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「たかがネコになんねーよ!!!」



大きく笑った青さんが私のことを優しい顔で見下ろす。



「名前は望が付けろよ、それでいつでも俺の家に来れば良い。」



「うん・・・ありがとう・・・。
でも・・・青さんの家には・・・遊びに行けないよ・・・。」



「“お兄ちゃん”、望に俺の家の飯を掃除させるっていう仕事をお願いしたいんっすけど。
うちの母親、味音痴なんですよ。
マヨネーズがないと食べられないっすよ。」



「うん、却下。」



お兄ちゃんが即答し、私のことを真っ直ぐと見た。



「それならそのネコに望って名前を付けて、青さんの家で青さんに猫可愛がりして貰えば良い。」



「望は・・・嫌だな・・・。」



青さんから望と呼んで貰えるのは私1人が良い。



「俺もそれは却下!!
今の彼女の名前がノゾミだし、2人プラス1匹もノゾミだとややこしくなる!!」



「この前出来た青さんの彼女さん・・・望って名前なんだ・・・。」



青さんから視線を逸らし、笑顔を必死に作った。



「漢字は違うけどな、ノゾミっていう名前なんだよ。」



「そっか・・・。」



鎌田さんもこの家に来た時には、これからは“ノゾミ”とのエッチの話を聞かなくてはいけないらしい。



「2匹いるんだろ?
1匹ずつ名前考えるか!!」



「いや、1匹は引き取り先を見付けてある。」



お兄ちゃんがそんな驚くことを言ってきた。



「だから望、1匹分の名前をお前が付けてやれ。
お前がそのネコの命を助けたんだ、そのネコの命はほぼお前の命と同じだ。
だから自分の名前だと思って考えろ。」



ネコの名前の話なのに、お兄ちゃんが仕事中の時と同じ目をしてくる。
それもただの仕事ではない。
一美さんのことに関する仕事の時と同じような、心の奥底から秘書になっている時の目を。



“一美にあの2人を絶対に会わせるな。
お嬢様のあいつがああいうタイプに惚れたら厄介なことになる。
分家の人間になる奴だからな、一美と共に綺麗で正しく生きてくれるような奴じゃないと俺の審査には絶対に通さない。”



数日前からお兄ちゃんは一美さんのことを“一美お嬢様”と呼ぶようになった。
それに凄くショックを受けた顔をした一美さんの前で、お兄ちゃんは一平さんにも“一平坊っちゃん”と呼んだ。



お兄ちゃんが一美さんのことを“お嬢様”と呼ぶ時、お兄ちゃんはいつも以上に仕事の目をする。
そして今も、何故か私にそんな目を向けている。



「望。」



青さんが私の名前を呼ぶ。



でも、青さんは今の彼女さんにも“ノゾミ”と呼んでいる。



私だけではなく、彼女さんのことも“ノゾミ”と呼んでいる。



「どんな名前だって良い。
望が付けた名前なら、どんな恥ずかしい名前でも俺が呼んでやるよ。」



そう言われて・・・



そう言ってくれて・・・



「ノンノン・・・。」



この口から出てきたのは、そんな名前だった。



私が小さな時にお兄ちゃんが呼んでくれていた呼び方。



お兄ちゃんはそう呼んで、秘書の勉強の休憩時間中に私のことを甘やかしてくれていた。



凄く凄く小さな頃のお兄ちゃんとの大切な思い出。



「青さん、ノンノンのことを甘やかしてあげてください・・・。
1番・・・世界で1番、可愛がってあげてください・・・。
ノンノンのこと、幸せにしてあげてください・・・。」



両手を苦しい胸に強く押し付けた。



強く強く、押し付けた。



ノンノンの命が私の命とも同じになるように。



ノンノンの命が幸せな人生を送れるように。



青さんと一緒に、幸せになれるように。



「分かった。」



“たかがネコ”と言っていた青さんは、優しい優しい顔で深く頷いてくれた。



「ノンノンを猫可愛がりしてやる。
世界で1番可愛がって、幸せな人生にしてやるよ。」



ノンノンを猫可愛がりしてくれると、世界で1番可愛がってくれると、幸せな人生にしてくれると、そう約束してくれた青さんは凄く格好良くて。



凄く凄く格好良くて・・・。 



“ノンノン”にその約束を渡してくれただけで幸せだった。



“ノンノン”はその約束を受け取れただけで幸せだった。



「良かったね、望さん。」



いつからか、私のことを“望”ではなく“望さん”と呼ぶようになった一平さんの声がこの部屋の中で寂しく響いた。
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