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「少し落ち着いた?」



社長室の”普通“の応接椅子に座らされしばらく経った後、大量のティッシュを使った私に三山社長が声を掛けてきた。



それには小さく頷いた後に謝罪をした。



「すみませんでした・・・。」



「僕の方こそごめんね?
もう渡し終えた後だし伝えても良いのかと思っていて。
望ちゃんは人から物やお金なんかを受け取ることが出来ない性格だと聞いていたけど、星野社長がどうしても渡してあげたいからと言って、僕にもそのことの協力をお願いしてきて。
こんなに泣いてしまうなら言わなければ良かったな、ごめんね。」



「いえ・・・教えてくださりありがとうございます・・・。」



お礼を伝えてから三山社長のことを真っ直ぐと見た。



真っ直ぐと見てから、重ねた。



三山社長に青さんのことを昨日のように、重ねた。



「あんなに高級でお洒落なお店は初めてでした・・・。
私の大好きなブランド、”Hatori”のコートを受け取ることが出来て本当に嬉しい・・・。
本当に・・・本当に、嬉しい・・・。」



“一平の、奪い取ってきてやった!”



そう言って私に一平さんの第2ボタンを渡してくれた青さんと、重ねる。



いつだって私の心の奥底にある望みを拾い上げてくれ、そして青さんに叶えられることなら叶えようと動いてくれる青さんのことを、重ねる。



そんな私に青さんの向こう側にいる三山社長は困ったように笑った。



「望ちゃんは本当に演技が上手だね。
今のソレは演技ではないんだろうなと思うと、昨日もやっぱり演技とは思えなくて。」



昨日のも演技ではなかった私に三山社長がそう言って・・・



「星野社長から言われていたとはいえ、頬にキスまでして本当にごめんね?
それをまずは謝りたくて。」



三山社長は立ち上がり私に頭まで下げてきた。



それには今度は私が慌て、急いで立ち上がり三山社長の前でアワアワとしていく。



「私の方こそ、私の審査に付き合ってくださり本当にすみませんでした!!!
クリスマスの夜に私なんかと夜ご飯を食べて“Hatori”にまで行って、頬にキスまでして!!!」



「妻とはクリスマスイブにもデートをして、“Hatori”だけは好きな妻と今年もクリスマスプレゼントを選びに一緒にあのお店に行っていたから大丈夫だよ。
昨日も夜にパーティーをしたけどね。」



「奥様と本当は仲良しなんですね。
安心しました。」



「妻が自分で“地味で冴えない”とよく言っているから、それでよく喧嘩はするけどね。
それに昔ほど俺が気を遣えていなかったのも本当だよ。
今は妻に俺の方が甘えてばかりで。
ドリンクバーも必ず妻にお願いしてしまっていたよ。
星野社長に昨晩言われて反省をして、これからは昔のように妻の飲み物を俺が持って行きます。」



三山社長の言葉には自然と笑いながら頷くと、三山社長も安心したように頷いた後に険しい顔になった。



「星野社長からは、俺はもう演技をせずにいつも通りにしていれば良いと言われて。
俺は普段演技なんてしないから昨日は物凄く緊張をして大変で、演技をしなくて良いことには安心をしたけど・・・。」



昨日の三山社長の顔、“私の人生で初めて見る顔”は、頑張って演技をしている人の顔だったらしい。



それには心の中で記憶をしながら、三山社長の次の言葉を待つと・・・



「妻の不安を完全に取り除く為にも、俺が出来ることなら何でも言って欲しい。」



力強い三山社長の顔を見て、私も深く深く頷いた。



でも、最後に気になったので聞いてみた。



「“Hatori”のお店、あそこのドアマンや店員さんにも青さんが話をつけていたんですかね?
私はあそこの人達と顔見知りなんです。」



「そこまでは分からないや。
星野社長からは、“Hatori”で望ちゃんが欲しがっている物を買って欲しいと言われただけで。」



三山社長がそう言った後、何かを思い出そうとするように視線だけを上に向けた。



「“今は“Hatori”のコートでも何着だって買えるから”とも言っていて、それで俺もコートを提案したんだよね。」



それを聞き、また泣いた。



社長室にあったティッシュだけでは足りなくなり、三山社長が他の社員にティッシュの箱を持ってきて貰ったくらいに、泣いた。
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