんなと遊んでくれてもいて、昔みたいに参加することはしなくなった学校行事が終わった日には、必ず子ども達と会って頑張ったご褒美やお祝いもしてくれていて。
実家を出た後もちゃんと、子ども達が愛を知っている大人になれるフォローをしてくれていたんです。」
愛姉さんがしっかりとした声で、青さんに話していた内容を私の前でも言葉にした。
それから、私のことをまたゆっくりと見詰めた。
「”彼“は、そういう男の人です。」
鎌田さんのことを”みっちゃん“ではなく”彼“と呼んだ愛姉さんに、私はしっかりと頷いた。
“鎌田の幸せだけを願って、この案件を進めて欲しい“。
青さんからの依頼をこの胸にもう1度戻し、鎌田さんの店から出ていく愛姉さんの後ろ姿を確認した。
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