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第51話 水郷イタコ花火大会
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花火大会の日、カズミは午後5時5分前に、川村家を訪れ、ドアフォンを鳴らした。
「はい」と言って、美沙希は玄関を開けた。
そこに、淡いピンクの地に百合柄の着物を着たカズミがいた。髪はアップにまとめられ、つまみ細工の可憐なかんざしを刺している。
まるで花嫁のようだった。
不意を打たれて、美沙希はよろめいた。
彼女は祭礼のときと同じ紺と白のゆかたを着ている。
着物姿のカズミが美沙希の手を握り、キタトネ川沿いを歩き始めた。
カズミの左手が美沙希の右手を握っている。
いわゆる恋人繋ぎだった……。
水郷ホクサイ公園は満員だった。
ふたりは片隅に立って、空を見上げた。
花火大会は7時から始まる。
まだ空は明るく、青い空に白い雲が浮かんでいた。積乱雲だった。
夕立が降るかもしれない、と美沙希は思った。
6時ごろ、ザアッと夕立が降った。
会場の人々はほとんど動かなかった。
美沙希は傘をさした。
カズミは傘を持っていなかったので、相合傘になった。
彼女は美沙希に身を寄せ、ぴったりとくっついた。
夕立の途中で、カズミが美沙希に何かささやいた。その瞬間、雷が鳴った。
「何? 聞こえなかった」
「なんでもない」とカズミは答えた。
花火大会が始まった。
ドン、と腹に響くような音を立て、ひゅるるるると花火が打ち上げ場所の船の真上に上がる。
ドーンと花火が破裂して、華やかな色彩が夜空をいろどる。
パラパラと粉が落ち、硝煙の匂いが立ち込める。
ドーン、ドドン。
ドン、ドン、ドン……。
スターマインが咲いた。
美しく。
美沙希は百合柄の着物を着たカズミの横顔を眺めた。
花火よりも美しい。
垂れ目が可愛い。
ずっと一緒にいたい。
あいしているかも……。
花火大会の間中、ふたりは手を握っていた。
恋人握りで……。
最後の花火が夜空を壮麗にいろどり、大会は終わった。
人々が水郷ホクサイ公園から離れていく。
しかし美沙希とカズミはそのまま星空を見つめつづけていた。
帰りたくなかった。
だが、いつまでもそこにいるわけにはいかなかった。
会場係から終わりましたよ、と声をかけられ、我に返ったふたりは帰路についた。
川村家の前で「さよなら、またね」とカズミは言った。
「また」と美沙希は答えた。
明日からカズミはバイトだ。
会う約束はない。
「また」がいつか、わからない。
カズミからの告白はなかった。
百合の意味を、美沙希は問わなかった。
まだふたりは恋人同士ではなかった。
「はい」と言って、美沙希は玄関を開けた。
そこに、淡いピンクの地に百合柄の着物を着たカズミがいた。髪はアップにまとめられ、つまみ細工の可憐なかんざしを刺している。
まるで花嫁のようだった。
不意を打たれて、美沙希はよろめいた。
彼女は祭礼のときと同じ紺と白のゆかたを着ている。
着物姿のカズミが美沙希の手を握り、キタトネ川沿いを歩き始めた。
カズミの左手が美沙希の右手を握っている。
いわゆる恋人繋ぎだった……。
水郷ホクサイ公園は満員だった。
ふたりは片隅に立って、空を見上げた。
花火大会は7時から始まる。
まだ空は明るく、青い空に白い雲が浮かんでいた。積乱雲だった。
夕立が降るかもしれない、と美沙希は思った。
6時ごろ、ザアッと夕立が降った。
会場の人々はほとんど動かなかった。
美沙希は傘をさした。
カズミは傘を持っていなかったので、相合傘になった。
彼女は美沙希に身を寄せ、ぴったりとくっついた。
夕立の途中で、カズミが美沙希に何かささやいた。その瞬間、雷が鳴った。
「何? 聞こえなかった」
「なんでもない」とカズミは答えた。
花火大会が始まった。
ドン、と腹に響くような音を立て、ひゅるるるると花火が打ち上げ場所の船の真上に上がる。
ドーンと花火が破裂して、華やかな色彩が夜空をいろどる。
パラパラと粉が落ち、硝煙の匂いが立ち込める。
ドーン、ドドン。
ドン、ドン、ドン……。
スターマインが咲いた。
美しく。
美沙希は百合柄の着物を着たカズミの横顔を眺めた。
花火よりも美しい。
垂れ目が可愛い。
ずっと一緒にいたい。
あいしているかも……。
花火大会の間中、ふたりは手を握っていた。
恋人握りで……。
最後の花火が夜空を壮麗にいろどり、大会は終わった。
人々が水郷ホクサイ公園から離れていく。
しかし美沙希とカズミはそのまま星空を見つめつづけていた。
帰りたくなかった。
だが、いつまでもそこにいるわけにはいかなかった。
会場係から終わりましたよ、と声をかけられ、我に返ったふたりは帰路についた。
川村家の前で「さよなら、またね」とカズミは言った。
「また」と美沙希は答えた。
明日からカズミはバイトだ。
会う約束はない。
「また」がいつか、わからない。
カズミからの告白はなかった。
百合の意味を、美沙希は問わなかった。
まだふたりは恋人同士ではなかった。
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