釣りガールズ

みらいつりびと

文字の大きさ
上 下
59 / 78

第59話 2学期

しおりを挟む
 2学期が始まった。
 1年1組のクラス委員長立花真央は、釣りばかりしている川村美沙希と彼女にかまけてばかりいる琵琶カズミが、きちんと夏休みの宿題を提出しているのを確認して、ほっとしていた。
 相変わらずふたりの仲はいいようだ。
 美沙希はほぼカズミとしか会話していない。
 カズミは誰とでもフレンドリーに話すが、美沙希を特別に大切にしているようだ。
 釣り雑誌の9月号にふたりの記事が載っていて、彼女たちはそれを眺めながら、楽しそうに話していた。

 真央は自分が美沙希とカズミを気にしていることに気づいていた。
 美沙希がクラスの中で浮いていて、カズミがそんな彼女の友だちだから、ふたりを気にかけているのだと思っていた。
 でもどうやらちがうようだ、と思うようになってきた。
 真央が本当に気になっているのは、琵琶カズミだった。
 川村美沙希を大切にし、彼女に尽くし、愛おしんでいるようなカズミの姿を見て、なんてやさしい子なんだろうと思う。
 気がつくと、カズミを目で追っている自分に気づいて、愕然とすることがある。

 美沙希とカズミには勉強を教えて、ふたりとはそれなりに仲よくなっていた。
 ふつうに話すことができる程度には。
 しかしあのふたりの異常なほどの仲のよさに割って入ることはできていない。
 カズミにはそっけない態度を取ってしまうことが多い。
 そのたびに真央は少し落ち込んでいた。
 もっとカズミと仲よくなりたい……。

 10月第2週の土曜日と日曜日には文化祭がある。
 1年1組も何か出し物をやらなければならない。
 真央は文化祭を通じて、美沙希がもっとクラスに馴染み、そして自分とカズミが仲よくなれる方法を考えていた。
 9月初旬のロングホームルームでは、真央が議長になって、クラスで文化祭について話し合った。
「はい、みんな、こっちに注目して。うちのクラスが文化祭で何をやるか決めるよ。まずは、案を出してほしいの。考えがある人は挙手してね」
 クラスの中はシーンとしていた。
 真央以外に、クラスの面倒事に積極的になれるような人物はいないのだ。
 彼女は野球部の胡桃沢翔に声をかけた。
「胡桃沢くん、何かアイデアはないかな?」
「うーん、お化け屋敷とか?」
「いいけど、お化け屋敷をきちんとつくるのは、けっこう大変なのよ。みんな、やる気はある?」
 シーン。反応なし。
 次に、釣りが趣味の佐藤拓海に声をかけた。
「佐藤くん、何か案を出してよ」
「おれ、釣りのことしか考えてないから。わかんねえよ」
「釣りか。釣りね……。カズミと美沙希も釣りをやるよね?」
 突然話を振られて、美沙希は緊張した顔になり、カズミは「うん、まあね」と答えた。

「あなたたち、釣り雑誌に記事が載るほどのすごい釣り人なんでしょう?」
「美沙希がすごいのよ。あたしはつきそいみたいなもの。この子は釣りの天才よ。きっと将来、釣りで有名になるわ」
「ちょっと、やめて、カズミ。私は天才じゃないし、有名になんてなりたくない……」
「わかったわ。とにかく、うちのクラスには釣りをやり込んでいる人が3人いる。しかもそのうちのふたりは雑誌に載るほどの釣り人。これを文化祭に活かさない手はないと思うの」
 クラスの全員が興味を持って真央を見つめた。
 美沙希は自分が文化祭に巻き込まれそうになっているので、怯えていた。
 カズミは、面白いかも、と思っていた。美沙希が文化祭で成長できるなら、自分はなんでもやる。
 佐藤は、どうでもよさそうな顔をしていたが、少しだけ口角が上がっていた。

「文化祭で釣りの展示をやるのはどうかしら。このイタコ市は釣りが盛んみたいだしさ。釣り具を展示したり、釣りの記事を書いたり、写真を貼ったりした模造紙を掲示して、釣りについての発表をするの」
「だめだめだめ、そんなの、面白くないよ……」
 美沙希は激しく首を振った。
 真央はカズミの目を力強く見つめた。
「わたしが強力にバックアップするわ。どんなことでも手伝う。だから、カズミと美沙希が文化祭実行委員になってくれないかな。釣りガールズ、ひと肌脱いでよ」
「嫌よ!」
「いいわよ」
「カズミ!」
「美沙希、あたしがほとんど全部やるよ。あなたは展示物を貸したり、あたしの手伝いを少しやってくれたりするだけでいい。やってみようよ」
 美沙希はまだ怯えていた。
 カズミは彼女の美しい目を見つめていた。
 真央はふたりを羨ましそうに眺めていた。
「やってみろよ。おれも手伝う」
「やってよ、琵琶さん、川村さん」
 クラスの雰囲気が、釣り展示でいいんじゃないかというふうになってきた。文化祭の中心人物にならずに、楽ができるから……。
 美沙希はその流れに抵抗できるような力を持っていない。
「美沙希、あたしがいるから、だいじょうぶだよ!」
「美沙希、クラス委員長として、責任を持って助けるから!」
「うう……。わかった。やる……」
 美沙希は涙目になっていた。
 こうして、1年1組は文化祭で釣り展示をやることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

処理中です...