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第75話 少し違和感のある日常
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「おはよう!」とカズミが元気にあいさつしてくれる。
「おはようございますっ、美沙希ちゃん!」西湖はニコニコしている。
あんなことがあっても、変わることのない日常がつづいていた。
「おはよう」と美沙希もあいさつする。彼女の笑顔は、少しぎこちなかった。
放課後も何事もなかったかのように、文化祭の準備が進められた。
真央はきびきびと手際よく仕事をした。
何も知らない佐藤はもちろん普段どおりだ。波乱があったことに気づいてもいないようだった。
西湖は1年1組に届けられたふたつの水槽に砂を敷き、適当に石を並べて、水で満たした。水草を浮かべ、そこにタナゴやクチボソを泳がせた。
「いいね、西湖ちゃん」とカズミは言った。あのケンカは本当にあったのだろうか、と美沙希が思うほど、自然に西湖ちゃん、と呼んでいた。
「いいでしょう、カズミちゃん」と西湖は答える。あのケンカはなんだったのだろう、と美沙希は思った。
少しだけ違和感を感じる。
あのことには触れないようにしよう、とふたりは考えているのかもしれない。
しかし私は考えないわけにはいかない、と美沙希は思っていた。
「愛している」とふたりから告げられた。
私は答えを出さなければならない。
カズミも西湖も大好きだ。
誠実に答えたい。
しかし、どう答えればよいのか……。
美沙希は悩みつづけていた。
佐藤は父親が釣ったというヘラブナを3匹とマブナを2匹、タナゴとは別の水槽に入れた。
魚たちが元気にふたつの水槽を泳いでいる。
それを見たクラスメイトたちは歓声を上げた。
「すごいきれい」
「いいじゃん!」
「素敵ね。釣り展示、成功させたい。きっと成功するよ!」
真央は満足そうに微笑んだ。
「もう魚は充分じゃないか? タナゴがいっぱいいるし、ワカサギは釣らなくてもいいんじゃないの?」
「そうですねっ。ワカサギも釣りたいけれど、タックルを買うお金がありません」
「確かに、これで充分だね」
「いいと思う」
ワカサギは今回は釣らないことになった。
9月が終わり、10月になった。
釣り紹介の原稿はすべて完成した。
美沙希がブラックバスバス釣りの紹介やルアーについて説明する文章を書いた。
カズミはキャットフィッシュとブルーギルの記事を書いた。
西湖はタナゴについてびっしりと文章を作成した。真央から多すぎるから削ってと言われ、泣く泣く推敲していた。
佐藤はヘラブナ釣りについて、ネットからコピペしたとすぐにバレる文章をつくってきた。誰も直せとは言わなかった。
写真も揃った。
美沙希とカズミがブラックバスとキャットフィッシュとブルーギルを釣っている写真。
西湖がタナゴを釣っている写真。
真央はフリーの画像ソフトで加工したり、トリミングしたりして、プリンターで印刷した写真をメンバーに見せた。
「いいね」
「いい」
「よいですっ」
みんなが満足する出来の写真がたくさん揃っていた。
佐藤は父親がヘラブナを釣っている写真を持ってきた。
あまり上手な写真とは言えなかったが、誰も文句は言わなかった。
10月第1週の金曜日、真央はクラスメイト全員に向かって告げた。
「さあ、いよいよ来週は仕上げよ。放課後は全員残ってね。模造紙に清書したり、写真を貼ったり、教室の飾り付けをしたりするわよ!」
「オッケー」
「やるわ!」
「文化祭、成功させよう!」
クラスの雰囲気は盛り上がっていた。
真央はその中心になって級友を率いている。
カズミも西湖も表面上は笑顔を見せている。
美沙希は考えつづけ、悩みつづけていた。
文化祭が終わったら、ふたりに返事しよう、と決めた。
だが、なんと伝えればよいのか、未だに決まっていなかった。
ぼんやりとした答えは見えつつある。
でもそれでよいのか、彼女には確信が持てなかった。
「おはようございますっ、美沙希ちゃん!」西湖はニコニコしている。
あんなことがあっても、変わることのない日常がつづいていた。
「おはよう」と美沙希もあいさつする。彼女の笑顔は、少しぎこちなかった。
放課後も何事もなかったかのように、文化祭の準備が進められた。
真央はきびきびと手際よく仕事をした。
何も知らない佐藤はもちろん普段どおりだ。波乱があったことに気づいてもいないようだった。
西湖は1年1組に届けられたふたつの水槽に砂を敷き、適当に石を並べて、水で満たした。水草を浮かべ、そこにタナゴやクチボソを泳がせた。
「いいね、西湖ちゃん」とカズミは言った。あのケンカは本当にあったのだろうか、と美沙希が思うほど、自然に西湖ちゃん、と呼んでいた。
「いいでしょう、カズミちゃん」と西湖は答える。あのケンカはなんだったのだろう、と美沙希は思った。
少しだけ違和感を感じる。
あのことには触れないようにしよう、とふたりは考えているのかもしれない。
しかし私は考えないわけにはいかない、と美沙希は思っていた。
「愛している」とふたりから告げられた。
私は答えを出さなければならない。
カズミも西湖も大好きだ。
誠実に答えたい。
しかし、どう答えればよいのか……。
美沙希は悩みつづけていた。
佐藤は父親が釣ったというヘラブナを3匹とマブナを2匹、タナゴとは別の水槽に入れた。
魚たちが元気にふたつの水槽を泳いでいる。
それを見たクラスメイトたちは歓声を上げた。
「すごいきれい」
「いいじゃん!」
「素敵ね。釣り展示、成功させたい。きっと成功するよ!」
真央は満足そうに微笑んだ。
「もう魚は充分じゃないか? タナゴがいっぱいいるし、ワカサギは釣らなくてもいいんじゃないの?」
「そうですねっ。ワカサギも釣りたいけれど、タックルを買うお金がありません」
「確かに、これで充分だね」
「いいと思う」
ワカサギは今回は釣らないことになった。
9月が終わり、10月になった。
釣り紹介の原稿はすべて完成した。
美沙希がブラックバスバス釣りの紹介やルアーについて説明する文章を書いた。
カズミはキャットフィッシュとブルーギルの記事を書いた。
西湖はタナゴについてびっしりと文章を作成した。真央から多すぎるから削ってと言われ、泣く泣く推敲していた。
佐藤はヘラブナ釣りについて、ネットからコピペしたとすぐにバレる文章をつくってきた。誰も直せとは言わなかった。
写真も揃った。
美沙希とカズミがブラックバスとキャットフィッシュとブルーギルを釣っている写真。
西湖がタナゴを釣っている写真。
真央はフリーの画像ソフトで加工したり、トリミングしたりして、プリンターで印刷した写真をメンバーに見せた。
「いいね」
「いい」
「よいですっ」
みんなが満足する出来の写真がたくさん揃っていた。
佐藤は父親がヘラブナを釣っている写真を持ってきた。
あまり上手な写真とは言えなかったが、誰も文句は言わなかった。
10月第1週の金曜日、真央はクラスメイト全員に向かって告げた。
「さあ、いよいよ来週は仕上げよ。放課後は全員残ってね。模造紙に清書したり、写真を貼ったり、教室の飾り付けをしたりするわよ!」
「オッケー」
「やるわ!」
「文化祭、成功させよう!」
クラスの雰囲気は盛り上がっていた。
真央はその中心になって級友を率いている。
カズミも西湖も表面上は笑顔を見せている。
美沙希は考えつづけ、悩みつづけていた。
文化祭が終わったら、ふたりに返事しよう、と決めた。
だが、なんと伝えればよいのか、未だに決まっていなかった。
ぼんやりとした答えは見えつつある。
でもそれでよいのか、彼女には確信が持てなかった。
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