作家志望愛詩輝の私小説

みらいつりびと

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イジられる愛詩輝

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 ボクが映画撮影でへそ出しゴスロリを着ることを話したら、綾乃が強烈に食いついてきた。
「なにそれ見たいんだけど。見たい見たい見たい見せて」
「映画を見てくれれば見られるよ」
「生で見たい。今日見たい」
「今日かよ」
「輝ぅ。ね、見せて。お願い~」
「仕方ないなぁ。ボクの家に来る?」
「行く行く。やったぁ!」
 というわけで、ボクは空鳥綾乃を連れて帰宅した。
「お茶とお菓子でも出そうか?」
「そんなの後でいいから。衣装を着て、見せて!」
 ボクは今着ている服を脱いだ。下着姿を綾乃が凝視している。その目はうっとりしていて、頬は赤らんでいた。
「輝、肌キレー。きめ細かー。透き通るような白さっ!」
「恥ずかしいから、ドアの方を向いてて」
「いいじゃん、同じ女の子同士、恥ずかしがる必要はないよ」
「綾乃はバイセクシュアルなんでしょ。その目、なんかいやらしい」
「腰のくびれがたまらない。綺麗だ、輝。押し倒したい」
「着替え見るの禁止!」
 綾乃がやっとボクから目を逸らした。へそ出しゴシックロリータを着た。チェーンや鎖がついている黒い服。革のベルト。おへそ丸出し。スカートは短く、白のニーハイソックスとの間に絶対領域が露出している。新品の黒いブーツも履いた。
「着たよ」
「きゃーっ、カワイー。エロ格好いい!」
 綾乃が興奮して叫んだ。目を輝かせ、頭のてっぺんからつま先までを鑑賞された。ボクに抱きつかんばかりに急接近して、お腹をつん、を指で突かれた。つんつんつん。
「きゃんっ、やめてよ!」
「やわらかいー。たまらん」
 次に彼女はボクから少し距離を取り、許可も取らずにスマホで撮影しやがった。
「やめてよっ。撮影禁止!」
「どうせ映画撮影するんでしょ。よいではないか」
 ボクは写真を消去するためにスマホを奪おうとした。綾乃は猫のようにするりと逃げた。
「お宝写真だ。待ち受けにしようかなっ」
「だめぇ!」
 ボクと綾乃が部屋の中で追いかけっこしていると、手世姉さんと川島ルビーさんが入って来た。ボクと姉は同じ部屋で起居している。
 二人もボクをガン見した。
「輝、なんて格好してるんだ。エロいぞ」
「きゃあああ。輝ちゃん、かわいいですぅ」
 川島さんが自分の両手で頬を押さえた。瞳がキラキラしている。彼女もボクに接近し、躊躇なくハグした。
「あああっ、わたしもっ」
 綾乃が川島さんごとボクを抱きしめた。
「やめてぇっ」
 ボクは叫んだが、二人ともしばらく離れなかった。
「何を騒いているんだ?」
 ぎゃあっ、方兄さんまで部屋に入ってきた。えっ、今日はお仕事じゃないの?
「て、輝! その格好は!」
 兄貴はシスコンである。ボクを愛している。綾乃以上に凝視された。
「かっ、かっ、かわいい……」
 鼻血がつーっ、と流れた。妹を見て興奮しないでよっ。
「おまえの縦長のへそが美しい。太ももの太さが絶妙すぎる」
 変態だっ、ボクの兄は変態だっ。
「みんな出てって!」
 兄はさすがに出て行った。綾乃はすました顔で「お茶でも出してよ」と言い、姉と川島さんは「アレンジしよう」「そうしましょう」とか話して離れた。
 ボクは緑茶とカステラを綾乃に出した。
「はぁ、眼福」
「なんかクランクインが怖くなってきた」
「覚悟決めなよ。似合ってるから」
「ありがと。やるしかないんだよね」
 姉さんと川島さんはパソコンで音を鳴らしている。DTMで映画音楽のアレンジをしているのだ。「シンセでウラメロを足したい」「あんまり音を足し過ぎるとメロディが際立たないです」「ドラムは派手にジャンジャン鳴らしたいよな。ハイハットで16ビートを刻んで、シンバルシャーン、キックはドドド」「だめですよぉ」
 きっといい曲ができるよね?
「お姉さんはミュージシャンなんだね」
「うん。『女神ーず』っていうバンドのボーカル。『インディーズの姫君』なんて呼ばれてる。格好いいでしょ?」
「わたしは輝の方が好み」
 綾乃がまたボクのお腹をつんした。
「出禁にするよ」
「にひひ。もうしないよ」
「写真消去して」
「美少年のイメージがあったけど、ゴスロリ着ると女の子だねぇ。はあぁ、色っぽい」
「消去」
「輝は『ワルキューレの姫君』だ」
 綾乃はあくまでも写真を死守する構えだ。ボクはあきらめた。
 クランクインは明日。
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