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第14話 教室の中の美沙希
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翌日、カズミは早めに登校した。
佐藤拓海が教室に入ってくるのを見て、すぐに話しかけた。
「おはよう。きのうはごめんね」
「おはよう。急に行っちゃったからびっくりしたよ」
「美沙希ってさ、人見知りなんだよね」
「ああ、まぁそんな感じだよな」
「そう、悪気はないの。だから気にしないでね」
「わかった。それにしても、ふたりとも釣りが趣味とは驚いたよ。釣り好きの女子は少ないからさ」
「あたしは初心者なんだけどね。美沙希は上手よ」
「一緒に遊びたいな」
「ごめんね。今はちょっと誘えない」
佐藤は残念そうだったが、それ以上は何も言わなかった。
「川村さんの人見知りって、ちょっと度が過ぎているんじゃないかな」
カズミと佐藤の会話を聞いていたクラス委員長の立花真央が言った。
「話しかけても、ほぼ反応なしなんだもん。琵琶さんは川村さんと仲がいいの?」
「うん。まぁ、友だちかな」
「少しはクラスに打ち解けるように言っておいてよ」
「う、うん。ちょっと時間がかかるかもしれないけど」
そのとき、美沙希が教室に入ってきた。朝のホームルームが始まるギリギリの時間だ。
彼女はまったくあいさつをしない。話しかけるクラスメイトは皆無だった。
「おはよう!」とカズミだけが言った。
「おはよう……」と小さな声で答える美沙希。明らかに釣り場よりテンションが低い。
授業が始まると、美沙希はまっすぐに教師を見つめ、真面目にノートを取った。
休み時間になると読書をしている。持っている本は、まるで人との距離を保つバリアのようだ。
美沙希はクラスで浮いている。カズミはそれをあらためて確認し、ハラハラした。
昼休みに美沙希が屋上へ向かうと、カズミもお弁当を持って階段をのぼった。
ふたりきりで食事を取っていると、堅かった美沙希の表情が和んできた。
「教室から出るとほっとする。あそこは苦手」と彼女は言った。
少し突っ込んだことを聞いてみよう、とカズミは決意した。
「あのさ、答えたくなかったら、答えなくていいんだけど」
美沙希はコンビニで買ったサンドイッチを持ったまま、小首を傾げた。うう、キュートだ、とカズミは思う。
「小学校でも、中学でも、クラスでは今みたいだったの?」
「うん、そうだけど」
「いじめられたりしなかった?」
美沙希の表情が目に見えて暗くなった。
「いじめられたよ。学校に行けなくなったこともある」
「そっか……」
「言ったでしょ。私、社会不適合者だもん」
「いや、そう決めつけるのは早計なのでは」
「今までずっとそうだった。これからもきっと同じ」
カズミは思う。
許されるなら、永遠に美沙希を守りたい。
でも、自分が女の子しか愛せない人間だと伝えたら、彼女は去ってしまうかもしれない。
「とにかく、もしいじめられたりしたら、あたしに相談してね。絶対に美沙希を守るから」
「ありがとう。カズミみたいな友だちができたのは初めてだよ」
彼女の無邪気な笑顔を見て、かすかにカズミの胸が痛む。
友だち以上になれたらいいのに……。
午後になっても、教室での美沙希の態度が変わることはなかった。
カズミには美沙希以外にも友だちがいる。
しかし美沙希は孤立している。フィールドでルアーを投げるときのいきいきとした彼女の姿は、片鱗もなかった。
佐藤拓海が教室に入ってくるのを見て、すぐに話しかけた。
「おはよう。きのうはごめんね」
「おはよう。急に行っちゃったからびっくりしたよ」
「美沙希ってさ、人見知りなんだよね」
「ああ、まぁそんな感じだよな」
「そう、悪気はないの。だから気にしないでね」
「わかった。それにしても、ふたりとも釣りが趣味とは驚いたよ。釣り好きの女子は少ないからさ」
「あたしは初心者なんだけどね。美沙希は上手よ」
「一緒に遊びたいな」
「ごめんね。今はちょっと誘えない」
佐藤は残念そうだったが、それ以上は何も言わなかった。
「川村さんの人見知りって、ちょっと度が過ぎているんじゃないかな」
カズミと佐藤の会話を聞いていたクラス委員長の立花真央が言った。
「話しかけても、ほぼ反応なしなんだもん。琵琶さんは川村さんと仲がいいの?」
「うん。まぁ、友だちかな」
「少しはクラスに打ち解けるように言っておいてよ」
「う、うん。ちょっと時間がかかるかもしれないけど」
そのとき、美沙希が教室に入ってきた。朝のホームルームが始まるギリギリの時間だ。
彼女はまったくあいさつをしない。話しかけるクラスメイトは皆無だった。
「おはよう!」とカズミだけが言った。
「おはよう……」と小さな声で答える美沙希。明らかに釣り場よりテンションが低い。
授業が始まると、美沙希はまっすぐに教師を見つめ、真面目にノートを取った。
休み時間になると読書をしている。持っている本は、まるで人との距離を保つバリアのようだ。
美沙希はクラスで浮いている。カズミはそれをあらためて確認し、ハラハラした。
昼休みに美沙希が屋上へ向かうと、カズミもお弁当を持って階段をのぼった。
ふたりきりで食事を取っていると、堅かった美沙希の表情が和んできた。
「教室から出るとほっとする。あそこは苦手」と彼女は言った。
少し突っ込んだことを聞いてみよう、とカズミは決意した。
「あのさ、答えたくなかったら、答えなくていいんだけど」
美沙希はコンビニで買ったサンドイッチを持ったまま、小首を傾げた。うう、キュートだ、とカズミは思う。
「小学校でも、中学でも、クラスでは今みたいだったの?」
「うん、そうだけど」
「いじめられたりしなかった?」
美沙希の表情が目に見えて暗くなった。
「いじめられたよ。学校に行けなくなったこともある」
「そっか……」
「言ったでしょ。私、社会不適合者だもん」
「いや、そう決めつけるのは早計なのでは」
「今までずっとそうだった。これからもきっと同じ」
カズミは思う。
許されるなら、永遠に美沙希を守りたい。
でも、自分が女の子しか愛せない人間だと伝えたら、彼女は去ってしまうかもしれない。
「とにかく、もしいじめられたりしたら、あたしに相談してね。絶対に美沙希を守るから」
「ありがとう。カズミみたいな友だちができたのは初めてだよ」
彼女の無邪気な笑顔を見て、かすかにカズミの胸が痛む。
友だち以上になれたらいいのに……。
午後になっても、教室での美沙希の態度が変わることはなかった。
カズミには美沙希以外にも友だちがいる。
しかし美沙希は孤立している。フィールドでルアーを投げるときのいきいきとした彼女の姿は、片鱗もなかった。
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