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第8話 テキサスリグ
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ヤスジ川で釣りはじめて30分ほどが経過した。
美沙希は1匹の小バスを釣り上げていたが、カズミは地球を釣るばかりで、根がかりと格闘している。
このままだとカズミが釣りを嫌いになってしまう、と美沙希は不安になった。
彼女はカズミにテキサスリグを教えようと思った。
「琵琶さん、苦戦してるみたいね」
「根がかりばっかりだよー。釣りしてる時間より、仕掛けを直している時間の方が長いよ」
「ごめん。釣れるポイントほど根がかりも多いんだ。根がかりしにくいリグを教えるから」
「ノーシンカーリグ?」
「ノーシンカーはラインの変化であたりを取る釣りなの。初心者向きじゃない。琵琶さんにはまず、きちんと水底を感じる釣りの基本をマスターしてほしい」
「どうすればいいの?」
「バス釣りの基本、葦際でもゴロタ石でもガンガン攻められるテキサスリグを教えるね」
美沙希はウエストバックから砲弾型のバレットシンカーとオフセットフック、そして尻尾がくるりと回っているカーリーテールワームを取り出した。
「テキサスリグはねえ、こうやってオフセットフックの針先をワームに埋め込む仕掛けなの。釣り方は投げてゆっくりと底を引くズル引き。たまに止めてあたりを待つ感じ。バレットシンカーは根がかりしにくい形状だし、これでガンガン障害物周りを攻めてみて」
「これで釣れるの?」
「釣れるって信じて釣って。このカーリーテールがピロピロと動いて、魚を誘うから。釣れるかどうか疑っていると、釣れるものも釣れなくなっちゃうものなのよ」
「わかった。やってみるね」
カズミはバス釣りを再開した。
テキサスリグは確かに根がかりが少なく、引っかかってもはずしやすかった。ストレスなく釣りができた。
彼女は無心に投げては引き、投げては引きをくり返した。
夕方になった。太陽が沈みかけ、あたりが薄暗くなってきた。
美沙希は4匹のバスを手にしていたが、カズミはノーフィッシュのままだった。
「今日はもうだめかなぁ」と美沙希が言った。
「もう少しがんばる。まだラインが見えるから」
カズミは釣りつづけた。
クっと竿が引っ張られたような違和感があった。
カズミはロッドをグッと合わせた。
ビクビクっと竿先に魚の抵抗が伝わってきた。
「釣れたかもっ!」
「がんばって釣り上げて!」
カズミはリールを巻いた。
バシャバシャと魚が水面で暴れた。ブルーギルではない。体色は深緑で、紛れもなくブラックバスだ。
カズミはバスを抜き上げた。
「やったよ! 釣った!」
それは25センチぐらいのバスだった。
「初バスおめでとう!」
「ありがとう! めっちゃうれしい! 楽しい! 最高の気分だよ!」
「私もうれしいよ。釣ってくれてありがとう!」
美沙希とカズミははしゃいでいた。
「あたしたち、釣り仲間になれるかな?」
「これからも一緒に釣りする?」
「するする! 川村さんと一緒に釣るよ!」
美沙希の目が少し潤んだ。
「私、釣り以外になんの取り柄もないよ?」
「やさしいじゃん!」
「そうかな?」
美沙希は釣り道具をかたずけはじめた。
カズミも同じようにした。
「ねぇ、美沙希って呼んでいい?」
「いいよ。私はカズミ……でいいのかな?」
「もちろんだよ!」
夕焼けがふたりをあたたかく照らしていた。
美沙希は1匹の小バスを釣り上げていたが、カズミは地球を釣るばかりで、根がかりと格闘している。
このままだとカズミが釣りを嫌いになってしまう、と美沙希は不安になった。
彼女はカズミにテキサスリグを教えようと思った。
「琵琶さん、苦戦してるみたいね」
「根がかりばっかりだよー。釣りしてる時間より、仕掛けを直している時間の方が長いよ」
「ごめん。釣れるポイントほど根がかりも多いんだ。根がかりしにくいリグを教えるから」
「ノーシンカーリグ?」
「ノーシンカーはラインの変化であたりを取る釣りなの。初心者向きじゃない。琵琶さんにはまず、きちんと水底を感じる釣りの基本をマスターしてほしい」
「どうすればいいの?」
「バス釣りの基本、葦際でもゴロタ石でもガンガン攻められるテキサスリグを教えるね」
美沙希はウエストバックから砲弾型のバレットシンカーとオフセットフック、そして尻尾がくるりと回っているカーリーテールワームを取り出した。
「テキサスリグはねえ、こうやってオフセットフックの針先をワームに埋め込む仕掛けなの。釣り方は投げてゆっくりと底を引くズル引き。たまに止めてあたりを待つ感じ。バレットシンカーは根がかりしにくい形状だし、これでガンガン障害物周りを攻めてみて」
「これで釣れるの?」
「釣れるって信じて釣って。このカーリーテールがピロピロと動いて、魚を誘うから。釣れるかどうか疑っていると、釣れるものも釣れなくなっちゃうものなのよ」
「わかった。やってみるね」
カズミはバス釣りを再開した。
テキサスリグは確かに根がかりが少なく、引っかかってもはずしやすかった。ストレスなく釣りができた。
彼女は無心に投げては引き、投げては引きをくり返した。
夕方になった。太陽が沈みかけ、あたりが薄暗くなってきた。
美沙希は4匹のバスを手にしていたが、カズミはノーフィッシュのままだった。
「今日はもうだめかなぁ」と美沙希が言った。
「もう少しがんばる。まだラインが見えるから」
カズミは釣りつづけた。
クっと竿が引っ張られたような違和感があった。
カズミはロッドをグッと合わせた。
ビクビクっと竿先に魚の抵抗が伝わってきた。
「釣れたかもっ!」
「がんばって釣り上げて!」
カズミはリールを巻いた。
バシャバシャと魚が水面で暴れた。ブルーギルではない。体色は深緑で、紛れもなくブラックバスだ。
カズミはバスを抜き上げた。
「やったよ! 釣った!」
それは25センチぐらいのバスだった。
「初バスおめでとう!」
「ありがとう! めっちゃうれしい! 楽しい! 最高の気分だよ!」
「私もうれしいよ。釣ってくれてありがとう!」
美沙希とカズミははしゃいでいた。
「あたしたち、釣り仲間になれるかな?」
「これからも一緒に釣りする?」
「するする! 川村さんと一緒に釣るよ!」
美沙希の目が少し潤んだ。
「私、釣り以外になんの取り柄もないよ?」
「やさしいじゃん!」
「そうかな?」
美沙希は釣り道具をかたずけはじめた。
カズミも同じようにした。
「ねぇ、美沙希って呼んでいい?」
「いいよ。私はカズミ……でいいのかな?」
「もちろんだよ!」
夕焼けがふたりをあたたかく照らしていた。
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