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夕方



研修の動画や画像をパソコンで勉強した後、三山さんの案件についての打ち合わせをする為に青さんの社長室へ入った。



応接用のやけに質の良いソファーとテーブルを少しだけ手で確認をする。



「そのソファーもテーブルも高いのが分かるか?」



頷いた私の目の前に座った青さんがガラス張りになっている所に何かを向けると、そのガラスは真っ黒になった。



それにも特に驚かずにいると、青さんがさっきよりも大きな声を出した。



「お前のパソコンスキルどうしたんだよ・・・!?
電源の入れ方も知らない奴を、いくら社長の奥さんのコネとはいえミツヤマの事務になんて送れねーだろ!!」



「ごめんなさい・・・。」



「でも良い目は持ってるのにな。
思い返すと昔から色々と観察してるような目はしてた。」



「そうですね、父と兄に情報を共有する必要があるので。」



「情報?」



「私が見た一平さ・・・小関の“家”の人の様子や動向です。
青さんや鎌田さんと一緒にいて問題はないかについても含めてですね。」



「・・・それがあったから俺達の空間によくいたのか?」



「そうです。」



答えた私に青さんは物凄く怒った顔になった。



「俺達と一緒にいたのはお前にとっては仕事だったのか。」



「はい。だって・・・」



「そうだよな、あの家は望の職場でしかない。
それは俺もすぐに気付いた。
だから俺は・・・」



言葉を切った青さんが苦しそうに笑いながら天井を見た。



「俺は、望に少しだけ休憩時間を作ってやったつもりだった。」



青さんの言葉に私は小さく笑った。



「楽しかったですよ。
凄く・・・楽しかったです。」



「でも、あの時間も望は仕事をしてたのか。」



「はい・・・ごめんなさい・・・。」



「で?」



青さんが天井から私の方をゆっくりと見た。



「俺と鎌田はあいつと一緒にいても問題ない奴っていう結果になった、と。」



私のことを真っ直ぐと見詰めてそう結論付けた青さんに、私は少しだけ考えた後に本当のことを伝える。



「いえ、全然ダメでしたね。」



「はあ・・・?
高校2年から普通にずっとつるんでただろ!?」



「“綺麗で正しく”生きなければいけない小関の“家”の人が、青さんや鎌田さんのような人と一緒にいて良いわけがないじゃないですか。」



「俺や鎌田みたいな奴ってどんな奴だよ!?」



「え・・・ヤリ○ン?」



「・・・お前と初対面の時、俺はまだ童貞だっただろ!?」



「でも“亜里沙”とエッチする話ばっかりだったし、小関の“家”の人の前でチ○コとかマ○コとか巨乳の話とかお尻の話までして・・・。」



「それは普通だろ!!!
普通の男子高校生だろ!!?」



「普通じゃないですよ。
小関の“家”の人達が関わる友達の“普通”ではありません、度が過ぎていました。
・・・デートなんて出来ないのに。」



両手をギュッと握りながら青さんに伝えた。



「小関の“家”の人達はデートなんて普通に出来ないのに。
好きな女の子に好きと伝えて、好きな女の子と両想いになって、好きな女の子とキスをして好きな女の子とエッチをすることなんて普通に出来ないのに。
青さんと鎌田さんがする話の全ては、小関の“家”の人の普通ではありません。」



「だったらあのお坊っちゃま学校のお坊っちゃまだけとつるんでいたら良かっただろ!!
それまで通り、あいつが増田財閥の分家の人間だと理解している奴らと!!!」



「はい、なので私は父と兄にそう報告をしました。
でも・・・」



“あの日”のことを思い出しながら私は複雑な気持ちになる。



「小関の“家”の人が私の報告の後に私の父と兄を説得したらしいです。
一平さんは・・・小関の“家”の人は、“自分は話に加わらないから、星野君と鎌田君が家に来るのを許して欲しい”って。」



驚いている青さんに続ける。



「小関の“家”の人は絶対にそんなことを言うような人ではなくて。
そんなことを望むような人でもなくて。
私は父と兄からはその話しか知らされていませんが、恐らく他にも何かしらの説得はあったはずです。
その理由が何なのかは私には分かりませんが、1つだけ言えることは。」



少しだけ瞳を揺らした青さんにハッキリと伝えた。



「小関の“家”の人は、青さんのことが凄く好きでした。
でもそれと同じくらい、嫌いそうにも見えました。
青さんのことを見る小関の“家”の人の顔はたまに少しだけ苦しそうで、少しだけ悲しそうで。」



青さんの家の玄関の向こう側に立っていた一平さんの優しい顔を思い浮かべる。



「小関の“家”の人がしたいと心の底で思っていることを青さんがいつも“普通”にしてしまうから、小関の“家”の人は青さんのことがとても好きで、でもそれと同じくらい嫌いだったのだと思います。」



そう伝えてから、胸の真ん中にある一平さんの第2ボタンを握った。



「青さん。」



青さんの名前を呼び、青さんに言う。



「小関の“家”の人が心の底でしたいと思っていたことは、増田財閥を壊すことなんかではありません。」



鋭い瞳で私のことを睨んだ青さんに、それでも言う。



「小関の“家”の人の望みは、昔も今もこれからも増田財閥の繁栄と維持です。」



そう言い切った私に青さんは鋭い瞳はそのままで、私に片手を伸ばしてきた。



そしてその手は私の顔に・・・私の唇に伸びてきて・・・



私の唇にソッ─────...と触れた。



「望の望みは?」



青さんがそう言って・・・。



「言ってみろよ。」



青さんの指先が私の唇を優しく撫でる。



「余計なことでも何でも、俺には言っていいから。
怒りながらでも俺は聞いてやるから。
俺が出来ることなら俺が叶えてやるから。」



私に真っ直ぐと・・・真っ直ぐと、青さんが言った。



「その口にはセロハンテープはついてない。
だから何だって言えるんだぞ、望。」










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