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最終回 茶臼岳に誓う
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旅行2日め。
起きてすぐに、綾乃と女湯へ行った。昨日入った混浴大露天風呂ほどすごいお風呂ではなかったけれど、気持ちのいい温泉だった。朝風呂最高。この旅行で何回最高と言っているのかわからなくなってきた。たぶん茶臼岳でも最高と言うのだろう。
朝食も最高。鮎の一夜干しが絶品。ここの料理は鮎が特にいい。
大丸温泉旅館から立ち去りがたい。
朝食後、思い切って、また混浴に入ってしまった。ここ広くて風情があっていいなぁ。
「ねぇ綾乃、お金貯めて、また来ようよ」
「うん。また来たい」
10時にチェックアウトした。
路線バスで那須ロープウェイ山麓駅へ向かう。
切符を買って、乗り込む。
ロープウェイからの眺めは豪快だった。山麓駅のあたりですでに森林限界に達していて、低い灌木と高山植物しか生えていない。山裾まで広大な緑が広がっていて、遠くの別の山も美しい。一瞬ロープウェイが霧に包まれ、それを脱すると雲が視界の下になっていた。
山頂駅で降りる。実際の山頂はもう少し上。しばらく登ることになる。8月なのに涼しい。
砂礫の道を登っていった。
「茶臼岳って、日本百名山なんだよね。ボク、百名山に登るの初めて」
「わたしは筑波山に行ったことがあるよ」
「筑波山って、百名山なの?」
「そうよ」
傾斜は急だが、広々とした道なので、滑落の心配はない。
途中から様相が変わってきた。岩がごろごろしている。
足を挫かないように気をつけないと。
ボクも綾乃も登山が趣味というわけではない。今日のために登山靴を買った。
でも山は気持ちいいな。登山を趣味にするのもいいかも。
どんどん岩石が増えてきた。登るのがしんどい。息が上がってきたので、ゆっくりと歩く。ペットボトルに入ったスポーツドリンクを飲む。
景色がさらに壮大になっていく。高山の風景って素敵。林にさえぎられることなく、視界が広い。下界とは別世界。
「すごい景色だね」
「すごい景色だよ」
岩だらけの難所を超えると、鳥居があった。山頂に到着したのだ。標高1915メートル。
360度のパノラマビュー。ハッピー!
山頂の岩に綾乃と隣り合って座り、眼下に広がる山と雲海を眺めた。
しばらくは二人とも声もなく感動していた。やっぱり最高じゃん。
15分ばかりぼーっと風景を眺めてから、話し出した。
「綾乃、最近小説書いてる?」
「書いてない。書けない。当分無理じゃないかな。あの人が死んじゃったから、そういう力はない。無心でバイトするとかはできるけれど、自分の心と向き合う創作はできない」
「そうか。そうだよね」
「輝は?」
「ボクは最近バリバリ書いているよ。清少納言を主人公にした小説なんだ」
「平安時代のことを書いているの?」
「ちがうよ。清少納言が不老不死で現代も生きているって設定なの」
「面白そうだね」
「面白いものになるよう奮闘している」
「がんばれ」
「がんばる。ボクはやっぱり文章を書くのが好き。作家になりたい。挑戦し続けるって、茶臼岳と綾乃に誓うよ」
「茶臼岳とわたしに誓うの?」
「そうだよ」
「もし挫折したら、わたしのものになりなさい」
「いいよ。挫折したら綾乃のものになる」
「挫折しろ、輝」
「綾乃、ひどい」
「ぷはははは」
綾乃の元気な笑い声を久しぶりに聞いた。
「で、茶臼岳にはどうするの?」
「まだ挫折したときの話をするの?」
「うん」
「またここに来て、大声でごめんなさーいって、謝る」
「それ見たい。挫折して、輝」
「綾乃がひどすぎる。謝罪を要求する」
「ごめん。本当は輝を応援しているよ。小説家になって、愛詩輝!」
「うん。改めて誓うよ、空鳥綾乃!」
最高の日だ。
帰りたくない。
でもすぐにでも帰って、小説を書きたい。
ボクは小説を書きたいんだ。
起きてすぐに、綾乃と女湯へ行った。昨日入った混浴大露天風呂ほどすごいお風呂ではなかったけれど、気持ちのいい温泉だった。朝風呂最高。この旅行で何回最高と言っているのかわからなくなってきた。たぶん茶臼岳でも最高と言うのだろう。
朝食も最高。鮎の一夜干しが絶品。ここの料理は鮎が特にいい。
大丸温泉旅館から立ち去りがたい。
朝食後、思い切って、また混浴に入ってしまった。ここ広くて風情があっていいなぁ。
「ねぇ綾乃、お金貯めて、また来ようよ」
「うん。また来たい」
10時にチェックアウトした。
路線バスで那須ロープウェイ山麓駅へ向かう。
切符を買って、乗り込む。
ロープウェイからの眺めは豪快だった。山麓駅のあたりですでに森林限界に達していて、低い灌木と高山植物しか生えていない。山裾まで広大な緑が広がっていて、遠くの別の山も美しい。一瞬ロープウェイが霧に包まれ、それを脱すると雲が視界の下になっていた。
山頂駅で降りる。実際の山頂はもう少し上。しばらく登ることになる。8月なのに涼しい。
砂礫の道を登っていった。
「茶臼岳って、日本百名山なんだよね。ボク、百名山に登るの初めて」
「わたしは筑波山に行ったことがあるよ」
「筑波山って、百名山なの?」
「そうよ」
傾斜は急だが、広々とした道なので、滑落の心配はない。
途中から様相が変わってきた。岩がごろごろしている。
足を挫かないように気をつけないと。
ボクも綾乃も登山が趣味というわけではない。今日のために登山靴を買った。
でも山は気持ちいいな。登山を趣味にするのもいいかも。
どんどん岩石が増えてきた。登るのがしんどい。息が上がってきたので、ゆっくりと歩く。ペットボトルに入ったスポーツドリンクを飲む。
景色がさらに壮大になっていく。高山の風景って素敵。林にさえぎられることなく、視界が広い。下界とは別世界。
「すごい景色だね」
「すごい景色だよ」
岩だらけの難所を超えると、鳥居があった。山頂に到着したのだ。標高1915メートル。
360度のパノラマビュー。ハッピー!
山頂の岩に綾乃と隣り合って座り、眼下に広がる山と雲海を眺めた。
しばらくは二人とも声もなく感動していた。やっぱり最高じゃん。
15分ばかりぼーっと風景を眺めてから、話し出した。
「綾乃、最近小説書いてる?」
「書いてない。書けない。当分無理じゃないかな。あの人が死んじゃったから、そういう力はない。無心でバイトするとかはできるけれど、自分の心と向き合う創作はできない」
「そうか。そうだよね」
「輝は?」
「ボクは最近バリバリ書いているよ。清少納言を主人公にした小説なんだ」
「平安時代のことを書いているの?」
「ちがうよ。清少納言が不老不死で現代も生きているって設定なの」
「面白そうだね」
「面白いものになるよう奮闘している」
「がんばれ」
「がんばる。ボクはやっぱり文章を書くのが好き。作家になりたい。挑戦し続けるって、茶臼岳と綾乃に誓うよ」
「茶臼岳とわたしに誓うの?」
「そうだよ」
「もし挫折したら、わたしのものになりなさい」
「いいよ。挫折したら綾乃のものになる」
「挫折しろ、輝」
「綾乃、ひどい」
「ぷはははは」
綾乃の元気な笑い声を久しぶりに聞いた。
「で、茶臼岳にはどうするの?」
「まだ挫折したときの話をするの?」
「うん」
「またここに来て、大声でごめんなさーいって、謝る」
「それ見たい。挫折して、輝」
「綾乃がひどすぎる。謝罪を要求する」
「ごめん。本当は輝を応援しているよ。小説家になって、愛詩輝!」
「うん。改めて誓うよ、空鳥綾乃!」
最高の日だ。
帰りたくない。
でもすぐにでも帰って、小説を書きたい。
ボクは小説を書きたいんだ。
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