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映画鑑賞デート
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昨日は小説が書けなくて落ち込んだけど、今日はバリバリ書けた。
大学の古典文学講義で学んだ「枕草子」の作者清少納言が不老不死で、現代も生きていたらどう行動し何を書くだろうと想像して書き始めたら、筆が乗ってずんずん書けた。
「清の千年物語」とタイトルをつけた。そこそこ長い話になりそうだ。しばらく書き続けよう。
ところで、パソコンで小説を書く時代に執筆という表現は生きているのだろうか。打鍵という言葉は執筆のかわりになっていないから、たぶん生きているんだよね。
綾乃に電話して、旅行先は那須湯本温泉でどうかなと提案した。
「いいね。すごく楽しみ」
「バイト忙しい?」
「忙しい。でも輝と那須に行けるなら、楽勝でがんばれる。そっちは夏休みどうしてる?」
「昨日は小説が書けなくてへこんでた。今日はさくさく書けて楽しい。那須の宿泊したいホテルは豪華だから、ボクもバイトしなくちゃ。1泊2日でいい?」
「いいよ。てか2泊豪華なホテルは金銭的に無理」
「8月下旬でいいかな。今ならギリ部屋が空いているんだ」
「予約して!」
ボクはすぐにネットで予約した。日にちを綾乃に伝えた。
「うわー、輝と旅行、宿泊旅行!」
「変なことしたらだめだからね」
「輝との今の関係を壊すようなことはしないよぉ」
「じゃあ、また連絡するよ。旅行のことをもっと詳しく説明したいから、近いうちに会おう」
「ラジャー」
旅の予定は成立した。
アルバイトをネットで探した。簡単な食品や玩具の販売というのがあり、時給がよかったので、これにしようと決めた。
面接に行き、時給がよいのには理由があると知った。当たり前だよね。
的屋さんだった。面接をしたお屋敷の中には鎧兜が飾ってあった。ちょっとびびったが、ボクは8月上旬にそのバイトを入れた。
縁日って、毎日どこかしらであるんだね。
ボクはかき氷の露店を任された。てんてこ舞いになるような忙しい仕事だった。
夏のかき氷は飛ぶように売れる。電動かき氷機でじゃんじゃん氷を削り、紙カップにたっぷりと入れ、シロップをかけて、お客さんに渡す。お金をもらい、つり銭を返す。それが延々と続く。
初日はめちゃくちゃ疲れた。
綾乃との旅行のためだ。それとこの機会に自由に使えるお金を稼いでおきたい。
夏休み中、SF研は毎週火曜日に定例会を行うことになっていたが、バイト優先で休んだ。
綾乃とは時間を見つけて会い、旅行のことを詳しく相談した。新幹線やバスの時刻表を睨んで細かく計画を立てた。
彼女とは週に2回ぐらい昼食を食べたり、お茶をしたりして遊んだ。的屋は夜の仕事なので、ランチタイムは暇なのだ。綾乃は気が合う相手なので、いくらでも雑談ができた。深刻な話はしていない。
14日間連続でバイトして、やめた。
ボクとしては高額な収入を得た。
バイトが終わった翌日、尾瀬さんから電話がかかってきた。挨拶を交わした後、映画鑑賞のお誘いがかかった。デート?
「『2001年宇宙の旅』が名画座で上映されるんだ。スクリーンで見るべき映画だから、どうかなと思って。おれはもう見たことがあるんだけど、また大きな画面で見たくてね……」
「いいですね。連れて行ってください」
今はSF研の中では尾瀬さんが一番好ましい男性だと思っている。恋愛感情ではないけれど、断る理由はない。
8月中旬の暑すぎる日に『2001年宇宙の旅』を見た。確かに見るべき映画だった。アート! スタンリー・キューブリック監督すごい。
映画鑑賞後、二人で居酒屋に入った。尾瀬さんは生ビールを注文し、ボクはジョッキに入っている金色の炭酸飲料を頼んだ。食べ物は焼き鳥とモツ煮込み。焼き鳥はピリ辛のみそだれで、モツはいろんな部位が入っていて、どちらもめっちゃ旨かった。
尾瀬さんいい店知っているな。ボクの中でまた彼の株が上がった。
「藤原が愛詩さんのお姉さんにフラれた……」という驚くべき情報を尾瀬さんから得た。そんなことになっていたのか。知らなかった。
「あいつは映画の編集作業を張り切ってやっていたんだが、愛詩手世さんから映画音楽の完成データをもらった日に告白して、玉砕して、編集が手につかなくなった……」
そうか。ボクには関係ない。会長がんばれ。
「愛詩さん、最近SF研に来ないね。興味なくなったのかな。やめるの……?」
どうしようかな。尾瀬さんとのつながりはいちおう残しておきたい。
「やめませんよ、今のところは。また行きます」
「映画で作業が残っているのは藤原だけだから、残りのメンバーで会誌を作って、学祭で売ろうという話になっているんだ。まぁ、ショボいコピー誌なんだけど。内容はSF小説とか評論とか……」
「面白そうですね。ボクも何か書いたら載せてもらえるんですか?」
「もちろんだよ……」
乗り気になった。ボクの出演映画の上映もあるんだし、学祭まではSF研に所属していよう。
その後は尾瀬さんのSF愛にあふれる話を聞いた。小松左京と阪神・淡路大震災の話が心に残った。
左京先生は大阪在住で、震災後、猛烈に働いたらしい。ある有名な学者に高速道路がなぜ倒れたか共に検証したいと申し入れたが、「地震が予測を遥かに超えていただけ。私たちに責任はない」という予想もしていなかった言葉で断られ、ショックを受けたそうだ。震災に関する本も刊行したが、ついには鬱病をわずらった。
尾瀬さんの目はときに真摯で、ときに少年のようにキラキラしていた。
この人はいいな。
大学の古典文学講義で学んだ「枕草子」の作者清少納言が不老不死で、現代も生きていたらどう行動し何を書くだろうと想像して書き始めたら、筆が乗ってずんずん書けた。
「清の千年物語」とタイトルをつけた。そこそこ長い話になりそうだ。しばらく書き続けよう。
ところで、パソコンで小説を書く時代に執筆という表現は生きているのだろうか。打鍵という言葉は執筆のかわりになっていないから、たぶん生きているんだよね。
綾乃に電話して、旅行先は那須湯本温泉でどうかなと提案した。
「いいね。すごく楽しみ」
「バイト忙しい?」
「忙しい。でも輝と那須に行けるなら、楽勝でがんばれる。そっちは夏休みどうしてる?」
「昨日は小説が書けなくてへこんでた。今日はさくさく書けて楽しい。那須の宿泊したいホテルは豪華だから、ボクもバイトしなくちゃ。1泊2日でいい?」
「いいよ。てか2泊豪華なホテルは金銭的に無理」
「8月下旬でいいかな。今ならギリ部屋が空いているんだ」
「予約して!」
ボクはすぐにネットで予約した。日にちを綾乃に伝えた。
「うわー、輝と旅行、宿泊旅行!」
「変なことしたらだめだからね」
「輝との今の関係を壊すようなことはしないよぉ」
「じゃあ、また連絡するよ。旅行のことをもっと詳しく説明したいから、近いうちに会おう」
「ラジャー」
旅の予定は成立した。
アルバイトをネットで探した。簡単な食品や玩具の販売というのがあり、時給がよかったので、これにしようと決めた。
面接に行き、時給がよいのには理由があると知った。当たり前だよね。
的屋さんだった。面接をしたお屋敷の中には鎧兜が飾ってあった。ちょっとびびったが、ボクは8月上旬にそのバイトを入れた。
縁日って、毎日どこかしらであるんだね。
ボクはかき氷の露店を任された。てんてこ舞いになるような忙しい仕事だった。
夏のかき氷は飛ぶように売れる。電動かき氷機でじゃんじゃん氷を削り、紙カップにたっぷりと入れ、シロップをかけて、お客さんに渡す。お金をもらい、つり銭を返す。それが延々と続く。
初日はめちゃくちゃ疲れた。
綾乃との旅行のためだ。それとこの機会に自由に使えるお金を稼いでおきたい。
夏休み中、SF研は毎週火曜日に定例会を行うことになっていたが、バイト優先で休んだ。
綾乃とは時間を見つけて会い、旅行のことを詳しく相談した。新幹線やバスの時刻表を睨んで細かく計画を立てた。
彼女とは週に2回ぐらい昼食を食べたり、お茶をしたりして遊んだ。的屋は夜の仕事なので、ランチタイムは暇なのだ。綾乃は気が合う相手なので、いくらでも雑談ができた。深刻な話はしていない。
14日間連続でバイトして、やめた。
ボクとしては高額な収入を得た。
バイトが終わった翌日、尾瀬さんから電話がかかってきた。挨拶を交わした後、映画鑑賞のお誘いがかかった。デート?
「『2001年宇宙の旅』が名画座で上映されるんだ。スクリーンで見るべき映画だから、どうかなと思って。おれはもう見たことがあるんだけど、また大きな画面で見たくてね……」
「いいですね。連れて行ってください」
今はSF研の中では尾瀬さんが一番好ましい男性だと思っている。恋愛感情ではないけれど、断る理由はない。
8月中旬の暑すぎる日に『2001年宇宙の旅』を見た。確かに見るべき映画だった。アート! スタンリー・キューブリック監督すごい。
映画鑑賞後、二人で居酒屋に入った。尾瀬さんは生ビールを注文し、ボクはジョッキに入っている金色の炭酸飲料を頼んだ。食べ物は焼き鳥とモツ煮込み。焼き鳥はピリ辛のみそだれで、モツはいろんな部位が入っていて、どちらもめっちゃ旨かった。
尾瀬さんいい店知っているな。ボクの中でまた彼の株が上がった。
「藤原が愛詩さんのお姉さんにフラれた……」という驚くべき情報を尾瀬さんから得た。そんなことになっていたのか。知らなかった。
「あいつは映画の編集作業を張り切ってやっていたんだが、愛詩手世さんから映画音楽の完成データをもらった日に告白して、玉砕して、編集が手につかなくなった……」
そうか。ボクには関係ない。会長がんばれ。
「愛詩さん、最近SF研に来ないね。興味なくなったのかな。やめるの……?」
どうしようかな。尾瀬さんとのつながりはいちおう残しておきたい。
「やめませんよ、今のところは。また行きます」
「映画で作業が残っているのは藤原だけだから、残りのメンバーで会誌を作って、学祭で売ろうという話になっているんだ。まぁ、ショボいコピー誌なんだけど。内容はSF小説とか評論とか……」
「面白そうですね。ボクも何か書いたら載せてもらえるんですか?」
「もちろんだよ……」
乗り気になった。ボクの出演映画の上映もあるんだし、学祭まではSF研に所属していよう。
その後は尾瀬さんのSF愛にあふれる話を聞いた。小松左京と阪神・淡路大震災の話が心に残った。
左京先生は大阪在住で、震災後、猛烈に働いたらしい。ある有名な学者に高速道路がなぜ倒れたか共に検証したいと申し入れたが、「地震が予測を遥かに超えていただけ。私たちに責任はない」という予想もしていなかった言葉で断られ、ショックを受けたそうだ。震災に関する本も刊行したが、ついには鬱病をわずらった。
尾瀬さんの目はときに真摯で、ときに少年のようにキラキラしていた。
この人はいいな。
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