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高校1年生  入学式



桜の木が葉桜に変わろうとしていた季節。
そんな季節には珍しく、雪が降った。
それも大雪が。
通常なら家から電車で約50分の高校を、前夜の雪で1時間半掛け高校へと向かっていた。



1人で、向かっていた。



「ローファー、ベチョベチョ・・・。」



高校の門が見えた時に、私はローファーを見下ろし呟いた。



「冷たい・・・。」



今日は私の高校の入学式。
人生で1度だけある、高校の入学式で・・・。



「お母さん、転ばないでよ~?」



「滑るからね、あんたも気を付けなさいよ?」



「お父さん、お母さんが滑るとか言ってきた!」



「受験が終わったからそれは言うだろ!」



「確かに~!!」



仲良し家族が私の横を通り過ぎた。
1人で高校の入学式に来た私の横を・・・。



「足が冷たくて歩けないな・・・。」



自分で自分に言い訳をした。



“ごめんね望、明日の入学式にお母さん行けなくなっちゃった。
お父さんも和希も仕事で行けなくて・・・。
本当にごめんね?”



昨日の夜に聞いたお母さんの言葉を思い出す。



“高校でも絶対に転んでこいよ?”



お兄ちゃんからの言葉まで思い出す。



“何度でも転んで“友達”を見付けておいで。”



お父さんからの言葉が私の割れた心に沈んでいく。



深く深く、沈んでいく。



このまま浮かび上がらなければ良いのに。



そしたら私は・・・私は、“普通”に自己紹介を終えて、“普通”に・・・“普通”に、“普通”の女子高生になれて・・・。



それで・・・



それで・・・



そこまで考えて、この先を考えることは無理矢理やめた。



「私は・・・逃げない。」



“普通”でないことから私は逃げない。



“普通”ではない私の“家”から私は逃げない。



娘の高校の入学式に家族が誰1人来られないような“普通”ではない家でも、私は逃げない。



“私が行くよ?”



一美さんからの言葉だけしか貰えないような私の人生から、私は逃げない。



私には“ほぼお兄ちゃん”の青さんもいる。
“ほぼ友達”の青さんだっている。
青さんの高校の卒業式、私の中学2年生が終わるタイミングで小関の“家”に来ることはなくなってしまった青さんが。



たまにだけど・・・本当にたまにだけど、私のメッセージに短い返事をくれている青さんがいる。



“一平の、奪い取ってきてやった!!”



一平さんと青さんの高校の卒業式の日、上半身裸どころかズボンのベルトもボタンもなく、信じられないことにボクサーパンツまで奪い取られノーパンだった青さんが私にそう言って・・・



このボタンを・・・この、一平さんの第2ボタンをくれた。



「私にはこれがあるから大丈夫。」



そう言って、顔を上げた。



青さんが“可愛い”と、“似合う”と言ってくれた紺色の“Hatori”のダッフルコートを着て。



冷たい足を一歩、前へ踏み出した。



「私は歩ける。」



ダッフルコートの上から一平さんの第2ボタンに片手を置いた。



そして、高校の門に向かって数歩歩いていた時に気付いた。



高校の門に入っていく人達がチラチラと見上げていく、大きな男の人の存在に。



大きな男の人・・・。



実際の身体もそうだけど、その存在感も凄く大きな男の人。



約1年ぶりに会えた青さんは、最後に会った日よりももっともっと大きな存在感を持つ男の人になっていた。



「青さん・・・。」



青さんの名前を呟いた私に、門の所から私のことを真っ直ぐと見詰めていた青さんが意地悪な顔で笑った。



そして・・・



「頑張って歩いてこい!望!!」



と・・・



私にそう言ってきて。



そう言ってきたはずなのに・・・



青さんは私の元へとずんずか歩いてきて・・・



「・・・・・・・ゎっ」



私の腕を引いた。



「やっぱり甘やかしてやる!!
今日は望の入学式だしな!!
この雪の中、よく1人で歩いてきたな!!
てか、ノンノンってお前が小さい頃に呼ばれてた名前だったんだな!!」



青さんが来てくれた。



青さんが甘やかしてくれた。



青さんが褒めてくれた。



青さんはいつも私に渡してくれる。



約1年ぶりに会えたけど、やっぱり青さんは青さんで。



私が好きになった青さんで。



私か大好きになった青さんのままで。



「泣くなよ?
入学式なのにブスな顔になるからな!!」



やっぱり意地悪で、なのにとても優しい青さんだった。
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