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第21話 中華そばもちもちの樹
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県道沿いに「もちもちの樹 水郷店」という看板があり、美沙希とカズミは自転車を止めた。
黒い板塀で囲まれた和風の平屋。上品な建物で、割烹だと言われてもおかしくなく店構えだ。
「ラーメン屋さんっぽくないね」とカズミはつぶやいた。
「個性的だよね。美味しいラーメンがあるんだよ~」
人気店らしく、行列ができていた。
美沙希はいそいそと列に並んだ。
「あれ、琵琶と川村」
列の直前にいたのは、クラスメイトの佐藤拓海だった。
「ひっ」と叫んで、美沙希はカズミの陰に隠れた。
「こんにちは、佐藤くん」
「こんにちは、琵琶、それと川村。取って食いはしないから、そんなに怖がるなよ」
美沙希は無言だ。本気で怯えて、カズミの背中に隠れて縮こまっている。
「ふたりとも、また釣りしてたのか?」
「うん。佐藤くんも?」
「まぁね。ノーフィッシュだけどさ」
「こっちは釣ったよー。56センチ……」
「えっ? そんな大物?」
「のキャットフィッシュ!」
「ナマズか。あー、びっくりした」
「ブラックバスじゃないんだよねー。でも楽しかったよ」
カズミと佐藤の会話は弾んでいるが、美沙希はまったく参加しようとしない。
「一緒に食わないかと言いたいところだけど、無理そうだな」
「ごめんねー」
佐藤はひとりで店内に入り、続いて美沙希とカズミがテーブル席に案内された。
店内は薄暗かった。座敷席があり、テーブル席はゆったりと間隔を開けて置かれている。「恵比寿ビールあり〼」という看板や瓶のコカコーラが入った冷蔵庫があり、大正ロマン的な雰囲気があった。
美沙希は佐藤が離れた席に座っているのを確認して、ほっとしていた。
カズミはメニューを開いた。
中華そばとつけ麺しかない。
中華そば小140g、中280g、大420g。
つけ麺小200g、中400g、大800g。
「ここはねえ、節系醤油味のお店なんだよ。中華そばもつけ麺もどっちもおすすめ。うわー、迷うなぁ」
美沙希が元気を取り戻して、はしゃいだ声を上げた。
「うーん、今日は中華そば中にするよ!」
「あたしもそれで」
美沙希が店員を呼んで、注文した。
10分ほど待って、中華そばがふたつ運ばれてきた。
「ここの中華そばはスープが熱々だから、やけどしないように気をつけてね。私的には、日本で一番熱々の店!」
「美沙希はラーメンが好きだねえ」
カズミはれんげでスープをすくって、ひと口飲んだ。
「あ、美味しい!」
「そうでしょう、そうでしょう! キリッと濃い醤油味で鰹節が香って、美味しいんだなぁ、これが!」
麺をすする。
「本当に美味しい! それに熱い!」
「スープに薄い油膜が張っていて、最後まで熱々なんだよ。麺はストレートの中太。もちもちしてるよねえ」
「うん、もちもちしてる」
「チャーシューも美味しいけど、もちもちの樹はメンマがすごいんだよ。穂先メンマって言って、太くて柔らかいんだよ!」
「ほんとだ! メンマ美味しい!」
「美味しい!」
「美味しい!」
純樹では「旨い!」を連発していたふたりだが、ここでは「美味しい!」を連発している。純樹はこってりと旨く、もちもちの樹は上品に美味しいのだ。
もちもちの樹の中華そば中を完食した美沙希とカズミは大満足していた。中盛りで他の多くのラーメン屋の大盛りを凌駕するボリュームがある。
950円。少し高いが、その価値はあるとカズミは思った。
黒い板塀で囲まれた和風の平屋。上品な建物で、割烹だと言われてもおかしくなく店構えだ。
「ラーメン屋さんっぽくないね」とカズミはつぶやいた。
「個性的だよね。美味しいラーメンがあるんだよ~」
人気店らしく、行列ができていた。
美沙希はいそいそと列に並んだ。
「あれ、琵琶と川村」
列の直前にいたのは、クラスメイトの佐藤拓海だった。
「ひっ」と叫んで、美沙希はカズミの陰に隠れた。
「こんにちは、佐藤くん」
「こんにちは、琵琶、それと川村。取って食いはしないから、そんなに怖がるなよ」
美沙希は無言だ。本気で怯えて、カズミの背中に隠れて縮こまっている。
「ふたりとも、また釣りしてたのか?」
「うん。佐藤くんも?」
「まぁね。ノーフィッシュだけどさ」
「こっちは釣ったよー。56センチ……」
「えっ? そんな大物?」
「のキャットフィッシュ!」
「ナマズか。あー、びっくりした」
「ブラックバスじゃないんだよねー。でも楽しかったよ」
カズミと佐藤の会話は弾んでいるが、美沙希はまったく参加しようとしない。
「一緒に食わないかと言いたいところだけど、無理そうだな」
「ごめんねー」
佐藤はひとりで店内に入り、続いて美沙希とカズミがテーブル席に案内された。
店内は薄暗かった。座敷席があり、テーブル席はゆったりと間隔を開けて置かれている。「恵比寿ビールあり〼」という看板や瓶のコカコーラが入った冷蔵庫があり、大正ロマン的な雰囲気があった。
美沙希は佐藤が離れた席に座っているのを確認して、ほっとしていた。
カズミはメニューを開いた。
中華そばとつけ麺しかない。
中華そば小140g、中280g、大420g。
つけ麺小200g、中400g、大800g。
「ここはねえ、節系醤油味のお店なんだよ。中華そばもつけ麺もどっちもおすすめ。うわー、迷うなぁ」
美沙希が元気を取り戻して、はしゃいだ声を上げた。
「うーん、今日は中華そば中にするよ!」
「あたしもそれで」
美沙希が店員を呼んで、注文した。
10分ほど待って、中華そばがふたつ運ばれてきた。
「ここの中華そばはスープが熱々だから、やけどしないように気をつけてね。私的には、日本で一番熱々の店!」
「美沙希はラーメンが好きだねえ」
カズミはれんげでスープをすくって、ひと口飲んだ。
「あ、美味しい!」
「そうでしょう、そうでしょう! キリッと濃い醤油味で鰹節が香って、美味しいんだなぁ、これが!」
麺をすする。
「本当に美味しい! それに熱い!」
「スープに薄い油膜が張っていて、最後まで熱々なんだよ。麺はストレートの中太。もちもちしてるよねえ」
「うん、もちもちしてる」
「チャーシューも美味しいけど、もちもちの樹はメンマがすごいんだよ。穂先メンマって言って、太くて柔らかいんだよ!」
「ほんとだ! メンマ美味しい!」
「美味しい!」
「美味しい!」
純樹では「旨い!」を連発していたふたりだが、ここでは「美味しい!」を連発している。純樹はこってりと旨く、もちもちの樹は上品に美味しいのだ。
もちもちの樹の中華そば中を完食した美沙希とカズミは大満足していた。中盛りで他の多くのラーメン屋の大盛りを凌駕するボリュームがある。
950円。少し高いが、その価値はあるとカズミは思った。
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