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「お前は可哀想だろ。」



「私は可哀想じゃない・・・っ」



「お前なぁ・・・。
分かった、じゃあ俺が勝手に望のことを可哀想だと思ってるだけ。」 



「勝手に思わないでよ、バカ。」



「はあ・・・?
・・・・じゃあお前、俺ってデカい?」



「・・・うん。」



「俺はデカくねーよ。」



そんな意味の分からないことを言い出した青さんに怒りながらも首を傾げると、青さんは意地悪な顔で笑った。



「俺は自分じゃデカいとは思ってない。
マジで全然思ってない。
望が勝手に思ってるだけだろ?」



「もぉ・・・意味分かんない。」



「俺の“可哀想”にはお前の“青さんは大きいな”くらいの意味しかねーよ。
望は昔も今もこんなに可愛いちっこいネコだからな、俺が捨てられた可哀想なネコを拾って甘やかすくらい別に良いだろ?」



“可哀想”という言葉を言われる度、私は凄く苦しくなっていた。
だって私は可哀想なんかじゃないから。
きっと、私は可哀想なんかじゃない。



でも、青さんの私に対する“可哀想”は、“青さんは大きい”くらいの感想くらいしかないのだと分かった。



「スタッフの休憩室なら今空いてるよ、クリスマスでめちゃくちゃ忙しいから!」



「悪いな、ありがとな!」



青さんはオーナーに謝罪とお礼の言葉を伝えると、私の腕を引き続けながらこのお店の休憩室へと私のことを押し込んだ。



「遅かったな。
面接上手くいかなかったな。」



私のことを立たせたまま、私の腕から手を放した青さんが聞いてきた。



「上手くいきました。
無事に採用されました。」



「マジか。
てっきり落ちたのかと思ったぞ!?
それで俺を怒らせずに笑わせる為に、その恐ろしい程似合わないコートで笑いを取ってきたと思ったからな!?
ドアでずっと披露してくるし、笑い堪えるの大変だったんだよ!!」



「“Hatori”のこのコート、買って貰ったんです・・・。」



どんなコートでも似合うと言ってくれていた青さんからそう言われ、私は“Hatori”のロングコートを見下ろした。



真っ黒のロングコートを見下ろし続ける私の頭の上から青さんの声が聞こえてきた。



「誰がこんな似合わねーコートをたっっっっかい値段出して買ったんだよ?
・・・ああ、お前が選んだのか?
こういうコートよく女が着てるからな。」



「私が選んだのではなくて三山社長が選んで買ってくれました・・・。
会社の人にプレゼントを渡すことはよくあるような感じでした。
このコートのオフホワイトは他の女性に・・・恐らく、ミツヤマの社員に買ったのだと思います。」



「そいつが不倫相手か。
そんな似合わねーコート買ってたからこんなに時間掛かったのか。
ここはそろそろお開きになる。
そしたら俺がどっか飯連れて行ってやるからそれまでもう少し我慢してろ。」



「ご飯も食べてきました・・・。
面接の場所として指定してきたあのお店で、他の女性との約束を断ってまで私の歓迎会をしてくれました。」



「あのたっっっけー店でか?
不倫相手とか・・・。」



「てっきり奥様と食べるのかと思っていたら、そこで他の女性と・・・仕事の相手と言っていましたが女性と食べる予定だったと言っていました。
それとその後にももう1件あると・・・。」



「何人かと不倫してるのかよ、三山さんの旦那。
不倫したければ結婚しなきゃ良いのにな、鎌田みたいに。」 



「鎌田さんもまだご結婚されていないんですね。」



「あいつはこの歳になってもチ○コを使いまくりたい奴なんだよ。
俺なんて“一応一生分やっただろ?”ってチ○コが語り掛けてくるから、結構前からマ○コマ○コマ○コの時代は終わりを告げた。」



そんな表現には思わず笑ってしまい、思わず青さんのことを見上げた。



そしたら、見えた。



青さんの凄く凄く優しい顔が。



「不倫するような奴と飯食ったって美味くねーし、不倫するような奴からクリスマスプレゼントなんて貰っても嬉しくねーよな。」



青さんがそう言って・・・



そう言ってくれて・・・



スーツの内ポケットから、出してきた。



プレゼントだと思われる、綺麗にラッピングされている物を出してきた。



その形を見て、“ハンカチ・・・?”と思いながらも、何でか知っているような形のプレゼントだと思った。



でも、嬉しくて・・・。



私は凄く凄く嬉しくて・・・。



高い“Hatori”のコートなんかより、やっぱり凄く嬉しくて・・・。



青さんからのクリスマスプレゼントに片手を伸ばした・・・



そのタイミングで・・・



「商品券。」



青さんの言葉が私の頭に、私の心にドンッ─────...と痛いくらいぶつかってきた。
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