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その言葉の意味はよく分からず、樹里に聞く。
「女の子の服、買えなかったのか?
午前中からお姉ちゃんと買いに行くって言ってたけど。」
「買いに行った。可愛いの・・・。
可愛い女の子の服、買った・・・。」
「それ着たら、女の子の格好じゃないのか・・・?」
「着たけど・・・着られなかったの・・・。」
「どういう意味だ・・・?」
そう聞いた途端、樹里が両手で口を押さえ・・・
フラフラとしながらも慌てて、トイレへ駆け込んでいく。
それに俺も急いでついていくと・・・
樹里はトイレで吐き出そうとしていた。
でも、何も出てこなくて・・・
全て吐き出していた後だった。
1人で、苦しんでいた後だった・・・。
俺は、助けられなかった・・・。
樹里から助けを求められた時、樹里を助けるために弁護士になったのに・・・。
樹里が助けを求められる距離にいるために、付き合わなかったのに・・・。
俺は、それでも・・・
助けられなかった・・・。
苦しみ続ける樹里の背中を、少しでも楽になるよう優しく擦る・・・。
そしたら、樹里の身体が吐き出そうとするのを止め、かわりに涙が沢山流れていた。
樹里は、“目”が良い・・・。
そして、きっと“心”も良い。
それは性格が良いとか単純なことではなく、副社長の言葉を借りるなら“土台”がある。
良い時期に良い“土台”となるモノに、出会えている。
それは、きっと・・・“お姉ちゃん”。
それを思った時、“口”は良くない樹里がたった1つだけ気持ちをぶつけられる物を思い出した。
それを取りにリビングに戻り、またすぐに樹里の元へ。
そして、樹里に差し出した。
手帳とボールペンを・・・。
樹里はそれに気付き、口をゆっくり開けた。
「樹里の・・・?」
その質問の意味に気付き、赤いボールペンを見る。
樹里が高校3年生の誕生日プレゼント、樹里と同じ物をその場で俺も買った。
特に深い意味はなかったけど・・・俺にも、買った。
「これは俺の。
同じボールペン、その時に買ったんだよな。」
「赤いのに・・・?」
「男が赤持ってたっていいだろ?」
そんなやり取りに、樹里はやっと笑った。
小さくだけど、いつもみたいに可愛く笑っていた。
そして、震える両手でそれを受け取り・・・
手帳の白紙のページを出すと、赤いボールペンで文字を書き始めた。
でも、それは・・・
“文字を書く”とも違うように見えた。
小学4年生の頃、図書館で勉強をしている樹里の様子を見ていたけど、それとは違った。
そして、気付いた。
樹里が書道を始めてから、俺は初めて樹里が何かを書く所を見る・・・。
“普通”の雰囲気では、なかった。
なんだか、目が離せなかった・・・。
樹里が言っていた意味が、初めて分かった。
“ぶつけている”と、言っていた。
書道の時は、“ぶつけている”と・・・。
“心”を、ぶつけている・・・。
“心の文字”を・・・
樹里は、ぶつけている・・・。
「女の子の服、買えなかったのか?
午前中からお姉ちゃんと買いに行くって言ってたけど。」
「買いに行った。可愛いの・・・。
可愛い女の子の服、買った・・・。」
「それ着たら、女の子の格好じゃないのか・・・?」
「着たけど・・・着られなかったの・・・。」
「どういう意味だ・・・?」
そう聞いた途端、樹里が両手で口を押さえ・・・
フラフラとしながらも慌てて、トイレへ駆け込んでいく。
それに俺も急いでついていくと・・・
樹里はトイレで吐き出そうとしていた。
でも、何も出てこなくて・・・
全て吐き出していた後だった。
1人で、苦しんでいた後だった・・・。
俺は、助けられなかった・・・。
樹里から助けを求められた時、樹里を助けるために弁護士になったのに・・・。
樹里が助けを求められる距離にいるために、付き合わなかったのに・・・。
俺は、それでも・・・
助けられなかった・・・。
苦しみ続ける樹里の背中を、少しでも楽になるよう優しく擦る・・・。
そしたら、樹里の身体が吐き出そうとするのを止め、かわりに涙が沢山流れていた。
樹里は、“目”が良い・・・。
そして、きっと“心”も良い。
それは性格が良いとか単純なことではなく、副社長の言葉を借りるなら“土台”がある。
良い時期に良い“土台”となるモノに、出会えている。
それは、きっと・・・“お姉ちゃん”。
それを思った時、“口”は良くない樹里がたった1つだけ気持ちをぶつけられる物を思い出した。
それを取りにリビングに戻り、またすぐに樹里の元へ。
そして、樹里に差し出した。
手帳とボールペンを・・・。
樹里はそれに気付き、口をゆっくり開けた。
「樹里の・・・?」
その質問の意味に気付き、赤いボールペンを見る。
樹里が高校3年生の誕生日プレゼント、樹里と同じ物をその場で俺も買った。
特に深い意味はなかったけど・・・俺にも、買った。
「これは俺の。
同じボールペン、その時に買ったんだよな。」
「赤いのに・・・?」
「男が赤持ってたっていいだろ?」
そんなやり取りに、樹里はやっと笑った。
小さくだけど、いつもみたいに可愛く笑っていた。
そして、震える両手でそれを受け取り・・・
手帳の白紙のページを出すと、赤いボールペンで文字を書き始めた。
でも、それは・・・
“文字を書く”とも違うように見えた。
小学4年生の頃、図書館で勉強をしている樹里の様子を見ていたけど、それとは違った。
そして、気付いた。
樹里が書道を始めてから、俺は初めて樹里が何かを書く所を見る・・・。
“普通”の雰囲気では、なかった。
なんだか、目が離せなかった・・・。
樹里が言っていた意味が、初めて分かった。
“ぶつけている”と、言っていた。
書道の時は、“ぶつけている”と・・・。
“心”を、ぶつけている・・・。
“心の文字”を・・・
樹里は、ぶつけている・・・。
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