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「青さん。」



青さんの名前を呼び、青さんに言う。



「小関の“家”の人が心の底でしたいと思っていたことは、増田財閥を壊すことなんかではありません。」



鋭い瞳で私のことを睨んだ青さんに、それでも言う。



「小関の“家”の人の望みは、昔も今もこれからも増田財閥の繁栄と維持です。」



そう言い切った私に青さんは鋭い瞳はそのままで、私に片手を伸ばしてきた。



そしてその手は私の顔に・・・私の唇に伸びてきて・・・



私の唇にソッ─────...と触れた。



「望の望みは?」



青さんがそう言って・・・。



「言ってみろよ。」



青さんの指先が私の唇を優しく撫でる。



「余計なことでも何でも、俺には言っていいから。
怒りながらでも俺は聞いてやるから。
俺が出来ることなら俺が叶えてやるから。」



私に真っ直ぐと・・・真っ直ぐと、青さんが言った。



「その口にはセロハンテープはついてない。
だから何だって言えるんだぞ、望。」




青さんが私にそう言ってくれる。
そんな言葉をいつも私に言ってくれる。
高校1年生、私の高校の入学式を最後に会ってくれることはなかった青さんが。



私のことを“ほぼ妹”にしてくれて“ほぼ友達”にしてくれた青さんが。



一緒に暮らす“ほぼ家族”にしてくれた青さんが。



私のことはもう面倒になったのかと思っていた。



彼女さん達のように、私のことも嫌いになったのかと思っていた。



でも再会しても青さんはやっぱり青さんのままで。



でもそれはきっと、私にだけではなく元彼女さん達にもそうなはずで。



青さんは出会った人達との縁を切るような人ではないから。



どんな人との縁も大切にする人だから。



勝手に審査をしてその縁を勝手に切っていくような私とは全然違う、私の“家”とは全然違う人だから。



だからそんな青さんに、言った。



私の望みを言った。



私の口にはセロハンテープはついていないから言った。



青さんから怒られることは分かっている。



でも、それでも青さんは私との縁は切らないでいてくれると分かっているから言った。



「増田財閥に青さんの会社をください。」



私は加藤望。
増田財閥の分家、小関の“家”に遣える秘書、加藤の“家”の生まれた。
30歳になっても“ダメ秘書”のままの私は今でも家政婦の仕事と増田清掃の普通の掃除しか任されていない。



でも、私はやっぱり“本物の秘書”になりたい。
お父さんやお兄ちゃん、お母さんまでなってみせた“本物の秘書”に。



青さんが私に沢山の心と気持ちをくれたから。



だから、私は青さんと会えなくなった後も逃げることなくあの家で秘書を続けられた。



そして、ご主人様や奥様、一平さんや一美さん達ともっと時間を過ごす中で、心のザワザワは消えていった。



青さんとの思い出、そして時間が私の心をどうにかしてくれた。



私は加藤望。



私自身の幸せは小関の“家”の人間達の幸せ。
そして小関の“家”の人間達の幸せには増田財閥の繁栄と維持が組み込まれている。



青さんは財閥のことを知りすぎている。



青さんは財閥のことが大嫌いでいる。



青さんは財閥のことを滅ぼすつもりでいる。



青さんの存在が財閥の脅威になる可能性があると譲社長から判断されている。



そんな青さんに言った。



結婚した一平さんから捨てられた“可哀想なネコ”である私が言った。



青さんは凄く意地悪な人だけど、青さんはとても優しい人だから。



青さんは“可哀想”を見て見ぬふりなんて出来ない人だから。



自分が出来ることなら叶えてやろうと動ける人だから。



そんな、私の大好きな青さんに笑いながら言った。



「青さんがうちの財閥に会社をくれれば私は幸せになれる。
青さん、私のことを幸せにしてください。
私、幸せになりたい。」



一平さんの第2ボタンを強く強く握り締めながら言った。









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